表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
ゾイドの心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

238/246

238

「。。随分早かったね、メリル。君はまだ子供なのに、そんな全速力で飛んでは、疲れてしまうよ。」


ギーは、黄金の門の前で、メリルの到着を知っていたのか、待っていたらしい。

メリルを前に、穏やかに微笑む。


レイチェルが開いた、魔力の回路にゾイドに連れてこられたメリルは、それが一体何かすぐに分かったらしい。

するりと回路に体を預けると、竜の魔力で、一気に回路を駆け上がったのだ。


「メリル、こら、私を殺す気か、少し手加減しろ!」


ゾイドでなければ、確実に振り落とされるか、もしくは気を失うかしていただろうが、そこは国内最高峰の魔術師は伊達ではない。

軍事用の強い魔術を幾重にも巡らして、メリルにしがみつき、ゾイドの魔力が尽きるその寸前に、竜の国の、その前の黄金の門まで、メリルとゾイドは無事たどり着いていたのだ。


ギーは、流石に疲れてはいるが、大変嬉しそうにギーの周りを周回するメリルに、どこからか光の粒を取り出して、メリルに与えた。メリルは、子供らしく、もぐもぐと喰む。


そして、メリルの背からようやく降りた、ゾイドに向き直り、

目を細めた。


「ようこそ、ゾイド。竜人の国へ。」


何故私の名を、と聞こうとゾイドが一歩、ギーの方向に足を踏み出そうとすると、


「うわ!!!」


足元の白い大地が、ずぶりと抜けてしまった。

ゾイドはメリルの鱗を掴んで、間一髪落ちなかったが、落ちていれば、足の下は、どの空間に放り出されるか予想もつかない、転移の回路だ。


ギーは、そんなゾイドに、


「残念なことに君はこの国に、招待されていないようだけれど、この国に入るには、招待が必要なのだよ。」


そう微笑みながら言った。

そして、ゾイドを長い時間、言葉もなくじっと見据えると、


「。。ただ、招待もなく、ここまで強引にやってくるとは。強い、強い思いを抱いているね。。。気に入ったよ、君をここに連れて来たのは、君の強い思いだね。」


足に届きそうなギーの長い銀の髪が、風に揺れた。

何かギーが魔術を展開したらしい。ゾイドの足元は、一転して固い、白い大地となる。


ゾイドは、ギーほどの美しい生き物を目にした事は一度もない。

美貌に心を一瞬でも奪われると言った経験は、ゾイドには初めてだ。

すぐに、ギーが何者か、頭を巡らせる。


(なるほど、このお方は竜人か。人外の美貌、高い魔力、そして。赤い目。伝説通りだが、これほどとは。。)


「。。竜の国のお人よ。招待もなく、ここまで足を運んだ不調法をお許しください。私は、ここに来ている私の身内を迎えに参りました。」


ゾイドは、ギーの美貌に怯まずに、メリルの鱗を手放すと、ギーの前に、堂々と歩み出る。


ギーは、緩やかに笑みを浮かべると、


「。。テオと、レイチェルを迎えに来たんだね。二人は心配いらないよ。実に幸せそうに、悠久の時を共に過ごしている。」


ギーがそう言った瞬間に、ゾイドの顔色が変わる。

低い、強い声で、それでもギーに礼を尽くして、柔和な声で言った。


「竜人のお方。私はその二人を、連れ戻しにまいりました。二人は、私にとって大切な、大切な者。」


ゾイドの周囲の空気が、渦を作り、ゾイドの頭上に、黒い暗雲が起こる。


ギーは、その微笑みをそのままに、だが今度は、固い声で言った。


「。。そうか。。君がそれほど強く望むなら、この国に、足を踏み入れる事は、許して上げようか。ゆっくり、二人と話をすると良いよ。」


その言葉を聞いた瞬間、一瞬にして、ゾイドの頭上の暗雲は消え去り、今度は柔らかい光が満ちる。

ギーは、少し心配そうにつづけた。


「ここはね、テオやレイチェルのような心の持ち主にとっては、永遠の楽園だ。けれども君にとっては、下界の人の言う、地獄に近い所だと思うよ。何せここでは、考えの全てが言葉になり、思いの全てが、物質化する。」


ギーは、じっとゾイドを見つめると、淡々と続ける。


「君の心は綺麗なものばかりではないからね。君は、君の心のために苦しむことになるだろう。」


そう、言い放つと、ゾイドの頬に一瞬ギーのその長い指が触れて、何かの魔術が施されたらしい。指がゾイドに触れた直後から、ゾイドの体は光の粒で包まれ、なんとも言えない浮遊感がゾイドを包んだ。


ギーはゾイドに施した魔術の出来栄えに満足すると、もうゾイドに構う気はないらしい。

ゾイドに背を向けると、今度はギーはメリルに向かって話しかける。


「さあ、メリルおいで。君は優秀な子竜だね。まだ子供で、それに下界生まれなのに、ここまで迷子にならずに飛んできて、立派なものだ。」


「母様に、会いに来たの」


ゾイドはぎょっとする。

頭に響くのは、子供の声。これは、実際の声ではない。心の声だ。

間違いない。メリルの思想が、聞こえているのだ。


「きっと君の母様は喜ぶよ。メリル、君は人の姿になれるかい?」


メリルはうなずくと、大きな光の渦となり、その渦が光の粒を、形作った。

眩しいその光から現れたのは、赤い目をして、白い髪をした、おかっぱ頭の、小さな男の子だった。


「メリル。お前雄だったのか。。。」


ゾイドは、驚きのあまりに、その場から一歩も動けない。


竜人とは、竜の人と化したもの。

そして、下界生まれの高位の竜であるメリルも、竜人となる事ができたとは。


ゾイドの頭の中で、グルグルと、テオの集めた、竜人に関する様々な研究論文や古文書が巡る。高位の竜が人化したものが竜人であるとすれば、様々な疑問が、一気に解消する。


「ギー様、こいつのせいで母様は泣いてるの」


「母様はここにいるべきだと思う。」


その美しい唇を尖らせて、ゾイドの方を指差しながら、ギーにメリルは告げ口をする。

まだ幼児の姿をしているが、明らかに人ではない、美貌だ。


「それは、レイチェルが決める事だよ、彼女が何を願うか、そして願いを叶えてやるのが私たちの役目だ」


ニコニコとギーは、メリルの頭をポンポンと撫でてやる。


「母様は、とても心が綺麗だ」


まだ納得していないようなメリルは、口を尖らせながら、続ける。


「そうだね。君の産みの母の竜も、そう言っていた。」


「テオも心は綺麗だけれど、僕はあいつはあんまり好きじゃない。鬱陶しいんだ。」


「ははは、そうだね、テオは竜に対しては、愛情が暑苦しいほどだね。」


そして二人は、ゾイドの方をもう振り返ることもなく、和やかに会話をしながら、黄金の扉のその向こうに消えていった。


ゾイドは、一人でその後ろ姿を見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