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第七七話 灯篭

 合従軍が去った後、垣邑へ戻った蒙武は、女性の店へ向かう。

 垣邑 


 合従軍が完全に退くまで、蒙武は父の蒙驁や摎とともに、高い岡の麓で野営をしていた。彼らが前線基地の垣邑へ戻ったのは、出撃した部隊の中で、最も遅かった。

 蒙武の部隊が戻ったと知ったとある女性が、城門の近くで待っていた。蒙武を見つけるなり、その女性は彼の名前を叫んだ。「蒙武さん!」と彼女が叫ぶ声に、蒙武は反応した。もしやと思い声を方を振り返ると、そこにいたのは、あの日ともに食卓を囲った女性であった。

 蒙武は、笑みを浮かべながら、拳を掲げた。真っ直ぐに彼女を見つめる潤んだ瞳には、自分と同じように潤んだ目で、真っ直ぐこちらを見つめてくる彼女の姿が映っていた。

 陣営に戻り、点呼を取った。それからすぐに解散となり、怪我のない兵は各々の時間を過ごすことになった。

 蒙武は蒙驁に、博打に行こうと誘われるも、断った。蒙驁は、蒙武の体調が優れないのだと勘繰ったが、摎があいだに入って、蒙武を行かせた。

「倅はどうしてしまったのだ。矢傷でも隠してたりは……」

「子煩悩だな蒙驁。安心しろ、そなたの倅は、元気に育っておるわ」

「どういう意味だ摎よ!」

「やれやれ、そなたは戦場(いくさば)では頭がキレるのに、本当にどうしようもないな」

 華奢で美形の摎には、こういうことはよくあった。彼はそういう意味では孤高な存在だった。だがどこか母性のようなものがあり、蒙武を息子のように可愛がっていた。

 蒙驁は怪訝に感じたが、息子が子供の頃からともに見守ってくれていた摎がいうなら、大丈夫なのだろうと、そう思って飲み込んだ。


 やっとの思いで街に出た蒙武は、彼女の店へ向かった。そこには、落ち着きもなく家を掃除する彼女がいた。

「蒙武さん……!」

「そなたが見えたので、来てしまった。なぜ掃除など……?」

「汚い家に、英雄を迎えるのはお恥ずかしいので……」

 少し顔を赤らめ俯く彼女が、妙に色っぽく感じられた。

 蒙武が来たことに気づいた店主は、気を利かせて、夕飯を作るまで二人で外で待つようにといってくれた。

 蒙武は、どこへ行ったらいいのかも分からず、城内の高台を登った。日が落ちだし、灯篭に火が灯りだした街の景色は、美しかった。

 それまで、二人は妙に気まずく、無言だった。だが美しい景色を前に、蒙武は意を決して口を開いた。

「そなたの名は、なんというのだろうか」

「姓は曹で、名は麗華です。麗しい華で、麗華です」

「いい名だ。字も美しい。響きではなく、意味を理解して付けた名なのだろう。まるで、豪族のような雅さと、知性を感じさせる名だ」

 麗華は口元を裾で隠しながら、笑った。

「褒めすぎです」

「お、思ったことを……いったまでだ!」

「その……ありがとう」

 二人は数秒見詰めあった。照れくさくなって、互いに目を逸らした。高台にも灯りが灯されだしてから、完全に空が暗くなっていることに気がついた。

 時を忘れて、没頭しすぎていたらしい。

 灯篭の灯りに照らされる上目遣いの麗華に、蒙武は見惚れた。

「俺は……優れたいい回しなどできないから、また思ったままにいわせてくれ」

「聞かせて……?」

「そなたは……可愛らしいな」

 紅くなった顔は灯篭の灯りのせいにして、二人は、夕食を食べに家へ戻った。

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