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81話、サツマイモ、タケノコ、小魚ときのこのホイル焼き

 釣り勝負を終えて元のキャンプ場に戻ると、私たちが場所取りをしていた所に借りてきたテントが張られていた。

 釣りをしている間に、キャンプ場の職員がテントを組み立ててくれたようだ。これで寝る場所は何も問題ない。


 後はごはんを食べて、眠くなるまでゆっくりと夜を過ごすだけ。私は暮れゆく夕焼け空を眺めた。

 と、うっかり一息つきそうになったけど、夕ごはんの準備はまだやることがある。


 テントが張られているのを皆で確認したら、次はたき火へと向かう。

 そこには釣りを始める前に仕込んだホイル焼きがあった。

 じっくり熱が通るよう火から少し離しておいたので、ホイルが焦げているという事はない。だけど熱々だ。


「あ、熱っ」


 指先で引っかけるようにしてホイルをたき火から離す。火から遠いはじの部分も結構熱かったので、自然何度も指先を繰りだす羽目になった。


「リリア猫みたい」


 ライラの言う通り、警戒する猫のような手つきだった。途中でテレキネシス使えばいいじゃんって気づいたのだが、少し意地になった。

 とにかくこれほど熱々なら、事前に仕込んだホイル焼きはどれもしっかり焼けていることだろう。食べられる程度に冷ましがてら、魚のホイル焼きの仕込みをする事に。


 クロエが釣ってきた小魚はちょうど人数分の三匹。小さいが、他に食材もあることを加味すると、食べるのにちょうどいいサイズだ。

 その魚を……まずは下準備しないといけないのだけど……。


「魚の下ごしらえってどうすればいいんだろ」


 さすがにこれまで料理とは無縁だった私では、魚の下処理は難度が高い。まず知識が無い。

 私にとっての魚って、お店で出てくる調理済みのやつと今まさに泳いでいる生きている奴だけだからなぁ。


 するとクロエが横に来て、小魚を一つ手にした。


「私はちょっとだけ知ってる。以前本で読んだ」


 バッグから小型ナイフを取り出したクロエは、その先端を魚に向ける。


「まず頭を落として……確かこう……内臓も取り出さないといけない」


 言いながら、迷いなくナイフを走らせる。


 その冷静な手つきに、さしもの私も唖然としてしまう。

 だって頭を一撃で落として、その後間髪入れずお腹を捌きはじめるんだもん……あ、内臓素手で引きちぎって取った。


「多分こんな感じ。後は開いたお腹を水洗いして綺麗にすれば、えぐみも無く普通に食べられる」

「今の一連の作業がちょっとえぐかったわよ」


 ライラの言葉に私もうんうんと頷いた。

 しかしクロエは冷静なままケロッとした顔で言う。


「それはしかたない。食事とは本来そういうもの」


 確かにクロエの言う通りではある。お店で食べる時もこうして処理はしているわけだしなぁ。

 今さっき釣ったばかりだから抵抗あるけど、食べるために必要な行為なのだ。ならやるしかない。


 クロエがもう一匹の下処理を始めたので、私も小型ナイフを取り出して恐る恐る見よう見まねでやってみる。

 まだ小さい魚なので、下処理はしやすかった。大きかったら今の私では抵抗感がもっと強かったかもしれない。

 ……大物釣れなくてよかったかも。


 とにかく、無事小魚の下処理は終わったので、アルミホイルの上に並べていく。

 小魚を並べ終えたら、次はきのこ類をかぶせるようにして置く。きのこはシメジやエリンギだ。熱が入ればきのこから水分が出るので、魚がパサつく心配もない。


 後は塩コショウを振って、オリーブオイルを回しかける。バターを使おうか迷ったが、それはしいたけを焼く時にも使ったので、今回は別の味にした。

 そして包むようにして封じ込め、たき火のそばへと置く。今度は先ほどより気持ち近めにした。


 さて、魚ときのこのホイル焼きが出来上がるまで、さっき作ったホイル焼きの方を食べていこう。

 いい具合に冷めていたので、ホイル包みを次々開封する。


 甘く良い匂いのするサツマイモに、熱が入って艶が出てきたタケノコ。そしてとろけたバターがカサのくぼみに溜まった肉厚のしいたけ。どれもおいしそうだ。


「じゃあ、食べよっか」


 携帯用のフォークを用意し、皆で思い思いに食べ始めた。

 私がまず最初に食べたのは、タケノコだ。焼く前はあんなに硬かったのに、じっくりとホイル焼きしたタケノコは艶が出て柔らかそうになっている。


 フォークですくい、口に運ぶ。冷ましていたので良い温度だ。

 味付けは塩だけのシンプルな物。だけどタケノコ本来の甘みと旨みが引き立てられるようで、とてもおいしい。しかも意外と水分が多くて食べやすい。シャキシャキとした噛みごたえが気持ちよかった。


