表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
ゾイドの館

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

132/246

132

さも当然の様に、先ほどまでライラが座っていた席にウィルヘルムは腰をおろす。

冬の最中でも、この部屋は日の光で溢れ、とても美しく、暖かい。


(このお部屋でマリベルと、もうちょっと遊びたかったわ。。。)


既視感は、ガートルードの来訪がまるきり同じ様子だった事だろう。

あの月光の様な美しいお姫様は、お元気かしら。ジーク様と上手くいけば良いのだけれど。


「ルード、いつものを持ってきてくれ。ここの御令嬢にも。茶器はアンセムの茶器で。」


どうやらウィルヘルムはお茶へのこだわりが非常に強いらしい。

今までライラと楽しんでいたお茶を断りもなく片付けさせると、ルードに新しい茶器で入れた、新しいお茶を持ってきてくれた。


これまた、卵の殻のごとく薄い、繊細な作りのカップに注がれた紅茶を薦められたが、レイチェルは茶器を手に、ただただため息だ。この屋敷は、何もかもいちいち全てが、度を越して美しいのだ。


(こ、こんな繊細なカップなんて、ちょっとでも乱暴に扱ったら、手の中で粉々になってしまうわ。。それに何、この香りの芳しさ。。)


ゾイドはさも当たり前の様にすっかりくつろいで、優雅にカップに手を伸ばす。この男にとって、自身の美貌も含めて、度を越した美は、日常なのだ。


「さて、ゾイド。そろそろこのお嬢さんを紹介してくれるのか?」


矢を刺す様な鋭い目つきで、ゾイドに言い放つ。

ゾイドは、やれやれ、とそれでもレイチェルを紹介した。


「この天上のお方は、レイチェル・ジーン子爵令嬢。私の最愛の婚約者で、私の全てです。父上がその鋭い目でそうじろじろ見つめて、減っては困りますので、あまりそう不躾に見ないでいただけますか。」


(ほう。。この息子にここまで言わせたか。)


息子の女性遍歴は、ある程度は耳に届いている。

絶世の美女と呼ばれた歌姫から、連合国の姫君、領地の豪族の娘、皆必死の形相でこの魔物の如く美しい息子の愛を得ようとしたが、息子が気まぐれの愛以上の愛を与えた令嬢はいない。


ウィルヘルムは、豪快に笑うと、今度はギラリと鋭い眼光をレイチェルに向け、向き直った。


「なかなかの手腕だ。息子がここまで溺れているとは、恐れ入ったよお嬢さん。実に興味深い。」


ウィルヘルムはレイチェルの正体に大体の目星をつけたつもりでいるのだ。

満足そうに、そして不遜に言い放った。


(石の乙女は実にタチが悪い、そして見事な女狐だ。)


リンデンバーグ家の当主としては、石の乙女が息子の子を為してくれるのであれば、どんな悪女であろうが女狐であろうが、何も問題はない。後継にゾイドの様な不世出の天才の誕生が約束されるのだ。


だが家を乗っ取る気であれば、また他の男も同時にたぶらかして手玉に取るつもりであれば、相手を間違えている。


「はあ。。ご、ご紹介に上がりました、レイチェル・ジーンです。。ええと、実家は公用紙の卸しを生業にしております。。趣味は、手芸です。。ゾイド様と、お、お付き合いをさせていただいております。。」


レイチェルは、その鋭い眼光に射すくめられて、吐きそうだ。


(真っ直ぐこのお方の目を見たら、きっと泉の呪いの様に、石にされるか燃やされてしまいそうだわ。。でもやっぱりゾイド様に目元とか、口元とか似ていらっしゃるわ。。お二人が並んだ’所は、氷の彫像の様に美しいですもの。。)


足がすくみながらも、不敬にもジロジロとご尊顔を眺めてしまいそうで、目の置き所に困って、なんとなく伯爵の手元に目線をやる。

小指には、大粒のサンゴでできた指輪。細かい彫りが入っている。

腕を包むのは、柔らかそうな黒いジャケット、そしてその袖口から、美しい不思議な刺繍が施されたブラウスの袖が覗いていた。


(あれ、これ、本で見たやつだ。)


ゾイドは、急にレイチェルの瞳孔が開いた事に気づく。

何か面白いものを見つけたのだろう。


「石の乙女。下穿きの聖女。一体何が望みだ。言ってみよ。」


(なんでジーク王子といい、高貴な方は皆、すぐに何が望みか聞いてくるのかしら。。というか、下穿きの聖女って、なにかしら。)


レイチェルは、まさかウィルヘルムが、レイチェルの事を稀代の悪女で、リンデンバーグ家の乗っ取りだの、ルークとの二重婚約を画策していると思っているなど、夢にも思いつかない。ましてや取引を持ち掛けている事も。


そもそも悪女どころか、レイチェルは引きこもりだ。


ゾイドは不愉快な表情で父を牽制しようとして、そしてやめた。

レイチェルは、こういう輩への対応には、実に信用に足るのだ。一つレイチェルの好きにさせてみよう。


最近この手の会話が多かったので、レイチェルはこういう時は遠慮しなくて良いことを学んでいる。

なんだかよくわからないが、望みをかなえてくれそうだ。

それならと、レイチェルはすぐに望みを口にする。


「では、お言葉に甘えて、ちょっとその袖を見せてくださいませんか。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