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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
神殿の遺跡

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アストリア国では、突然届いたフォート・リーからの親書に、戸惑いを隠せなかった。

親書はフォート・リーの魔術院の院長の名で、副院長が自ら使者になり、謁見を求めて要請をする、最上級の敬意を払ったものだった。


内容は実に平和的な、学術研究協力要請。政治的には、何を考えているのかさっぱりわからない。

アストリアとフォート・リーは開戦が近いはずで、両国ともにその準備を進めていたはずだ。

現に、国境のルーズベルトの島には両国ともに、重装の兵が配置され睨み合いになっている。

だというのに、届いた親書は丁寧で、かつ友好的だった。


「。。。ジジに協力要請ですか。」


分厚い親書に目を通して、ゾイドは例の感情が読めない顔を、ジークに向けた。

ジークの執務室の机には、レイチェルの動向を追った影からの報告が所狭しと散乱している。


神殿調査が終了した事は当然ながらも、ゾイドには伏せられているが、さる貴公子がレイチェルの馬車の同乗した事も、全て報告書には記載されており、その日の美麗なレイチェルの装いが、この貴公子の依頼でミツワ最高のサロンの手によるものだった事も当然把握している。


客人を歓待するにしては距離が近すぎ、そして世話役にしてはまるで、恋人に対する扱いのごとく、だと。


(問題が複雑化しそうだ。。)


眉間に深いシワを刻んで、ジークは答えた。


「そうだ。神殿の遺跡の調査に、魔力の質の高くて量の多い乙女が必要なのだと。確かに公女の魔力の質に叶う乙女はなかなかいないし、ジジは魔力過多だ。実際的にフォート・リーの要請には、確かにうって付けの人材だな。」


ジークの側に控えていたジジは、バサっと赤い大きな封筒をゾイドに投げてよこした。緊急時にのみ利用される、ロッカウェイ公国独自の染料でそめられた、赤色。公女にこの封筒が届くという事は、ロッカウェイ側の警告だ。


「ゾイド様、こっちがロッカウェイ公国へ送られた親書の写し。先にウッドサイドに話を通してから、わざわざアストリアに使者を立てて親書を送ってるって、相当丁寧に外交手順も踏んでるわ。これ、本当に切羽詰まった調査協力に見えるけど。。」


ゾイドは、ふん、と鼻を鳴らして言った。


「ロッカウェイ第一公女ともなれば、フォート・リーも丁寧に扱わざるを得ないという事か。レイチェルの事は何も触れずとは、いい度胸だ。」


「だからこそ、いい機会じゃないですか?」


ジジは小さな体をブラブラと動かして、挑戦的にゾイドとジークを見た。


「ここで大きく恩を売っておけば、フォート・リーはアストリアに借りができます。開戦を少しでも回避できる可能性があるのであれば、うけるべきです。そして、従者は私に選ばせて頂きましょう。何せ大切な、ロッカウェイの第一公女をお迎えするのですから、フォート・リーも一人で来いとは言えないでしょう。」


自分の厄介極まる身分の高さを、半ば皮肉を交えてジジは提案した。

もしジジを、レイチェルの時の様に無理矢理フォートリーに連れたら、ロッカウェイ公国とフォート・リーの両国間では話が終わらない、大掛かりな戦争が起こるほどには、ジジは高貴な身分なのだ。


「確かに、緊張状態にある国に留学中のロッカウェイ公国の公女に協力を仰ぐほど、重要な事態が発生しているという事だな。レイチェルが何を見つけたのか、学術的に非常に興味深くもあるな。。」


ジークはポロリと本心でつぶやいてしまった。

ジークは古代魔術の研究者でもある。もちろん開戦の回避やレイチェルの奪還が1番の事項ではあるが、最近発見された、古代遺跡の解読内容に興味が無い訳は、決して無いのだ。

まして王族は、女神の系譜に連なるもの。フォート・リーの古代遺跡の記述は、ジークの予想が正しければ、王位の正統性に関係する物だ。


「。。。では決まりですね。ジジには私が従者として同行します。」


赤い瞳の男は、凍るほどに冷たい目で、すでに決定事項として自らの部下の従者になる事を言い放った。


見つけて、そして捕まえて帰るのだ。

今度は王宮の小さな騎士団の離れではなく、ゾイドの所有する城下町の館に。その館の女主人として。

茶色い瞳。雀斑だらけの顔。地味な娘だ。最高に地味で、最高に変わり者で、最高に可愛い私の婚約者。


ゾイドが断定形で話をする時、それはもうこの男の中では覆らない事項で、誰が何を言っても無駄だ。ここで反対したら、おそらくゾイドは単独でフォート・リー王宮に乗り込んで、レイチェルを拐って帰るだろう。

頭痛のタネが確実に増えそうなこの有能で頑固な部下の決定に、口を挟む事はできなさそうだ。


ジークは大いにため息をつくと、


「。。。学術調査の要請だ。ジジは十日で帰ってこい。ゾイド、お前は絶対に問題を起こさない事。レイチェル嬢の事は慎重に対応すると誓え。従者にはゾイドと、ローランドをつける。ジジは公女の装いで、王宮侍女を3人つけ、ロッカウェイ公国第一公女として協力の要請に答える事。全て記録して報告せよ。」


半ば投げやりのように命令を下した。


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