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今日も美貌の婚約者様は、お土産を携えてレイチェルのご機嫌を伺いに訊ねてきている。
多忙な王宮魔術士が、どうやって時間をやり繰りしてレイチェルに会いにきているのか疑問だったが、なんと言うこともない、レイチェルに会った後に研究所まで帰って、深夜まで仕事をしているらしい。ハロルドが取引先から聞きつけた話だ。
今日はいつもの、ちょっと贈り主の意図が掴みかねるガラクタ的なお土産ではなく、(そこそこ王都で名をはせた色男が、なぜこんな子供のようなお土産を婚約者に持ってくるのか、まだマーサには謎でしかない)今王都で大流行中の、入手が難しい魔の森の蝙蝠の胆石でできた、怪しく光りを放つティアドロップ型のネックレスだ。
魔の森での調査の最中に手に入れた石とかで、流行りの宝飾店で加工させたという。品の良い鎖が通されてあり、若々しくシンプルな一点ものに仕上がっている。
初々しい、恋人を得たばかりの恋する男が贈るにふさわしい、可憐で、少し妖艶で、男の可愛らしい独占欲を表している贈り物だ。
「ここに私が魔力を通すと、光を放つんです」
期待で輝くばかり目のレイチェルに、ふっと微笑むと、ゾイドは手の平に、ネックレスを載せ、魔力を通して見せる。
ふわりと魔力を受けて、小さな石は淡く黄緑色に輝く。
「綺麗、、、!」
レイチェルは初めてみる輝きに興奮を隠せない。レイチェルも変わり者とはいえ、うら若き乙女だ。美しい流行りの宝飾品を贈られ乙女心が浮き立つ。
「石の大きさにもよりますが、この大きさで魔力を通せば、おおよそ一晩は光り続けるでしょう。」
「今日はベッドの横に置いておきます。夜が来るのがとても楽しみですわ!ああ私に魔力があれば、ずっとこの石を綺麗なままで置いておけるのに。」
「貴女の隣で夜を迎えるこの石は随分な果報者です。さぞ美しく輝く事でしょう。」
この変わり者の令嬢の、普通の娘と変わらない部分を見て、なんだかくすぐったい気分になる。
(。。。なら普通の令嬢の様に、芝居や音楽会も案外喜ぶのかもしれないな)
風変わりな令嬢をどうやって喜ばせたら良いか、このズレた男なりに考えていたのだ。とりあえず自分が欲しい良いと思うものを与えてはマーサに訝しげられながら。
ゾイドは失礼、と席を立ち優雅に手袋をはずすとネックレスを手にとって、レイチェルの後ろに回り、留め金を留める。
ヒヤリとしたゾイドの細い指が、レイチェルの首筋をかすめる。
(くすぐったい。。。細くて、とっても長い指なのね。変な気分になるわ。。)
耳元で細い留め具と鎖がすれ合う音がして、ふと顔を上げると、人外の美貌がすぐ真横に触れ合う距離で微笑んでいたのだ。
(近い!!ちいかすぎいい!!そ、それにしても何て綺麗なお顔なのかしら。。まつ毛が本当に長くて、作り物のお顔のようだわ。そう言えばこの方、大変な美貌だったの忘れいたわ。。って!私ゾイド様が笑ったの、初めてお目にかかった。。)
いきなりすっかり忘れていたこの高貴な男の美貌を、こうも近くで確認してしまいレイチェルはもう息の仕方も思い出せない。
「。。。出来ましたよ、レイチェル嬢。」
(だから!そこで声をださないでええ!耳元に息が!!かかって!ああ、、ゾクゾクする。。)
耳まで真っ赤になって俯く。もう震えてきた。
「。。。貴女は可愛い人だ。。」
耳元でささやいて、小さな口付けが耳に落とされた。
「ゾ、ゾイド様!!お戯れを!!」
レイチェルはもう半分涙目で口を尖らせて抗議する。
ゾイドは声を抑えて笑いだす。
「おや」
「もーゾイド様はこういった事に慣れて、おいでで!でも!私は!」
ゼーハー言いながらレイチェルは一生懸命抗議するが、ゾイドはもう何も聞いていない。
「ゾイド様!ちょっと!聞いてます?」
レイチェルはそこまで言って、ゾイドが己の胸元に目をやっているのに気がついた。先程までの、優しい、いたずらっぽい目線ではなく、冷たい赤い氷だ。射抜く様な視線の先は先程ゾイドがつけてくれたばかりの、黄緑色の石だったもの。
「え、なんで。。?」
柔らかい黄緑色の光を放っているはずの石は、今は禍々しいまでに美しい、七色の光を放ち輝いていた。




