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レイチェル・ジーンは踊らない  作者: Moonshine
恋の行方

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「発言を許そう石の乙女。貴様何を知っている。」


フォート・リー王は、威圧的に、鋭く言葉を放った。

一斉にレイチェルに会場中の視線が注がれる。


引きこもり令嬢は気が遠くなりそうだ。これだけ大勢の人前で話すのは、人生で初めてだ。震えが襲ってき、顔は熱をもつ。


(高貴な方々ばかり。。がんばれ、がんばれ私。。。こ、これは大切な女神様の為よ。。)


レイチェルに寄せる視線は、刺す様に厳しい。

高位貴族ばかり、それも国を代表する様な、各国の名のしれた魔術のエリート達ばかりの集まりだ。

若い、身分も貴族の末端の娘が何をいうか。ギシギシと軋む様な空気の中、レイチェルの口は乾き、手の平には汗がじわりと感じる。


痛い様な訝し気な視線の厳しさで、気が遠くなりそうになるその中、ふとレイチェルは優しい穏やかな目を見つけた。


ロッカウェイ公国席から、の目も覚める様な美女は、多分ジジだと思う。今日のジジはあまりに美しいので、本当にジジなのかさっぱり確証はないが、ニヤニヤしながらレイチェルを見ている。

声に出さずに、口の動きだけで、(やっちゃえ)と。ジジだと、思う。

その隣はジジの父の公爵だ。

レイチェルの立場を、軟禁から、客人の立場までに変えて見せた巧みな外交術で有名な公爵は、穏やかな顔でレイチェルを観察している。

だが目の奥は勝負師の目をして、こちらを見ている。賭博で身を崩した、王宮の厩舎のオヤジと同じ目だ。きっとこの公爵は問題児に違いない。


興味深そうにこちらを覗き込んでいるのは、アストリア国調査団席の、ジーク王子。ひらひらと手を振ってくれているが、少しお痩せになったかしら。あちらは古語研究室のおじいちゃん。レイチェルの研究室のお隣だ。あ、おじいちゃんは確か魔術の大辞典の著者だっけ。レイチェルが泡を食わせてしまった、アストリア神殿長はハラハラした顔でこちらを見ている。


そして、ゾイド。いつもの表情の読めない人外の美貌のお顔でこちらを見ていた。


(私の心配してるのね、ゾイド様。)


レイチェルは極度の緊張の中、すっかり、苦笑してしまった。


その陶器でできた仮面のごとく美麗な、表情の読めないその顔のその奥には、感情豊かな、とても困った少年の様なお人が、隠れている事を、レイチェルはもう知っているのだ。

今だって、よくよくみれば、ゾイドの組まれた腕に置かれた指は、忙しなくトントンと動いているし、少し。ほんの少しだが、首が傾いている。


レイチェルは真っ直ぐにゾイドの方を見て、にっこりと笑って見せる。


ゾイドはレイチェルに見つめられて少し焦ったらしく、その表情を一切動かす事なく、しかし足を組み換えた。


レイチェル以外には、ゾイドの豊かな感情の揺れなど、誰も気がつかなかっただろう。よく注意を払えば、こんなにも可愛らしいのに。


(ありがとう、ゾイド様。)


すっかり心が鎮まったレイチェルは、大きく一つ、息を吸い込むと、壇上に上がった。震えは、いつの間にか止まっていた。


////////////////////


「・・ええと、ここと、ここと、この部分の女神の記載がその証拠になります。」


レイチェルは、おっかなびっくり、しかし確信的な手つきで、手元の資料の写しに、赤い印をつけてゆく。

魔術で会場に大きく映し出された資料の、レイチェルのつけた印はゆらゆらと光り、会場の全ての参加者に知識が共有される。


印されたのは、今回発見された、現存する最古の女神系譜よりも数世紀古い時代に書かれた系譜。そして完全な新発見となる、女神讃歌だ。


男性詞、女性詞が分化する、まだ数世代前の古代言語でそれらは記されていた。

この言語の解読はまだ半分も進んでいない。今回の発見で、全解読の糸口が見つかるだろう事が期待されているが、何を根拠にこの娘は、一体何を言い出すのだろう。


会場はどよめく。


ほとんどは、悪い意味合いでだ。古代語の研究者でもない、身分もようやく子爵の小娘に、何がわかるというのか。そんな陰口が会場にさざめく。


レイチェルが印をつけたのは、全て、三角の形をした古代文字だ。女神の名前が記される際、その接頭詞として、所々見られる。

まだ解読はされていないが、おそらく「力」や、「尊い」、もしくは感嘆詞の一種という解読となるであろうとされている。


「お嬢さん、この印がなぜ証明になるのか、理解の悪い私にでも、分かりやすい言葉で説明してくれないかな。ここの皆は生憎、私に噛み砕いて説明をしてくれるほど、暇ではなくてね。」


丁寧に聞こえるが、実質意地悪な言葉を発したのは、フォート・リーの神官。

この男はルーズベルトの聖地がフォート・リーの領地となった暁には、神殿の副神殿長に抜擢されるという手筈だった。

レイチェルはこの意地悪な言い方に少し怯んでしまう。


「だ、だって、」


言葉がもつれて、少し涙目になってくる。


そら、何も知らないのに嘴を突っ込むからだ。

無知な若い令嬢など、どうせ少しきつい言葉を投げれば、すぐに泣いて、黙るだろう。

そんな冷ややかな空気で会場はみちる。

だが、大方の予想に反し、レイチェルは今度は背を伸ばし、キッと会場を見渡した。


残念令嬢は駆け引きなどした事がないので、人の言ったことは素直に受け止める。わかりやすい言葉が必要なら、わかりやすい言葉をつなぐまでだ。結果爆弾発言となったりしてしまい、後で場を治めるのが大変だったりするのだが、レイチェルに言わせれば、そんな要望する方が悪い、と思う。


そして、レイチェルは、会場に響き渡る大きな声で、高らかに、そして非常に意外な言葉を宣言した。


「この三角は男性器その物の象徴ですもの!しかもこれだけ立派な物ですと、最高の物をお持ちだと、そういう事なんですわ!!!」


会場が冬の海のように凍りついて、静まりかえったのは、レイチェルだけのせいではないだろう。


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