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第九六話 秦王の大志

 秦王は魏冄と白起に、天下統一の大志について語る。

 紀元前285年(昭襄王22年) 咸陽


 国尉白起は、重大な件について会合をする為、丞相魏冄と秦王の三人で会った。

「先日、蘇秦は燕国内の軍がまとまり、今が斉を討つ為の好機であることを伝えてくれました。我が秦軍は数年にわたり戦を避けたことで英気を養い、また武具兵糧も十分です。軍馬も健康で数も多く、秣も十分。進軍する為の道路も調査しましたが、全て整理されており、速やかに東へ向かうことができます」

 白起の報告を聞いた丞相魏冄は、髭を撫でながら、秦王へいった。

「うむ。しからば、我が軍も合従軍の一員として、いつでも進軍の命令を下せましょう。将兵の数や士気を鑑みれば、高い戦果は確実です。さすれば、我が秦を、誰も手出ができないほどの一大強国と成すことができます」

「陶公よ、余は、一大強国などというものに興味はない。この頃はこう思うのだ。余は九鼎を手にし、夏の正統後継国として、殷の血族の国である宋を滅ぼした。力が拮抗する斉を滅ぼした後、一体誰が、余の好敵手と成りうるのだろうか」

「故に……一大強国と申したのです。好敵手など、世界からいなくなります」

「ならば残りの国は、存在する必要があるのか。余はこう思う。かつて秦の丞相であり、蘇秦の兄弟子であった張儀は、こう考えた。一国が天下を統一すれば、世界から戦はなくなり、東西南北に広がる異民族が束になって襲いかかって来ようとも、一丸となり撃退できるこの上なく強大な力を得ることができるのだと」

「つまり……目指す先は一大強国ではなく……!」

「天下統一だ。天下を平らにし、国境線などという無意味な壁を消し去るのだ」

 白起は胸が高まるのを感じた。文官の仕事や訓練の視察にのみ明け暮れていた日々から抜け出し、再び戦ができるようになる。天下統一という一大事業であれば、敵は天下の全ての国であり、生涯を費やすことができるのだ。

「白起よ、そなたは地図の中心に、秦の名を記したくはないか」

「記しとうございます。国境線の黒い墨を消し去り、まっ白な地図にしとうございます!」

「ならば余に力を貸せ。君臣一体となって、この大志を支えてくれ!」

 白起は拱手をし、秦王が掲げる大志の一助となる為、身を粉にして戦う意志を表明した。魏冄は、その白起の心の変化を見て、少し焦りを感じながらも、同じように拱手をした。



 同年 宛


 丞相魏冄は秦王の大志を夢物語だと思いながら、どこか甘美さがあるように感じた。しかし髪も白くなった自分には、大きすぎて果てしないものだとも感じた。

 魏冄は丞相として、宛の地で楚の令尹屈原との会合に臨んだ。

「老臣には……今まで通りの仕事しかできぬ。秦王様や白起が思い描く世界を見てみたいとも思うが……」

 従者に、そう本音を吐露する。その直後現れた令尹屈原と拱手をし、池が見える東屋の下で、会合を始めた。議題は、両国の安全保障についてである。

 魏冄は、他国を全て滅ぼそうという志に甘美さを感じながら、他国の宰相と、互いに攻め込まぬようにと約束をするその面の皮の厚さに、矛盾を感じた。しかし外交とはそういうものであり、この努力の積み重ねの先にどんな結末が待ち構えているのかは分からないと思った。

 魏冄は今まで以上に、秦王という底知れぬ野心を持った存在に、高揚感に似た興奮を感じるようになっていた。

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