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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
蝙蝠石

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「国家事案?」


レイチェルには答えず、

ゾイドは蝙蝠石をまず設置し、角度と高度をジークに見せる。

その後、レイチェルには何のことかわからないが、とりあえず痛くなかったので前回と同じ様に古い魔力計の下に手を置いた。

前回と同じ、水晶を吊るした鎖はぴくりとも動かなかった。男たちに声のない緊張が走った。


次に、ルイスが持参してきたガラスのような筒の両端を持つように指示される。無反応だ。

また空気が凍った気がする。


(そろそろ本当に帰りたいわ。。なんなの一体。お腹すいてきちゃった。。)


「ゾイドの報告通りだな。文献で存在する事は知っていたが、目にするのははじめてだ。」


しばしの沈黙の後、ジークは言った。


「私の師が、一度大戦の前に難民の中で一人だけ出会ったそうですが、それきりだと聞いています。」


ゾイドも続けた。


レイチェルはおずおず挙手して申し出る。


「。。皆様、そろそろ本当にご説明頂けません?もう館に帰りたいですし。。」


掛け値なしの本音だ。

レイチェルは元来地味な娘なのだ。目の前で会話を繰り広げる男達が、王都で最も結婚相手に望まれる男たちである事も、その身分も財も、その花のようなかんばせも、あまり興味の対象ではない。

さっさとレイチェルは部屋に帰って、まだ仕上がっていないスカートへの紋様のつづきを刺したい。ついでにおやつ食べたい。


説明不足はゾイドの専売特許らしいルイスはレイチェルが怯えている事に気がついて、言った。


「お嬢ちゃん、いきなりでびっくりしたよな。悪かった。ちょいあり得ない反応が出てびっくりしてんだ、みんな。こんな太古の道具使っても、一番精査性の高い道具使ってもお嬢ちゃんの魔力反応が出ないんだ。これは物すごい事なんだぜ。こんな魔術の才能のない人間にお目にかかった事はない。」


ルイスが興奮してそういった。

ゾイドが続けた。


「ある意味大変貴重な才能のなさです。どんな魔術を使っても、あなたを素直に通り抜けるので、魔力による干渉がない。つまりあなたは誰からも魔術で追跡もできない。あなたが子をなせば夫の魔力を完全に損なわずに受け継ぐ」


才能ない、才能ないとうるさい。失礼だ。


「はあ。。それでそれが何か生活に役に立つんですかね。」


レイチェルは他の貴族のご令嬢の様に、少し魔力があれば、魔道具の鑑定やら結界張ったりやたらで、領地の役に立ちたかった。

魔力がないと発動しない魔法の方が実は大部分で、レイチェルのように紋様や祝詞、魔法陣など、その形状そのものによって魔術を発令しているなど、かなりの珍しさなのだ。

ちょっとでも魔力があれば、そんな苦労しないで済んだのに。とあまりレイチェルにとっては嬉しくもないお知らせなのだ。


目を丸くして信じられない物を見るようにルイスは身を乗り出して、力強く続けた。


「お嬢ちゃん!分かんないのか、どれだけあんたが貴重な存在なのか!もしあんたが間諜になったら絶対に魔力追跡では捕まらないし、ゾイドのと子をなせば、ゾイドと同じ魔力ランクの子供になるって事だ。10人ゾイドの子を産めばこの国の未来の魔法学がどれだけの発展を遂げるか、考えてもみなって。」


「はあ。。」


ゾイドとの子供など考えた事もなかったが、そういえば婚約者という事は、その先にはそういう可能性があるという事だ。いきなり現実的な話になって、そういう事にも大変残念なレイチェルは真っ赤な頬になってしまう。


「10人ですか。ではお国のためにすぐに始めないといけませんね。私の体力がどれだけもつかどうか。。」


「ゾゾゾゾゾイド様!」


レイチェルはもう首まで真っ赤だ。


ゾイドは表情を変えずにしれっとかなりの爆弾発言だ。なにを始めるといいたいのだ。


もうゆでダコの様になってしまったレイチェルは、ともかく話題を変えたくて、気になっていた質問をする。


「なんで、その蝙蝠石の反応で、私の魔力がゼロだとかそんな事がわかったんですか?」


「レイチェル嬢、この石は魔力を一旦通すと、他の魔術や魔力の干渉がない限り、生体の固有魔力を糧に輝くのです。貴女に飾った時、生体の固有魔力の反応ではなく、貴女が今纏っているドレスや飾りに施された幾重もの術式による魔術が反応し、メリルの様に七色に。我が目を疑いました。石自体に何か仕込まれているのかを疑いました。」


