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「レイチェル!!!!何考えてんだ!!」
後ろからルークの必死の叫びが聞こえるが、まあいつもの事なので放っておく。
それにしても水の中の気持ちのいい事!
コルセットからも自由になって、レイチェルは下着姿で水に身を任せる。もうごきげんだ。
貴族の令嬢は、自分の敷地内に水辺がない限りは、あまり泳いだりはしない。
レイチェルも今日生まれて初めて泉で泳ぐ。といっても小さな泉なので足もつくのだが、呪いの泉にしては水はとても清浄で、小さな魚まで泳いでいる。
ひとしきり水と戯れながらレイチェルは考えていた。
(やっぱり。。ここは元々は強烈に浄化された土地だったのよ。それが何かのきっかけで、大きく力が反転して、こうなった。。)
呪いと祝福は、実は相反する効果が出力するだけで、力の源は同じなのだ。レイチェルが呪いを恐れない理由は、呪いの反転は、レイチェルの得意とする所だったりするからなのだ。
ゆらゆら水の中で開いたり閉じたりしている石の扉にはびっしり苔がむしていた。一つ一つ文字を拾ってゆく。レイチェルにはもう正確には読めないものだが、内容は大体検討がつく。
ゆっくり小舟に戻って、見たもの全てを書きつける。
これだけの古語を初見ですぐに理解し、紙に書き付けるだけの知識のある人材は、フォート・リーにも数えるほどなのだが、レイチェルはそんな事は知りもしない。
「お前、ここの遺跡は!国の重要遺産の上に聖地認定の登録中で!聞いてんのかレイチェル・ジーン!それより危ないだろう!そもそも泳げるのかお前!この泉は助けてやれないぞ!おい返事しろ!」
遠いルークの声が性懲りも無く聞こえる。紳士らしく後ろを向いたままで絶叫しているので、いつもよりうるさくなくて良い。
「はーい、ルーク様、私元気です!」
ルークとは違い大ごきげんのレイチェルだ。
とても良い返事をルークに返した。
レイチェル・ジーンってルーク様に呼ばれるのは久しぶりだ。いつからそういえば、このお方は私の事を呼び捨てにしてるのかしら。
「呼ばれたらすぐに返事しろ!心配するだろう!お前は鈍臭いから怪我したのかと思うだろうが!」
「ハーイ!ごめんなさーい!ちょっと水に潜るので、しばらく返事できません!まってて下さいね!」
「ん??潜るので?」
レイチェルの言葉にルークは思わず振り向いてしまった。
女神はイタズラがお好きなのだ。
ルークは女神の言いつけを守らないで振り返って、塩の柱になった女の伝説を思い出した。
ルークの目に映ってしまったのだ。
下着姿の、水にずぶ濡れになった美しい娘。
緩く纏められていた長い髪は解けてもつれ、月に照らされ、頼りない布は水を受けて、ピッタリと体の線を示す。
水で張り付いた布ごしに透ける胸の頂は紅に染まり、悩まし気にルークの理性を揺さぶった。
(。。。女神様。。。)
ぽちゃん、と水音が響いて、娘は幻のように水の中に消えた。
ルークは立ち尽くしていた。




