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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
砂漠からの風

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年明けすぐに、アストリア王妃は待望の第一子となる可愛い女の赤子を出産した。


国中がお祝いムードに沸く中、(ゾイドにいわせたら、ドサクサ紛れに、)クイーンズコート会議の内容が公に発表されて、議会の承認後、この赤子は王継の王女となった。


時を同じくして、フォートリーにても、クイーンズコート会議の内容が正式に受理され、王女ガートルードの次代の王継が認められた。


新時代の幕開けである。


恋する王女、ガートルードは、実に優秀な政治家であった。

未だ国交の成立していない、アストリア第二王子ジークへの恋情を、格調高い詩を吟じて、年明けの王継の儀式の際に世に知らしめたのだ。


吟遊詩人達はこの格好の話題に飛びついて、様々なアレンジを加えて四方八方に飛び立った。

大衆は娯楽に飢えているのだ。

大衆は、国によって引き裂かれた不幸な貴人の恋物語として、今や下町では劇まで上演されているそうな。


今や大陸中で、この恋物語について知らぬものはいない。


力技でジークをモノにしようとする、次期王女の姿勢は天晴れだ。


//////////////////////


「いやー、レイチェル嬢のおかげで、もう国内のご令嬢とのお見合いに出なくて良いわ、フォート・リーとの国交は回復しそうだわ。本当にありがとう。まさか王族に生まれて、恋愛結婚が叶うとはね、いや、私は本当に運が良い。」


ジークはこの上なく機嫌が良い。


こうも世論を味方にした二人の恋物語を利用し、閣議は国交再開にむけて、前向きな政治的な動きを見せていると言う。


ジークはそもそも、他国に婿入りする為に教育を受けてきた、アストリア国第二王子だ。

フォート・リーにとっては、これ以上ない王配となるだろう。


アストリアにとっても、フォート・リーにとっても、この女神の采配のような良い縁談話など、もうきっと、ない。


もしもこの二人の結婚が成立すれば、フォート・リーはアストリアに、国境のハドソン川をまたいだ橋を架け、アストリアはルーズベルトの聖地を、持参金代わりに、フォート・リーと共同統治の場とするという。


「。。兄さまとの政略結婚の話が出ているのよ。。本当に、頼むからガートルード様には頑張っていただかないと。。」


ジジはゲンナリした顔で、大きなパイを一気に口に放り込んだ。


ジジの成長不全が解決した途端、ジークと、ジジの政略結婚の話が降って湧いてきているのだ。

もし、ガートルードとの婚姻が成立しなかった場合、ジークの相手はジジとなる。確かに、アストリア第二王子とロッカウェイ公女との政略結婚は、身分的にも、政治的にも両国にとって利となる物だ。


ジジはすっかり成長した体の厄介さを痛感している所だ。

大人には、大人の厄介さがあるのだ。遊んでばかりはいられない。

さっさと良い男捕まえないと、ジジは有無を言わせずに国益となる男との政略結婚をむすばされるだろう。


あちこちから感謝されて、まあ、ありがたくて良いのではあるが、レイチェルはいつも通りだ。

ゾイドはジークの名代として、フォート・リーに出張中だ。


今日は、散々レイチェルの代わりに魔術師達に脳味噌をひっくり返されるが如く様々な質問だの記録だの、調査だのに駆り出されていた、ローランドの慰労の為にたくさんパイを焼いてきたのだ。


ゾイドから自慢されていたらしいジークやルイスも混じって、久しぶりにレイチェルの工房の様な研究室は、大勢の美貌の貴人で、宝石箱をひっくり返した様相だ。まだジジは体が痛いらしいが、食欲は相変わらずで、レイチェルの焼いてきたパイは、半刻ですべてなくなった。


「で、リンデンバーグ魔法伯に会ったんだってな。あのお方の二つ名は、「悪い知らせ」だぜ。俺だったらあの方と二人になったら泣く自信あるわ。」


相変わらず口の減らないルイスは、軍事天文学を、ウィルヘルムに学んでいた時期があるらしい。


「酷い二つ名ね!ちょっと怖かったけど悪い方ではないわよ。伯爵様に言わせると、テオ様の方が余程厄介だそうだわ。今からお会いするのが怖いもの。」


ルイスとローランドは、顔を見合わせて何やら意味深に笑った。

二人とも、個人的にテオ様とやらをご存知らしい。


二人とも、また半笑いでレイチェルの胸元のサファイアと、蝙蝠石を見ると、


「。。まあ、テオドア様に今のその蝙蝠石も、サファイアも見せない方がいいな、それだけは言える。」


と、呟いた。


研究室にこもり、魔術を施した手芸をして、ジジとパイを食べて、それから家に帰る。時々ウィルヘルムの領地から、手紙がきて、魔女の術式や星の並びに関する情報交換があって、いつも通り実家から、オレンジの香りのする紅茶が届く。ゾイドからは留守の間毎日、花が届けられるように、手配されていた。静かな毎日だ。


そう思っているのは、レイチェルだけ。引きこもり令嬢は、外の世界で何が起こっているのか、何も知らないのだ。




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