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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
ミツワにて

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レイチェルの元を訪ねてきた娘達の数は、もう何十人になっただろうか。


最初はルーナとその友人、それからその姉妹。

女の子は秘密が好きな生き物だ。

何せ一応は軟禁されている身。お客様を迎えている事がバレると面倒だ。

絶対に他に言わないという約束で、一人また一人、とやってきた娘達に、術式を施した髪飾りを作ってやっている。


娘達は皆、ルーナを通してこっそり夜にメイドの格好をしてやってくる。

そしてレイチェルの話を聞き、知る由もなかったはずの、か弱い神殿の乙女を誘拐し、軟禁をしいているフォート・リーのやり方に憤慨し、涙を流す者まで出る始末だ。

そして夜が深まる頃には、レイチェルが作った妙な髪飾りを受け取って、その効果に飛び上がるほど喜ぶのだ。


レイチェルは頼むから何かお礼をさせてくれと煩い娘達を静かにさせるのが目下1番の悩み所だ。ばれたら困るのだ。


着実にミツワでは、絹でできた妙な髪飾りをつけた、真っ直ぐな髪をした娘達が目に映るようになってきた。


////////////


「ねえこの髪飾りは最近の流行りなの?最近王都の若い女の子達が良くつけてるよね。」


太陽の騎士・宰相の息子のルークの仕事の一つは、貴族の御令嬢達との逢引、お茶会。美麗な見目に生まれた、高位貴族の情報収集の手段の一つだ。

そして御令嬢との交流は、幸いな事にジークとは違い、ルークの場合は趣味の一つでもある。


ルークは美しい物を好む。身に纏う物はもちろん、連れて歩く令嬢も見目麗しく、美しい身なりの者を好んで側におく。ダンスも音楽も秀でており、愛馬も真っ白なたてがみの長い砂漠の馬を、わざわざ海を二つ超えて、運ばせてきたほどだ。


この二週間で、このあまり美しいとは言えない地味な髪飾りを四度は見た。

流行に大変敏感なこの男は、どうしても解しなかった。

なぜルークが逢瀬を重ねるような、完璧に美しい令嬢達がこぞってこの地味な飾りを付けているのか。


今日の逢引の令嬢の髪を指で梳いてやりながら、軽く聞いてみた。

美しい、真っ直ぐな長い髪。


「うふふ、ルーク様、気になりますか。」


女はクスクスと笑いながらルークの首に腕を回した。


「君のような美しい女性が身につけているとしたら、気になるね。どの店で買えるの?君にももう一つ贈らせて欲しいな。」


気軽に髪飾りに触ろうと手を伸ばしたら、女はバシ、とルークの手を払った。


女はハっとして無理に笑顔を作ると、またルークの首に腕を回して言った。


「ふふふ、ルーク様。秘密ですわ。そんな事をおっしゃって、他の可愛い人に差し上げるお気持ちでしょう。そうは行きません事よ。」


/////////////////


ルークが違和感を感じたのは、おおよそ3人目位の令嬢に、野暮ったい髪飾りの入手先を聞いてからだ。


アストリア国で流行った蝙蝠石がフォート・リーに入り始めたときは、聞き取りをした最初の令嬢で、すぐに購入先が判明した。

アストリア国と貿易のある商会と付き合いのある宝石商の密輸だった。

女達は、ルークの気を引く為であれば簡単に大切な情報を提供した。


今回の髪飾りの妙な点はいくつかある。

どの令嬢も入手先について口を割らないのだ。

髪飾りは、絹でできていて、ビーズの飾りがついている。質は良さそうだが、少し野暮ったく、繊細さに欠ける。もちろん宝石ほど高価ではないだろうし、蝙蝠石の時のように、法を犯しているような要素も見当たらない。


そして、令嬢達は決して、決してルークに髪飾りを触らせない。


悶々とした気持ちで次の令嬢、次の令嬢とお茶会や逢瀬を重ねる日々が続いていた。

どの令嬢も皆一様に入手先は秘密だという。


そしてルークはついに、いと高いお方の髪に、その地味な飾りを見つけた。

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