よくわからないが、ゾイドの説明ではともかく滅多にない反応があったらしい。

お洒落アイテムを贈ってもらったと思ったら、もう騒ぎになってしまって、レイチェルは疲れてしまう。



「そしてレイチェル嬢、貴女はどうやら魔力が全くない、ただ、それだけのレディではなさそうだな。」


ジークはテーブルの上にレイチェルが残していた書きつけを手に取った。


「この術式は先週からゾイドが手を焼いていた事件のものだな。違うか」


ゾイドはジークから紙を受け取ると、今度は目を丸くして書きつけをみて、そして顔を上げてレイチェルを見た。最近ゾイド様表情がよく変わる様になったな、とレイチェルはぼんやり考える。


「。。解いたのですか」


「あ、退屈だったので、机の上に術式の途中のがあったので解いてみたのですが。。ダメでした?これはね、術式と術式の間にトラップがあるでしょう?一旦中和させてから一気に行くんですよ。緩急が大事なんですけど、コツを知らないとしんどいですね。」


ゾイドは天を仰いだ。

ほぼ事故の様に婚約してしまったこの大変地味な娘は、あろう事か伝説でしか聞いた事もない様な、魔力の全くない娘で、そして魔道院の一流魔道士達が解けなかった術式をいとも簡単に解いてしまう様な知識の持ち主なのだ。そして、ウブでそれはそれは可愛い。この婚約は、女神の加護であったに違いない。


レイチェルは魔力が云々はよくわからなかったが、難しい術式を解いて、この表情のない婚約者をびっくりさせた部分は気分良く理解できた。


(ちょっと難しかったのよ!大分時間かかってしまったけど、上手にできたんだから)


ちょっと鼻の穴を膨らませて自慢をする。

レイチェルにとっては複合術式など簡単なパズルの様なものだ。何せ他のご令嬢達がお茶会やらお洒落やらに費やしている時間の全てを魔法史の資料館で過ごし、術式研究と手芸による魔改造という悪行を行ってきたのだ。正直この程度のトラップなど、レイチェルに言わせると工夫が足りない。安直だ。


が、どうも貴人達の反応が思わしくない。沈黙が部屋を支配する。


しばらくの沈黙を破ったのはジークだ。


「レイチェル嬢。」


かなり考えたのだろう、一つ一つ言葉を絞って、こう行った。


「君は、今の時点でアストリア国の国防保護対象だ。」


「しかも君は未婚の若い令嬢だ。高い魔力を持つ男達なら、こぞって家のため、君と子を為したいと殺到するだろう。

そして君の術式の知識は、魔道院の熟練研究員が解析中に事故を起こしたレベルの術式をいともたやすく解読するレベルだ。他国に流出しては重篤な問題になりうる人材だ。」


そして一息ののち、威風堂々たるアストリア国第二王子の姿にて、高らかに宣言する。


「レイチェル・ジーン子爵令嬢。本日付けで、王宮第二王子ジーク・ド・アストリア直轄の魔術研究所。魔道院の特別研究員として任務を命ずる。」





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― 新着の感想 ―
みんな気になる点ばかりで、少し作者様への配慮が足りないと思います。もう少し良い点を挙げて応援されてはいかがでしょう。
[気になる点] 魔道院の熟練研究員が解析中に事故を起こしたレベルの術式をいともたやすく解読するレベルだ。 →魔道院の熟練研究員が解析を誤って事故を起こすような術式を、いともたやすく解読するレベルだ。 …
[気になる点] 説明不足はゾイドの専売特許らしいルイスは… →専売特許らしい。ルイスは… 読点が抜けています。 術式による魔術が反応し、メリルの様に七色に。 →術式による魔術が反応したのです。そう、…
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