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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
チ・ブラ・マテソ

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テオとの優しく、心穏やかな日々は続く。


決して傷つかないと言う環境の中、レイチェルが引きこもる前の、手芸の針を握る前の、本来の姿も、ようやく薔薇の花弁を一枚一枚剥がすかのように、現れて来た。

レイチェルは、本来は男の子が好むような冒険譚が好きな、活発な娘だったのだ。

家から外に出るのが、人と関わるのが怖くなってしまう前は。


テオにレイチェルが最近教えてもらっているのが、テーブルゲーム。


テオは一度北の大国で、皇帝陛下の前で試合をしたほどの腕前だとかで、それぞれ贔屓の選手に、賭けるのが北の貴族の流行りらしい。

戦場を模したゲームで、お互いの要塞を崩して、王を絡めとった者が勝者だが、うまく駒を動かすと、敵国の宰相が寝返ったり、逆に、駒に使うはずの自国の王女が、ある程度の点数を敵方から与えられると出奔したりと、なかなか奥が深い。


「レイチェルは、そんな可憐ななりなのに、ものすごく大胆で、攻撃的な手を打つよね。カードの采配だけ見ていたら、どこかの辺境の騎士団の団長かと思ってしまう。」


テオは驚いて、苦笑いだ。

案外にも、レイチェルは、意外なまでに筋がよかった。


「テオ様こそ。絶対に、一箇所を徹底的に攻めるようなやり方をなさるのかと思ったら、じわじわいつも追い詰められて、最後には気がつかない間に負けるのですもの。優しいばかりのお方かと思っていたら、腹黒ですのねえ!」


二人は笑う。このゲームは、よく性格が出ると言われるが、テオは穏やかな顔をして、外堀を固めてネチネチと罠に相手が掛かるのを待つのが得意。


レイチェルの攻撃法は、遠慮がちにゲームを進めるわりには、後半になると、一気に捨て身の暴力的な方法で、一か八かで城を一気に攻めとるのだ。


レイチェルは、引きこもりで手芸ばかりだが、その錬成する魔術の組み合わせには、攻撃的とも読めるほどのやり方を採用して、よく失敗もしている。

レイチェルの性格も、テオの性格もよく表されている。


貴族の男達しか嗜まないような、模擬軍事のゲームをさせてみて、テオが発見したのは、レイチェルの控えめな心の奥に隠れていた、向こうみずで、勇ましい、冒険をこのむ本来の性格だ。


(兄上は、レイチェルのこの部分、知ってるのかな。。)


人見知りで、でもたおやかに強がっていると思えば、やはり繊細で、折れそうにか弱い。そうかと思えば、その奥には、こんなにも勇しく、向こうみずなレイチェルがいる。


カットされたグラスのように、ありとあらゆる角度が違った光を放ち、レイチェルは、いまだにキラキラと眩しく、テオの目には眩しすぎて、何も全体の姿が見えない。。


(兄上は、捕まえても捕まえても、その手の中からするりと逃げられると笑っていたな。)


テオが次のトラップを考えていると、いつの間に現れたのだろう、ギーが、興味深そうに静かに二人の勝負の行方を見守っていた。


「へえ。レイチェルはあの竜の子供みたいな心を持っているんだな。通りで魔力もないはずなのに、竜の子供が、君によく懐くわけだね。」


そう言って、レイチェルの隣に腰掛けた。

ゲームに加わるつもりらしく、手元の駒を引き寄せる。


「あら、この国にも竜の子供がいますの?」


レイチェルは、まだこの場所で、子供の竜にあったことがないのだ。


ギーは、そのしなやかな指を動かすと、完全に美しい、攻防のバランスの素晴らしい布陣を張って、レイチェルの暴力的な攻撃を、待ち受ける。


「いや、滅多にいないよ。子供はこの階層ではなく、上の階層で生まれるからね。私が話しているのは、君を訪ねてこようとしている下界の竜の子供だよ。」


そうして、ひらひらと布陣を動かすと、レイチェルの直線的な攻撃を絡めとる。


「下界の竜の子供??」


レイチェルは、不思議そうにきょとん、とした。が、次には手元の駒をどう動かすかを考えるので夢中だ。


「ああ、あの子は高位の竜だね。君の子供だと言っている。もうこの階層に入る転移の回路に飛んでいるから、もうしばらくすればやってくるよ。」


レイチェルは、次の手を考えるのが忙しすぎて、聞いていない様子だ。

ギーは、クスリ、とテオの方を見て、今度は、そのテオの手持ちの駒を、一つだけ、動かした。


「テオ、罠も守りも見事だが、ここを突破されたら、君の城は一気に瓦解してしまうよ。」


ギーは、テオが作り上げた断崖の要塞の、ある一部分を指差した。

意味深に微笑むギーに、テオは珍しい事に、大人気なくも、ムキになって声を荒げた。


「ギー!だが、ここを突破するのは、無理だ!断崖絶壁の先に、王女をかくまってる!誰にも触れられない!」


いきり立つテオに、ギーは片目をつぶって、


「そうだね、だが、敵軍の隊長が、竜の背に乗って、ここまで飛んで来たとしたら、どうだろう。」


そう言って、テオの作り上げた断崖の鉄壁の守りを、つん、と指で弾いて、中で守られていたテオの自軍の王女を自由にした。


ちなみに、このゲームには、竜は存在しない。

ギーは、暗喩を使って、テオに何かを伝えようとしている。


「まさか。。」


ギーは、楽しそうだ。


「やはり、下界は本当に楽しいね。生きとし生けるものの命が、こんなにも鮮やかだ。」


ギーの話も、テオの話も何も聞いていなかったレイチェルは、手元の駒をああでもない、こうでもないとうんうん考えを巡らして、


「これよ!」


と、嬉しそうにようやく駒を動かした。


ギーと、テオは、レイチェルの盤を見ると、顔を見合わせて、そしてギーはおかしそうに笑い出し、テオは白い顔をする。


「この勝負は私の勝ちで良くって?」


とても上機嫌なレイチェルは、いそいそと、席を立って、ギーの為に、桃を選びに果樹園に入る。


「あはは、これだからレイチェルの観察はやめられないね。。」


ギーは、本当におかしそうに、盤を片付け始める。


レイチェルは、鬼気迫る勝負の最中で、自軍の陣地の駒の配置を絶妙に調節して。


指をチョン、と王の駒に触れると、自軍の駒が全部がバタバタと一気に倒れる仕組みを、作り出し、見事に成功させていたのだ。


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