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番外編「新婚生活と甘い媚薬」

 翠玉村に戻ってから半年。

 村の外れにある蓮華堂は、今日も朝から大忙しだった。


 王都での武勇伝は尾ひれをつけて広まり、今や国中から蓮華の薬を求めて客が訪れるようになっていた。店先には行列ができ、村の宿屋も連日満室だ。村全体が活気に満ち溢れている。


「はい、お大事に。次は三日後に来てくださいね」


 最後の客を見送り、蓮華はふうと息をついた。

 エプロンを外し、凝り固まった肩を回す。


「お疲れさん」


 店の奥から、龍牙が現れた。

 彼は現在、国境警備の任務を部下に任せ、長期休暇を取って蓮華の手伝いをしている。……というのは建前で、実際は新婚生活を満喫するために居座っているだけだ。

 最強の冒険者が薬草を刻んだり、重い荷物を運んだりする姿は、最初は村人たちを驚かせたが、今ではすっかり馴染みの光景になっていた。


「ありがとう、龍牙さん。おかげで助かりました」


「礼には及ばん。……それより、精が出るな。また新しい薬か?」


 龍牙が作業台を覗き込む。

 そこには、ピンク色の可愛らしい花が乾燥させられていた。


「ええ、『恋心草こいごころそう』って言うんです。血行を良くして、肌をツヤツヤにする効果があるんですけど……」


 蓮華は困ったように頬をかいた。


「調合を間違えると、ちょっと強い興奮作用が出ちゃうみたいで」


「興奮作用?」


 龍牙が眉を上げる。


「はい。体が熱くなって、ドキドキして……いわゆる、惚れ薬みたいな」


 その瞬間、龍牙の目の色が変わった。金色の瞳がギラリと光る。


「ほう……それは危険だな。俺が毒味をしてやろうか?」


「えっ!? だ、ダメですよ! 龍牙さんには必要ありません!」


 蓮華は慌てて花を隠そうとしたが、龍牙の長い腕に捕まり、そのまま後ろから抱きすくめられた。

 耳元で、低い声がささやく。


「必要ない? 俺はいつだって、お前を見ると理性が飛びそうになるんだが」


「り、龍牙さん……お店、まだ閉めてないのに……」


「札は『準備中』に変えてきた。……蓮華、いい匂いだ」


 龍牙が首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。

 彼の熱い吐息と、アルファ特有の支配的なフェロモンに当てられ、蓮華の足がカクンと崩れそうになる。

 つがいになってから、互いのフェロモンの影響力は増すばかりだ。特に龍牙は、蓮華に対して過保護で、独占欲が強くなっていた。


「あ、んっ……くすぐったいです……」


「肌艶を良くする薬なんて要らん。お前は今のままで十分綺麗だ」


 龍牙の手がエプロンの下へと滑り込む。

 粗野な指先が、敏感な脇腹をなぞる。


「龍牙さん……待って……」


「待てない。……お前のフェロモンが、俺を誘ってるのが悪い」


 強引に体を反転させられ、カウンターに押し付けられる。

 重なる唇。

 甘くて、溶けるような口づけ。

 薬草の香り漂う店内で、二人の影は深く絡み合った。


 結局、その日の「恋心草」の研究は中断され、蓮華は翌朝、腰の痛みと首筋についた赤い痕を隠すのに苦労することになった。

 最強のアルファにとって、愛するオメガこそが、どんな秘薬よりも強力な媚薬なのだと、蓮華は身を持って知らされたのだった。

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