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十一話6

それから程なくして透達がやって来た。


普通の乗用車で。


いやね、総勢五人は狭いかなとか思う前に、御曹司設定を考えるともう少し…………


「んで、なんでこんな配置?」


早速全員乗り込んで出発したわけだが、前に二人、後ろに三人で乗ってるのだが、何故か透の恋人さんを差し置いて藤谷が助手席に座っていた。


「あら、男の肩幅いれたら狭いじゃない。こうした方が効率的よ」


外行き用の顔ですよ。口癖が出る時は冷たい口調になるし。


「息ピッタリね二人共、流石は夫婦?」


今のは詩織さん、いつもニコニコ笑顔の女性、のイメージが強い。透の隣に立つには似合いすぎるぐらいの人だ。


美々とは違ってやっぱり大人の色気が――――


「みみふぁんふぅいまふぇんふぇひふぁ」


引き千切られるんじゃないかという強さで頬を引っ張られてる。


あっ、なんか頬から嫌な音が聞こえてくる。


「本当に藤谷と美々さ、香里さんは仲が良いね」


「ふぉんほうにふぉうみふぇる?」


補足するとさっきのはただ謝ってます。今のは『本当にそう見える?』と言ったつもりなんだが。


意外にギャグっぽく見えるが、頬がヤバい、俺の頬がそろそろヤバい。


さっきからアイの声が聞こえてこないな。


振り返ろ………うにも頬が固定されてるので、口に出してみようかと思うと返答がくる。


「アイなら寝てるわ。着いたら起こす。だから貴方は安心して」


「いっひゃいなにふぉ!?」


もう補足するのも面倒なんで、もう止めてください。


藤谷が泣いてると、もう一組のカップルは二人で微笑んでいた。藤谷はその世界が恐ろしく遠く見えて涙が止まらなかった。








「これなら藤谷も文句ないだろ?」


「まぁ、これならな」


高温の鉄板、ヘラ、直で言っちゃえばお好み焼きなんですがね。


こんだけ普通なら何も文句はないな。


アイなんて金属のヘラ見て自分の顔が写るのに驚いてるし、目が思い切り見開かれて興味津々といったご様子で。


家からあまり遠くないお好み焼き屋、多分調べてくれたんだろう。こういうところ透は気を遣いすぎなんだよ。


「透、ありがとな」


「ああ、僕達は友達だろ?」


二人で笑いあう。


「透さん、はい、あーん」


「藤谷さん、はい、あーん」


「あっ、とうや、あーん」


二人の前に箸で切り分けられたお好み焼きが現れる。藤谷の前にはそれプラスヘラの上に載ったお好み焼きが差し出される。


アイ、そのヘラはさ、さっきまでお好み焼き作るのに使ってたよな。すんごく熱そうだ。


そして、最近美々の真似するのに嵌ってるのか?








香里美々は考える。


基本的によく考えるのが習慣であり、趣味みたいなものだったりする。


ただ簡単な事を深く考えたり、色々と仮説を立てたりするのが好きだ。


そして、


「ようやく二人きりになれたね」


「そうですね。お手洗いで二人きりなんて情緒溢れ過ぎて泣きそうです」


美々と詩織は対峙していた。


「なんだか藤谷君みたいねその口調」


うふふ、と態とらしく詩織は笑う。


そう、態とらしく、だ。


きっと藤谷は気付かないだろう。笑い方が態とらしいんだこの人は。


私の笑い方なんかよりよっぽど。


「私も貴方もお互い聞きたい事があるんじゃないですか?」


「うん、あるわね。では年上の私から聞こうかしら」

「ええ、どうぞ」


備え付けの鏡で自分の顔を確認する。


うん、問題ない。怖がってない。

実を言うと美々はあまり人と話すのが好きではない。実を言わなくても、か。


藤谷もきっとよく分かってる。分かってくれている。藤谷は私の本当を引き出してくれるから安心できる。だから、きっと好きなんだ。


「君は、透さんとくっついたら藤谷君をどうするつもりだった?」


美々が幸せな考えに逃げていると、詩織からの質問が始まった。


この聞方、美々が藤谷を絶対に放っておかないと確信があるのだろう。


「そうですね。どんな権力を行使してでも彼を手元に置きます。首輪をするぐらいに」


「そっか、やっぱりね」


ニコニコな女性の姿はない。猛禽類にも似た鋭い眼光を持つ女性の姿へと変貌していた。


「貴方も、透さんを諦める気はなかったんでしょう? 愛人でもなんでも」


「ええ、結局私達の利害は一致してたのね。嬉しいわ」


猛禽類の視線のまま笑われても、ちっとも気は抜けない。張る一方だ。


「少しでも私の透さんに想いがあったらそれを断ち切ろうと思っててね。でも、おあいこかな。私、藤谷君可愛いと思っちゃったもん」


詩織は妖艶に微笑みながら唇を人指し指でなぞった。


「そうですか。私は藤谷以外の男には興味ないので」


「もちろん私もよ。藤谷君は弟みたいな感じ?」


「そうですか」


「そしたらアナタは妹ね」


顔を寄せてくる詩織、美々は腰を後ろに少し倒し引いてしまう。


その動作ときっと驚いた表情が笑えたらしく詩織は高笑いをあげた。


「よかったよかった。アナタも結構気に入ったからね。仲良くなれそうで」


「ええ」


女達の対談は、藤谷達の知らないところで密かに始まり、終わった。

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