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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
白鳥城

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「あらー、今日は三人でお出かけ? いいわねえ。」


三人がすっかり朝食を終えて、食後のコーヒーを楽しんでいた頃、ようやくセリーヌ夫人は、遅れて朝食の卓につく。

三人とも、遠出するかのような外出着だ。領地の案内でもするのだろうと、セリーヌは考えたのだろう。


すっかり夜更かしして語り込んでしまった三人も、相当遅い朝を迎えたのだが、このご婦人は相当朝は苦手らしい。

まだ眠そうに、ニコニコと、ネコ・もとい魔獣のマーガレットちゃんを抱きながら、セリーヌ夫人は、のんびりと三人に歩み寄る。


レイチェルに贈られたスカーフが余程お気に召したらしい。

肩にかけられたスカーフから、フワフワと魔術が発動して具現化された妖精達の幻影を引き連れて、大変ご機嫌だ。


「ねえ、レイチェルちゃん、これ妖精も本当に素敵だけど、蝶でも素敵よ。それに、花びらが舞うようにしても素敵。また是非、作って頂戴な。うふふ、ウィルが帰ってくる前に、私、妖精の衣装を仕立てようかしら。ウィル、妖精の女王が城に現れた、って、びっくりしてくれるわ。」


レイチェルも、少女のようにニコニコと喜ぶセリーヌ夫人にとても和む。

政略で結ばれたというこの二人だが、夫婦仲は良いらしい。


だが、静かな朝を過ごしているはずのこの三人の目が、不穏にも、爛々と輝いている事にセリーヌは気が付いた。

。。ただの外出ではなさそうだ。


伊達に、このご婦人、兄弟の母を長年やっているわけではないのだ。


「。。あら、何かまた面白い魔術を見つけたのね。ダメよ、テオちゃん、前は北の城壁が半壊したでしょう。あれを隠し通すのは本当に厄介だったんだから。面倒はお父様が帰ってきてからにして頂戴な。」


プ、とゾイドが笑い、テオが憮然とする。


大型の魔術の発動は、王家に届出が必要なのだが、テオは、禁呪などの許可の降りない実験をこっそり城内で研究していたりするため、よく事故を起こすのだ。


リンデンバーグ城は、城自体に歴史的に仕掛けられている様々な魔術による仕掛けと、そして魔力の渦巻く魔の森に囲まれているため、大抵のこの城で発動する魔術に関しては、外からの監視は非常に困難だが、流石に城壁が破壊されるほどの大型の物、しかも禁呪の研究となると、話は別。


魔法伯爵も、前回の事故の隠蔽には相当骨を折ったそうだ。


「母上にはかないませんね。今日用事があるのは、宝物庫です。レイチェルを連れて帰ってきた目的の一つは、この城であれば、ある程度これからレイチェルが行うことが、隠せるからです。」


「。。まあゾイドちゃん、悪い子。あの刺繍をレイチェルちゃんに再現してもらうつもり?」


「。。レイチェルであれば、発動させる事ができると、確信しています。」


そして、ゾイドは、側に置いていた、レイチェルの手芸箱から、銀の糸を取り出す。


セリーヌ夫人は一目で、それが何か理解できたらしい。何か言いたげに口を開こうとすると、


「母上に、お願いが。」


優雅にゾイドは夫人の前で膝をついて、貴婦人に送る口づけを、セリーヌ夫人の手に贈った。


これが、いわゆるゾイドのおねだり方法らしい。

ゾイドに続いて、テオはセリーヌ夫人の頬に口づけを贈り、耳元で何かを囁いた。


この美しい貴公子達、実の母へのおねだりも無駄に美しい。

この美貌の兄弟を見慣れているレイチェルでさえも、赤面してしまう美しい光景だ。


こんな美麗なおねだりに負けない母親がいたら、お目にかかりたい物である。


ちなみにレイチェルがジーン子爵におねだりをする時は、ひたすら子爵の首にまとわりついて、猫撫で声を出すだけ。

ちょっと見習おうとレイチェルは思ってしまう。


成人した息子二人から口づけを贈られ、ご機嫌になってしまったらしい。

セリーヌ夫人はお願いを叶えてあげることにする。


「。。まあ、いいわ。気をつけて頂戴ね。ちょっとマーガレットちゃん、お母様から離れていて。」


そう、相変わらずフーフー威嚇しているマーガレットちゃんを胸から下ろすと、うふふ、と肩からスカーフを外し。


バ!!と腰を据えて、両手をいきなり、空にむけた。


(えええ??)


混乱するレイチェル。このゆったりした物腰のご婦人から想像できない素早い動きだったのだ。


そして、しばらくすると、ゴゴゴゴゴ!と地を揺るがす大きな地鳴りが起こり、城の上空には、城をポッカリと覆う大型の、非常に禍々しい、強い魔素を含んだ雷雲が発生していた。外部からは、この城の方角すら掴めないほど、魔力が撹乱しているだろう。


「うふ、これでしばらく魔力が撹乱するから、遊ぶのなら早くなさいな。」


ミギャー!と怯えて毛を逆立てるマーガレットちゃんは、カーテンの後ろに隠れてしまった。


「母上は、小さい魔術は苦手で、大型の雷の魔術しか発動できないんだ。。。」


なぜか恥ずかしそうに、テオが赤面する。


「まだ母上が少女の頃の、この雷の魔力を見初めた祖父が、父と政略結婚させたとか。父も、魔力は雷属性なので、強い雷の魔力の子供が生まれると思ったらしいのですが、息子は二人とも氷と炎の魔力で、さっぱり期待外れだったという笑い話です。」


ゾイドもテオも、さも面白い事のように笑いを堪えているが、レイチェルは全く、笑いどころが掴めない。

高位貴族の冗談は、本当に分かりづらい。


(それにしても、どこからどう見ても、光属性の治癒魔法がお得意そうなこのゆるふわご婦人が。。)


「先の大戦の時も、領地の結界は全部母上でしたね。」


「嫌だわあ、恥ずかしいからそのくらいにして頂戴。」


恐怖でガタガタ震えているマーガレットちゃんを、ヒョイと回収すると、ゆるふわ夫人は、


「気をつけてね!面白いものを見つけたら、お母様にも教えて頂戴な。」


それだけ言うと、食卓について、ひらり、ひらりと物凄い量の朝食を、開始した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 流石二人のお母様! 天使のように可愛らしいのに使える技はカメカメハか!みたいな雷どっかんどっかんとは…パワフル…!! 技がほぼほぼ漢…そりゃ山のような料理かっくらいますね。 魔女とのめんど…
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