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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
テオ、という問題児

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アストリア使節団が、メリルを連れて帰国したのはゾイドとレイチェルが到着して、ちょうど3日後。

王都の空を飛ぶ飛龍を見ようと、街中は大勢の人々でごった返して、お祭り騒ぎの大騒ぎだ。

商魂たくましい下町の商人達は、メリルを形どった焼き菓子などを売りに出してみたり、そこそこの繁盛だ。


メリルは、誕生したばかりの王女に与えられた、遠くの砂漠の大国からの贈り物、ということになっており、砂漠の国で、ゾイドやレイチェルが何を行ったのかを知るのは、王族など、極々限られた人々のみだ。


それでも人の口に戸は立てられない。

メリルは聖女絡みの贈り物であることはまことしやかに人々の口の端に上がっている。そして、聖女がアストリアの乙女である事も。


「うわあ、すごいお祭り騒ぎですね、ゾイド様。」


「この国に竜が来るのは初めてだからね。またメリルは子龍で愛くるしいから、しばらくは盛り上がるだろうね。」


「前に来たのは、建国六百年の祝典の際に北の大国から借款した氷の竜だったしな。砂漠の竜が来るのは初めてだ。」


ジークも心なしか、ウキウキ嬉しそうだ。

竜という生き物は、どの男の心にも潜む少年の心をくすぐるものらしい。


竜は基本気候の厳しい場所にしか生息しない。

砂漠や、氷河の地帯、火山の火口など、人が住むことのできない場所にしか、野生の竜は生息しない。


年中穏やかな気候のアストリアに竜がやってくるのは、初めてのことなのだ。



レイチェルは、ゾイドとジークと共に第二王子の執務室から、使節団の帰還セレモニーを見ていた。


今日のレイチェルは、首まで詰まった白い繊細なレースのドレスに、水色や紫の小さな花で飾られた、それはそれは可愛らしいドレスの装いである。

服装に無頓着なレイチェルを、可愛い人形のように毎朝飾り立てるのが、ゾイドの、いわば最近の趣味だ。


どのドレスも不自然なまでに肌の露出が少ないドレスである事に、屋敷の使用人は苦笑いだが、レイチェルは気がついてもいない様子。


なお、今日の、ふんわりと耳の後ろでまとめた複雑なまとめ髪も、レイチェルの髪の毛を弄る喜びに目覚めてしまった、どこかの多忙な貴人の手によるもの。


ゾイドは砂漠での情熱的な再会より、毎日まるで、過保護な親鳥のごとくせっせとレイチェルの世話に励んでいる。

ゾイドの身分を鑑みると、ゾイドの評判にかかわるあまり侍女のような仕事は褒められた行動とは言えないのだが、ゾイド自身が、

「レイチェルの世話をする喜びを私から奪うな」と言って憚らないので、屋敷では、この困りものの屋敷の主人の好きなようにさせているという。


レイチェルのセレモニーへの不参加は、万が一にもレイチェルと砂漠の国との関与を、不用意に内外に知らせないためのジークの作戦であったが、ジークはレイチェルの指に妖しく光る、赤い石を見つけてしまい。頭を抱えてしまう。


ゾイドに石の出処を問いただそうとしたが、質問を口にしようとする度に、いちいち執務室が凍るので、諦めた。国家最高レベルの魅了までかかっている、砂漠の秘宝だ。大体の察しはつく。


(まあ、初見であの石が竜の喉の石だと気がつく様な人間は、王族か、上級魔道士か、竜研究者以外はいないだろうが。。)


ちなみにジークも赤い竜の喉の石を一つ所持しているが、曽祖母からの遺品で、王家の宝物殿に収納されていて、目にした事は数度しかない。


窓の外がワッと大きな歓声に包まれた。


「竜だ!!」


子供の声が聞こえてくる。

思わずジークも窓から体を乗り出した。


レイチェルもふと窓の外に目をやると、白い子供の竜が気持ち良さそうに、アストリアの空を旋回していた。


「メリル!!」


白い巨体を旋回させて、悠々と空を飛行するメリルの姿は優雅で、そして可愛らしく、あっという間にアストリア国民の心を奪ってしまった。


「ああ愛しい人。メリルを迎えに行ったら、すぐに帰ってきます。どうか悪い虫を近づけないように。手芸用品は、ここにありますが、ちゃんと日のあたるところで、目を近づけすぎないように、後、、」


「ゾイド様!大丈夫ですわよ、私、しばらく針を触ってなかったので、静かに刺繍をしておりますから・大丈夫ですから!」


(悪い虫って、こんな王宮の最奥で、対魔法だのなんだので牢獄みたいな結界を張ってる部屋に、何が起こるというんだ。。)


ジークは半眼になってしまう。

ゾイドの執着の塊のような強固な結界の貼られた部屋の中で、レイチェルはまさに籠の鳥のごとくだ。


高らかなトランペットの音が響いた。合図だ。

ゾイドはレイチェルにそっと口づけを落とすと、ジークと共に、執務室を後にした。

アストリア使節団の団長として、メリルを王女に引き渡す儀式が待っているのだ。


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