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ジジに依頼された調査の内容は、数点。
ロッカウェイ公国の古文書の内容照会と解読と、そして一番大きなものは、魔力の提供だった。
ロッカウェイ公国も、フォート・リーの女神神殿の遺跡の存在については把握しているが、泉の場所も、泉にかけられた呪いの内容も定かではなかった。
「魔力を吸って石化か。かなり厄介ね。」
ジジも入念に先取りの調査は怠らない。
呪いの源である石碑に直接、公女の魔力を流し込んで呪いの力を反転させて、泉を安全化してから、遺跡の解読に取り組みたいとの申し出だ。
大体の遺跡のあらましの説明を担当した、王宮魔術師の石化した腕を見せてもらい、ジジはすぐに石化のポーションを配合した。
ジジは、結局はポーションの研究の為にアストリアに留学しており、その実力は折り紙付きだ。
フォート・リーのポーションでは効きに限界があったのだ。
新しい処方のポーションを提供したジジのおかげで、幾人もの石化に苦しんでる魔術士が助けられた。石化すると、石化したその場所がシクシクと痛むとかで、ジジは大層感謝された。
「レイチェルが先に行って内容を確認したのでしょう。おそらく、内容が内容なので、複数の賢者による検証が必要となった。」
ゾイドは淡々と状況を判断する。
石の乙女ならば、呪いの泉でも影響はない。
遺跡の解読可能部分の一部は開示されたが、どうやらこの他に、魔術士達に大混乱を招いている記述部分がある様子。この未解読とされて、レイチェルが内容を確認した部分を、日の目に当てる切羽詰まった理由があるのだろう。
出発は明日の夜だ。
ジジは先発隊として、ゾイドと離されてもうすぐ出発する。
ジジのエスコートには、先日の演習で見事な演舞を披露した、ブシュウィック宰相の長男が当たると言う。
「あのキラキラした騎士に案内してもらえるなら、ゾイド様なんていらないでしょ。心配しないで下さい、ローランドもいる事だし。」
ジジはふにゃふにゃと笑ってゾイドの心配を一蹴する。
ジジにとって、この数日の公務は緊張の極みだったはずだが、一国の公女ともなると、腹の座り方が違う。ジジの別の一面をみて、ゾイドは深く感心するのであったが、実際にジジはレイチェルと違って、割と一般的な感性も持ち合わせる乙女だ。
ルークの様な美しい男にエスコートされるのは、公務であれど、なかなか心が浮き立つ。
先発隊にはローランドを配置した。
ローランドであれば、その記憶力でルートの全て、そして調査団に出入りした人員全てを把握できる。まだフォート・リーには、この副官がギムナジウム出身の優秀な騎士である事しか、判明していないはずだ。
静かに諜報活動をするローランドは、すでに幾人もの、アストリア王室の関係者の顔を、フォート・リーで見つけている。
バルトに通じて、アストリアに攻撃を仕掛けていたのは、やはり国内の密通者。
「。。気をつけて。。」
王家の馬車にジジは乗り込み、調査団は泉を目指した。
ジジの馬車の後ろには優雅な白い馬に騎乗した、魔法騎士団の男が従う。
(。。あの男。)
天馬の様に美しいその馬上から、美貌の男はギラリと光る目線でゾイドを見据えると、馬車に従い去っていった。
その目線は先日と違い、どこか勝ち誇った気配を漂わせていた。
王宮の森はすっかりと葉を落として、いつの間にか冬の入りを告げる、渡り鳥が群れを為して湖にその羽を休ませる様になってきた。




