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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
ゾイドの館

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たった一刻半の船旅で、フォート・リーの王都からアストリアに到着する。


遠いはずのアストリアは本当にもうすぐなのだ。

船内ではようやく、本当に久しぶりに、ジーク殿下に挨拶が叶う。フォート・リーでは最後まで、拝謁する事はできなかったのだ。


ジークも、レイチェルも、それぞれの立場での戦いがあったが、ジークのそれはより繊細で、重責の伴うものだった。ジークの疲れ果てた青い顔が、物語る。


それでも大変機嫌が良いのは、開戦の回避という王族としての大仕事の成功、女神の遺跡における学術的新発見という魔術の研究者としての喜び、そして、ようやく見つけた可愛い女性との出会いという、一人の若者としての嬉しさだ。


連日の緊張で青白く、そして興奮で頬を興奮で紅潮させたこの美貌の貴公子は、深くレイチェルに頭を垂れた。

この娘の、アストリア国への功績と、そして魔術界への功績、そしてジーク個人のからの感謝は計り知れない。


「レイチェル嬢、迎えが遅れて本当にすまなかった。ありがとう。この度の貴女の働きへの感謝は、言葉を尽くしても尽くしきれない。深く感謝をする。」


そして、貴婦人にするように、レイチェルの小さな手をとって、爪の先に口づけを落とした。

レイチェルの身分で、王族からうける事のできる、最大限の名誉だ。


「いえ、勿体ないお言葉を頂戴して。。大した事は何もしておりませんので。。」


(それよりも、この方をどうにかして頂けたら、とっても助かるのですが。。)


ルーズベルトの聖地を超えると、そこは国境だ。

アストリアの領川に船が滑り入った瞬間から、ゾイドにひょい、と後ろから抱えられて、今まで片時も離してもらっていないどころか、地面に足も着かせてもらっていない。

ローブの中に連れ込まれて、唯でさえ大きな体躯のゾイドと、小柄なレイチェルで、まるでこれでは子供とその父のようだ。


任務は終了しましたので、後は自由に過ごさせていただきますと言って、ゾイドはレイチェルを抱えて涼しい顔だ。

どうやらフォート・リーにいる間、あれでも任務中として勝手な行動は慎んでいたつもりらしい。


そういった訳で、殿下の御前で、大変栄誉な挨拶を賜っている最中だというのに、レイチェルはゾイドの膝の上にいる。

一応ゾイドに抗議はしてみたのだが、あのボンクラ殿下のせいで貴女をこんな怖い目に合わせたのだから、と聞く耳は一切持たない。

それどころか、貴女はなぜ離れたがるのですか、私は貴女とこんなに触れていたいのに、と心底不思議そうな顔をして尋ねられたレイチェルは、この盛大に困ったお人の、したいようにさせてやるしかなかった。


殿下はというと、暴走中のゾイドには放っておくに限る、と言わんばかりに、いない事にしているらしい。

レイチェルが御前にも関わらず、この男の膝の乗っている事に、何も触れない。

察するに、レイチェルが拐われてから、何度も暴走があったのだろう。

こういう時のゾイドには何を言っても無駄だと学ぶほどには、暴走の被害にあっているらしい。

この高貴なお人に、少し同情してしまう。


「レイチェル嬢、何か望みはないか。」


水色の瞳で真っ直ぐにゾイドの膝の上のレイチェルを見つめるが、質問した相手はレイチェルだ。

きっと今、レイチェルがジークの妻の座を求めても、ジークは聞き入れるだろう質問であるのに、レイチェルは相変わらずの返答だ。


「えーっと、とりあえず家に帰りたいです。それからしばらく家でゆっくりしたら、お姉様の所とお父様の所に顔を出して、それから留守の間の掃除がしたいので、一週間ほどお休みをくださいませ。」


半ば、レイチェルならそういう事を答えるだろうとは思ったが、ジークは苦笑だ。


「。。家、な。いいだろう。警備の問題もある。休暇中は基本、家に滞在する事を条件に、ゾイド、お前とレイチェルに二週間の休みを与える。休みを終えたら、二人とも、女神の遺跡の解読の続きがある。ローランドが質問攻めで殺される前に、研究所に出て行ってやってくれ。」


可哀想なローランドは、貪欲な知識欲の魔術士達に朝もなく夜もなく付き合わされているのだ。

魔術師は気ままで、身勝手だ。おそらく食事中だろうが、下手をしたら寝室にまでもローランドは追いかけ回されて、質問攻めにされているのだろう。


「殿下、御心のままに。ではジジに処方しているポーションについての配合は後ほど家令に持たせましょう。後、東の宮殿で来週行われる会議についてですが。。」


それからレイチェルを膝に載せながら、ゾイドは事務的な話を淡々とジークと続ける。フォート・リーの魔術団に送る資料の内容や、石化ポーションの種類と処方箋などの細かい内容をジークと語るゾイドは、まるで膝の上のレイチェルなどいないかのようにきっちりと話をつめてゆく。


久しぶりに目の当たりにする、仕事人としてのゾイドに、レイチェルも少し心が踊る。やはり仕事中の男はかっこいい。レイチェルはゾイドの猫にでもなった気分で、静かにその膝の感触を楽しむ事にした。


(しばらく家に帰ってないから、まずは大掃除からよね。。姉様の赤ちゃんはマリベルっていうのよね。産着に名前を入れてあげたかったな。お義兄様に似ているらしいけど、早く会って抱っこしたいわ。。お父様の髪の毛は大丈夫かしら。心配ばかりかけてしまって、親不孝ね、私。。)


船はもうアストリアの軍港に近づいていた。

レイチェルに、ルーナから持たされたお菓子は、まだ温かさを失っていなかった。

フォートリーはこんなに近くなのだ。


軍港には迎えが来ていた。


遠くに立っている、しなやかな鞭の様な長い足と、漆黒の黒髪は、きっとルイスだ。

デッキに出ているレイチェルの姿を確認したら、立てないほど爆笑している。

これはルイスに間違いない。


「ではレイチェル嬢、「家」に送らせよう。二週間後にゆっくりと話を聴こう。」


「お気遣いに感謝を。では二週間後、王宮で。」


ゾイドは、王家の紋の入った黒い馬車に、レイチェルと乗り込むと、馬を走らせた。


この時に、レイチェルの言った「家」は、騎士の駐屯所の小さなレイチェルの寮にしている一軒家か、実家である子爵の館のつもりだったのだが。。。


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