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良い研究者である条件は、興味の対象にのめり込んで、昼も夜もなく対象を観察し、知り尽くし、研究を重ねる人々のことらしい。
良い研究者の、良い研究の対象になってしまったら、要するにたまったものではないのだ。
レイチェルは出会った頃のゾイドを思い出す。
(ゾイド様も、私のドレスに縫われていた術式に夢中になってしまって、思わず二曲踊ってからでしたわね。。。)
レイチェルはゲンナリだ。
朝食に現れたテオは、どん!と大きな書き付け紙を用意して待ち構えていた。
この所、こうやって毎朝が始まる。
金の瞳は爛々と輝いて、レイチェルの全てを記録しようと鼻息があらい。
テオは、レイチェルを研究対象とみなしたのだ。
竜の母にこそ、竜研究の鍵が隠されている。
そう勝手に解釈して、テオのやり方でレイチェルを観察する。正直非常に迷惑で、その上失礼極まりない。
「れれれれレイチェル、今日の起床時間は、いつもと同じ、装いは、あ、ああああ青のドレスだ。サロンは、は母上が指定しているサロンのもの、朝食は、イチゴ2粒と、ヨーグルト、チ、チーズ、あ、ああ兄上!!!」
「なんだテオ」
「ききき昨日より、ふた、ふふふ二口も余分に、チーズを摂取した!!」
「でかしたテオ、産地を探れ、レイチェルは少食だ。なんとしても太らせたい。ルード!出入りの業者をよべ!」
このおバカ兄弟は、レイチェルを観察したい弟と、レイチェルの事なら何でも知り尽くしたい兄によって利害が一致して、タッグを組まれて、二人してレイチェルの何もかもを記録しているのだ。
気持ち悪いし、迷惑だし、朝食もゆっくりとれやしない。
(本当に、似たもの兄弟ですのね。。)
朝食など、マシな方だ。
最近は毎日朝から晩までつきまとって、メリルの観察とほぼ同じやり方で、レイチェルのお昼寝の時間から、おやつの成分から、あまつの果てにはご不浄の場所の前までついてゆき、回数を記録して、資料にしているのだ。
「もう良い加減になさってテオ様!私の事は大体わかったでしょう!」
レイチェルは怒り狂うが、テオはどこふく風だ。
「レレレイチェル、君はきょきょきょ興味深いよ。地味なのに、頭も、そう、良くはないし、そ、それにち、ちっとも、美人ではない。」
テオは研究対象として、レイチェルを客観的に判断しているのだが、この失礼さ。
確かに、客観的に見てテオの評価は間違いでは、ない。
「なのに、兄上は夢中だし、フォ、フォートリーの男も、さ、砂漠の男も、君をて、に入れようと躍起だ。こここ、これは、おそらく因果関係が、ある。」
「メリルに、に、人間の男に反応があった様な、み、魅了を感じられる能力があるのかもしれない。君にだけ、従属するし、まままま、魔力まで転用させる。し、しばらくは観察させてもらう。」
「素晴らしい研究だ、テオ。私も良いかげんレイチェルによってくる男達に辟易としていた所だ。魅力が魔術やポーションで抑えられるものなら、是非とも研究を進めてほしい。レイチェルの魅力が理解できるのは私と、メリルだけで十分だ。」
どうもお互いの言い分や目的に相違がありそうだが、この仲良し兄弟は、しっかりと握手を交わし、研究協力を取り交わしている。
レイチェルは、もう頭が痛い。
「。。。さっさと塔に参りましょう、ゾイド様。」
もしもこの問題児がゾイドと同じタイプの研究者だとしたら、満足いくまで研究させてやらないと、何を言っても無駄なのだ。レイチェルは、ゾッとする。
(ああ。。メリル助けて頂戴。。)




