エピローグ「数年後の家族」
それから、数年の月日が流れた。
翠玉村の蓮華堂は、増築を重ねて立派な屋敷になっていた。
庭には色とりどりの薬草が植えられ、風に乗って優しい香りを漂わせている。
「パパ! 見て見て! おっきなカブ!」
元気な声と共に、庭から小さな男の子が駆け込んできた。
泥だらけの手には、自分に顔ほどの大きさがある薬草の根を抱えている。
黒髪に、金色の瞳。龍牙に瓜二つの息子、陽だ。
「こらこら、陽。廊下を走っちゃダメだって言っただろう」
蓮華が苦笑しながらタオルを持って迎える。
少し大人びた顔つきになったが、その穏やかな雰囲気は変わらない。
ただ一つ変わったのは、左手の薬指に光る指輪と、首筋に残る番の証だ。
「だって、お庭の草さんが『抜いてー』って言ったんだもん!」
陽は無邪気に笑った。
この子もまた、蓮華と同じように植物の声を聞く力を持って生まれてきた。しかも、龍牙譲りの体力と魔力も兼ね備えている。将来が楽しみでもあり、末恐ろしくもある。
「でかしたぞ、陽! そいつは上等な『大地の根』だ。今夜のスープに入れよう」
奥から龍牙が現れ、陽を高い高いと持ち上げた。
その顔は、かつての「国境の鬼」とは思えないほどにデレデレだ。彼は完全に親バカになっていた。
「あなた、甘やかさないでください。泥だらけのままだと、お店が汚れちゃいます」
「いいじゃないか。店は繁盛してるし、俺たちが幸せなら文句はないはずだ」
龍牙は豪快に笑い、空いた片腕で蓮華の腰を抱き寄せた。
「……まあ、そうですね」
蓮華もつられて微笑んだ。
店には今日も、遠方から多くの客が訪れている。
見た目は悪いが効果抜群の「泥薬」は、今やこの国のスタンダードになりつつあった。王都の支店も順調で、かつての弟も改心し、一から修行を始めているという手紙が届いたばかりだ。
全てが、丸く収まった。
「愛してるぞ、蓮華。陽」
「僕もだよ、パパ!」
「……はい、僕もです」
家族三人の笑い声が、温かな日差しの中に溶けていく。
かつて捨てられた場所で芽吹いた小さな種は、雨風に耐え、大きな愛を受けて、今、大輪の花を咲かせていた。
その香りは、これからもずっと、この場所を優しく包み込んでいくことだろう。




