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泉の呪いが解けて、もう一週間くらいの時は過ぎただろう。
王宮は蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
まずロッカウェイ公国の公爵と公爵妃が、早馬でジジの元に駆けつけた。
フォート・リーとロッカウェイの国交はまだ樹立されていない状態だが、八方手を尽くしても、解決しなかった公女の魔力過多の問題の解決を知らされ、居ても立っても居られない、良き親としての訪問だ。
フォート・リー王は、歓待する以外の道はない。
そもそもジジの召喚はフォート・リーの意向だ。
そして公女を危険に晒した不手際もある。
なし崩し的にロッカウェイとフォート・リーの友好条約が締結されたのは、その直後。公女ジジの功績は大きい。
そしてアストリアからの学術研究団を引き連れた、ジジへの見舞いが許された。公爵の希望だ。苦虫を噛み潰したような顔で、アストリアの使節団を迎えたフォート・リー王を前に、使節団の代表として、ジーク第二王子は膝を折った。
愛娘の留学を支え続けたアストリア国への返礼と、ジジの成長不全の解決のきっかけとなったフォート・リーに感謝を示して、ロッカウェイ公国はアストリア国の使節団と、フォート・リーの有力貴族を歓待する夜会を催すという。
実質ジジの社交界デビューである。
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「ていうかさ、ちょっと人の見かけが変わっただけで、こうも世間の反応が違うかと思ったら本当に胸がムカムカすんのよね」
まだ凄まじい成長痛でまだベットの上の住人であるジジは、ぶつぶつ文句を言っている。
ジジはまるで脱皮が終わった妖精のごとく、ため息をつくほど儚く美しい乙女に変化した。
ジジ的には脱皮後の自分の姿は割と気に入っているらしく、しょっちゅう鏡を見ては、私美少女じゃない?だの、庇護欲そそる系かー、希望は魔性系だったんだけどまあいいか、だの、ご機嫌だ。まあ、ジジを良く知る者にとっては通常運転だ。
「ジジ、世間ってそんなもんよ。私の姉様はちょっと綺麗だったから、私どれだけ比べられたわかったものじゃなくってよ」
公女の、美貌の母を彷彿とさせる美しい成長は、早速周辺国にも情報が流されて、公爵の元には早速の見合い話が殺到しているとの事。
ジジが子供の姿の頃は、成人後のジジの誕生日に大きなクマだのおままごとセットだのを送ってきていた失礼な連中がだ。
レイチェルは、監視の元ではあるが、ジジの命を救い、魔力過多を解決した功労者として、ジジの部屋を訪れることを許されていた。
レイチェルはいわばジジの命の恩人である。
正式な礼をレイチェルに述べたいという希望の公爵に、誘拐されて軟禁状態のレイチェルではフォート・リー的に大変に都合が悪い。
いつのまにかレイチェルの立場は、内密に研究協力を求めてフォート・リーに召喚された客分の扱いにすり替わっていた。
もちろん公爵はレイチェルの置かれている立場を知って、フォートリーにそのような揺さぶりをかけてきたのだ。政治力に卓越したロッカウェイ公爵の実力の片鱗が垣間見れる。軍事力を持たない国は、軍事力以外での戦いに長けているのだ。
「あんた達には感謝してるの。どんな姿でも全然変わらないもの。」
少しだけ真剣になってジジはつぶやく。
山積みになった見舞いの品々に、クマのぬいぐるみだのはもう見当たらない。今度はウンザリするような化粧品や宝石、珍しい花束やお菓子の山だ。
そんな中ゾイドは痛み止めのポーションを、ローランドはジジの読みたがっていた研究者向けの辞書、レイチェルは夢見の良くなる術式を施した枕カバーをよこしてきた。
(尚、ルークは最初からジジをレディ扱いしてくれていた上、顔が好みのタイプなので何を貰っても嬉しい。今回はそれは素敵なカットの施された香水瓶をよこしたらしい。調香師を手配してるから、好きな香りを作ってもらう様に、ベットからまだ起きられないジジへの粋なギフトだ。やはりこの男はこの方面に関しては天才だ。)
皆、いつも通りに接してくれるのが心に響く。
「ねえゾイド様、いるんでしょう?良いわよ。出ておいでよ。ちょこっと時間あげるから、二人で過ごしたらいいわ。私寝てるから!」
ジジが上を見上げて声をあげる。
バツの悪そうに、天井からゾイドがふわりと降りてきた。
天井裏に隠れていたらしい。流石に継承権の問題の出てきた乙女の部屋にウロウロしては、公爵の滞在中はちょこっとマズイと理解したらしく、寝室に出入りすることはなくなったのだ。
そしてレイチェルの目の前に立つと、じっとその赤い瞳でレイチェルを見つめた後、物も言わずに防音、視界遮断、空間拡張の結界を展開した。




