ありま氷炎様主催「平成最後に短編書こうよ」企画参加作品『平成夕まぐれ』
ありま氷炎様主催の「平成最後に短編書こうよ」企画参加作品です。
夕まぐれ〜サラリーマンが〜夢の後〜〜
男は、どこか呑気で平安チックな鼻歌を披露しつつ、陽が沈んだ逢魔が時に、ブランコを揺らしていた。
夕焼けこ焼けの音楽に続く良い子はお家へ帰りましょうのアナウンスに誘われた子らがいなくなった、冬季の海の家のようなうすら寒い公園だ。
今日も暇だったなぁ、とこぼしながら男は電子煙草を咥えた。
有名ブランドの違法コピー品だが味は変わらない。むしろ旨いとさえ感じていたほど、
彼の味覚はくるってしまっていた。
それも全て暇だからである。
――来月から予定なし、か。
彼は、そう通告されていた。
今日は四月の末日。
つまり、明日から仕事はない、ということだ。
だが解雇ではない。飼い殺しだ。
彼は営業の第一線から歴史編纂部に異動となったのだ。
華やかなりし自らの偉業を走馬灯に写し、ふはーと煙を吐く。
時の流れは無情というが、まさか我が身に降りかかるとは。
彼はブランコから立ちあがり、腰を伸ばした。
ゴキリと鈍い音が響く。
知らぬ間に歳をとったものだと苦笑が漏れた。
仕事を始めてから既に三十年。
寄る年波に勝てぬのは世の必定。
ま、今まで頑張った褒章だと思って、のんびり過ごすかな。
彼は黒くなった空に目を向けた。
視界に入るのは、宵闇に昇る黄色き太陽。
巨大な満月を見つめ、ハミングを始めた。
久方の〜月もわびしむ、卯月かな〜
寂しげな旋律は、誰もいない公園を渡っていった。
男は笑みを浮かべ、歩き出した。
煤けそうな背中をぐっと伸ばし、男は公園から去っていった。
彼の名は平成という。
お疲れさまでしたー!!




