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ちょうどその時である。
王宮から西の方角に、ありえない強度の衝撃波が発生し、王宮の壁の一部が破壊されるほどの揺れが感じられるほどだった。
(ファティマ。。そうか、成功したのか。)
ヤザーンは、西の方向をじっと見つめた。
西は、ヤザーンの滅びた母国のある方向。今は荒地となり、ヒースだけが、ただ生い茂る。
(なんという、魔力。。。)
ユーセフは、この衝撃波を発生させた人物が、アストリアのパシャ、ゾイドである事を知っている。
なんたる膨大な魔力。なんたる威力。
あのパシャは、砂漠の賢者の生まれ変わりだ。あの赤い目は、伝説の砂漠の賢者の伝説と同じではないか。
足が動かない。あれは人間ではない。悪魔だ。
そして、レイチェルに向き直る。
目の前の娘はなんだ。ユーセフの強力な魔術を直接浴びながら、魔術をかけられた事に、気がついてもいない。鬼気迫る顔つきで、絨毯に集中している。
「石」は、伝説上の生き物だ。
実在する事は、確認されているが、それはこの砂漠の始祖、双頭の竜ほどの稀さだ。どんな魔術にも左右されない石の様な肉体と、どんな人間にも左右されない、石の様な魂を持つという。
この二人はいったい、なんだ。
背中を汗が流れる。
弱小国、アストリア王国の使節団の、賢者とその侍女。
ただそれだけのはずだ。
ユーセフが望めば、アストリアなど一年もせず制圧できる国。
ヤザーンは、ヒョコヒョコと、先ほどの衝撃で落ちたレイチェルのショールを掛けてやりながら言った。
「。。なるほど。。偉大なパシャが、この地味で、令嬢としてはどうしようも無い娘にご執心なさるはずです。。」
「パシャ?ただのパシャの侍女だろう、この娘。」
「いえ、パシャの婚約者です。返礼団の一員で、解読班所属らしいですよ。ほら、あの青い腕輪が、アストリア第二王子直属の証。確か今は、王弟になるのですかね、あの若造。」
ユーセフのはめた指輪の方ではない腕には、アストリア王家の家紋が入った腕輪があった。
アストリア国では、女でも政務や研究職についたりするという風習を、そういえば聞いた事がある。随分野蛮な風習だとは思っていたが。
ヤザーンは、レイチェルの、先ほどの魔術でさらに酷い状態になっている髪を丁寧にまとめてやると、言った。
「片時も離れたくないと、パシャがここまで連れてきたとか。グフグフ、野蛮ですが良いですね、若いアストリアの恋人というのは。」
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ファティマは、その光魔術の最大の出力で結界を張って、その衝撃に耐えていた。ファティマの知る限り、最も強力な結界をしても、中でうける衝撃波は凄まじく、屈強な従者は皆総がかりでファティマを守る。
「パシャ!!!!」
天を焦がす黒い炎は、ビシ、ビシ、と足元から氷になってゆき、禍々しい断末魔の様な黒い炎の呪いの声が、砂漠中をこだました。
凄まじい暴風が砂漠を駆け巡り、砂漠の精霊たちが飛び回る。
竜達は怯え、砂漠のあちこちから、大勢の竜が空に飛び立つ。
竜は黒い雲を呼び込み、嵐が近づく。
広い神聖な砂漠は、混沌の最中だ。
ようやく衝撃波が収まったらしい。
黒い、天を焦がす炎は、黒い溶岩の塊の様な氷の塔となり、凄まじい音を立てて、崩れて、そして砂に返ってゆく。
砂漠の混沌のその真ん中に、一人の男が立っていた。
氷の魔力を帯びて白く輝き、赤い目を爛々とさせた、人外に美しい男だ。
ゾイドだ。
その姿は、砂漠の悪魔。砂漠の神。砂漠の主のごとくの美しさだ。
(人ではないわ。。パシャは、砂漠の悪魔に違いない。。)
こんな男を手玉に取ろうと思っていた自分が、酷く恐ろしい。
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衝撃波が収まった。
ディノは、崩れた岩の下から、なんとか這い出てきた。
(なぜ、、生きている?)
あちこちを打ち付けているが、どこの骨も折れていない。
氷の柱となった黒い炎が、砂にかえっていく。
目の前には、白い魔力を纏った、赤い瞳の人外に美しい男が立っていた。
成功したらしい。
砂漠は、救われるのだ。
ディノは、自らの身の周りに、薄い青い光がまといついている事に気がついた。光の魔術が発動している。これが、ディノの命を救ったらしい。
(ファティマ、か。。)
ディノの腕には、ファティマの隊の所属である証の、銀の腕輪が嵌ってあった。術式は腕輪から発動している。
この腕輪の内部には、蛇の毒が仕込んであるはずだ。
砂漠の民である事の誇りを損じられる時、これをあおって、命と引き換えに誇りを守るのだ。
ディノは、腕輪の中を開けてみる。
中には毒ではなく、ファティマの光の守護魔術が展開されていた。
祈祷文には、こうあった。
「偉大な砂漠の神、偉大な砂漠の神。わが愛を捧げる唯一の男、ディノのその身の守護を。光輝くその偉大な力で、わが愛を媒体に、守護の祝福を。」
ディノの潰れた目には、あの婚約を発表された日の、輝かんがばかりの美しさのファティマの姿が映し出される。
(。。ファティマ!!)




