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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
ヨルと、ユーセフ、そして砂漠の星

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洞窟を出ると、屈強なファティマの従者達が、皆ひれ伏せて、ゾイドを待っていた。


「パシャ、どうか砂漠をお救いください!」

「パシャ、未来の我らの子供の為にどうか!」


口々に、白い背中は叫ぶ。この国の男達は非常に誇りが高い。異国人にひれ伏すなど、あってはならぬ事なのだ。


ゾイドは呟いた。


「。。。砂漠の雨を、お前達が生きている間に、目にする事が無いと、知っている上での、事という訳か。。」


一人の若い男が叫んだ。


「それでも!」


。。この男達は、そしてファティマは、砂漠が、滅んだ母国と運命を共にすることを望んでいない。

例えそれが、母国を滅したダリウスを救い、その血を引いた子に砂漠の未来を明け渡す事となっても、だ。

そして、亡き王の意志を違える事となっても、だ。


誇り高い砂漠の民の、神に仕えるこの民族は、砂漠の未来をつなげる事を選んだ。


。。いいだろう。


ゾイドは、心を決めた。

感情のわかりにくいその表情のまま、よくとおるその声で、告げた。

後にファティマは、その時のゾイドの声は、砂漠の神からの天啓のごとくであった、と吟遊詩人に語っている。


「ファティマ。お前達の誇りを、勇気を称える。私が力になろう。怒れる火の神の元まで案内を。」


男達は言葉もなく、拳でその流れ落ちるものを振り払い、一斉にラクダを動かす準備を始めた。ファティマはゾイドの足元に崩れ落ち、肩を震わせ、泣いた。


(砂漠は。。救われる。。)


/////////////////////////////////////////


一心不乱に、取り憑かれた様に絨毯に取り組むレイチェルを前に、ユーセフは、考えていた。


この男は、大人である。そしてこの砂漠の大国の大権力者である。

欲しいものは、力ずくで奪うのが、この男のやり方である。一瞬度肝を抜かれたし、あまりに想定外で、一瞬困ってしまったが、いつものやり方で、手に入れる事にする。


この娘が酷い格好をしていようが、心がヨルの元になかろうが、関係は無い。


ユーセフは、ゆっくりと、口を開いた。


「レイチェル。」


一心不乱に絨毯に向かうレイチェルは、ユーセフの呼びかけに答えない。ユーセフは、気に止めず、続ける。


「レイチェル、私はね、砂漠にいる間、ずっと君の事を考えていたんだ。」


レイチェルは何も聞いていない。糸を変え、ハサミをいれる音だけが響く。


「君の瞳、君の声、君の、メリルの様な香り。。。どれだけ私が、君を欲していたか、苦しいくらいわかったよ。」


「私は君に隣にいて欲しい。君に笑いかけて欲しい。それが私の願いだ。私はどうやら、恋に落ちたらしいよ。」


レイチェルは、ユーセフがそこいる事にも、非常に危険な話をしている事にも、気がついていない様子。ユーセフは、その妖しい美しい顔に、悪い笑みを浮かべて、囁いた。


「レイチェル、君の柔らかい肌に触れたい。君の甘い唇を味わいたい。君を私の下に組み敷きたい。」


ユーセフは、赤い、小さな指輪を手にとると、レイチェルの側まで近づいて、その手を無理やり絨毯から引き離した。酷い手をしている。擦り傷だらけで、針ダコがあちこちにある。


ようやくレイチェルは、ヨルに気がついたらしい。


「ヨル!ちょっと、未婚の女性に触れるなんて、いくらヨルでも、失礼よ!」


そして、レイチェルは、ヨルの顔を見て、愕然とした。


(。。誰、この人。。)


ヨルだと思っていた男は、明らかにヨルでは無い。

この男は、ヨルの姿をした、誰か別人だ。冷たい、そして獰猛な砂漠の野獣の様な目で、レイチェルを見下ろして、その小さな手に、妖しく光る赤い指輪をはめて、男は言った。


「レイチェル、私の名はユーセフ。この国の第一王子。東館の主人だ。君を私の妃に迎える。」


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