 タケノコの次はしいたけ。これはカサの部分だけの一口サイズだが、結構肉厚だ。

 思い切って一口で食べてみることにする。

 口に放り込み噛んでみると、じゅわっと水分が溢れてきた。そしてバターの匂いと強い旨みがやってくる。


 しいたけは出汁にも使われるらしく、ものすごく力強い味わいをしている。噛むたびにしいたけの旨みが溢れて来て、肉でもないのにとても食べごたえがあった。

 しかしやや味が濃いというか、独特な風味が強め。何かクセがある感じ。苦手な人もいそうだ。


「うん、このきのこおいしいわ」

「私もきのこ類は嫌いじゃない」


 幸いライラもクロエも苦手ではないらしい。満足げに食べていた。


 しいたけを食べた後は、サツマイモに手を伸ばす。サツマイモは甘いので、この中では最後に食べると決めていた。

 豪快に半分そのままをホイル焼きにしたので、フォークで一口サイズに割って食べていく。


 このサツマイモはとてもホクホクとした食感だった。それでいて甘く、ポテトとはまた違った食べ物と思える。

 甘いには甘いのだが、そこまで強い甘さではないのでデザートというほどではない。ちょうど箸休めに良い感じだ。


 そうやって最初に作ったホイル焼きをほとんど食べ終えた頃、私はバナナを取り出した。

 さっき作った魚ときのこのホイル焼きもそろそろ出来上がる頃だろう。だから、それを取り出す前にデザートを仕込むことにしたのだ。


 今回デザートにバナナを選んだのは、バナナは焼くと甘みが増すという事が本当か、試してみたかったからだ。

 バナナを食べたことはもちろんあるけど、食べる時は大体そのままが多い。


 バナナは種類も様々あるらしく、油で揚げたりして食べる物もあるらしいが、私が食べたことがあるのはフルーツ系バナナだけ。

 そしてそんなフルーツ系バナナは、そのままでもおいしいが焼けば甘みが更に増すらしい。なんでも皮ごと焼く焼きバナナもあるとか。


 普段食べる時はそのままで十分おいしいから、わざわざ焼くという未知の味に手を出す気にはなれない。だからこんな機会に焼いてみるのだ。

 バナナの皮を剥いて取り除き、中身をアルミホイルで包んでたき火のそばへ。やることはこれだけ。


 後はじっくり熱が入って甘さが増すのだろう。多分。

 正直おいしくなるかどうかは分からないが、もうやってしまったから後戻りはできない。今は魚ときのこのホイル焼きを取り出して食べるしかなかった。


 こっちの方は意地を張らずテレキネシスで引き寄せる。アルミホイルも熱々なので、これもテレキネシスで動かして開封。

 すると湯気がもわっと立ち上り、良い匂いが漂ってきた。


「お、いい感じじゃない?」

「後は下処理がちゃんとできているかが問題」


 そう、この魚は自分たちで下処理したので、ちゃんとできているか不安だった。えぐみとか強かったらどうしよう。

 ひとまず私とクロエが恐る恐る口に運ぶ。匂いは良いけど味の方は……。


「あ、普通においしいかも」

「……うん、内臓系の臭みは無い」


 どうやらちゃんと下処理ができていたらしく、クセなく食べられる。

 塩こしょうとオリーブオイルだけの味付けなのでかなりあっさり目だったが、きのこの旨みもあるのでわりと問題ない。


「さっきの光景を見ていたから、ちょっと食べるのに戸惑うわね」


 ライラは魚の頭を落としていた時の光景を思い出したのか、振り払うようにぶんぶんと首を振った。

 そして小さな体で持ったフォークを器用に使い、魚の身を口に運ぶ。


「……あ、おいしい」

「ね、クロエが釣った魚おいしい」


 この名前も知らない小魚、中々の味だ。淡泊ながらも身が引き締まっていて、しっかり魚の味が主張している。

 魚ときのこのホイル焼きをつつきながら、最初に作ったホイル焼きの残りも食べ進めていく。


 サツマイモにタケノコにシイタケに小魚。どれも一つ一つでは物足りない感じだけど、こうして全部を囲んで食べると、目移りしそうなごちそうになる。

 それら全部を食べ終えた時には、十分な満足感に襲われていた。


「品数が多かったから何かいっぱい食べた気分」

「確かに食べごたえはかなりあった。でもリリア、デザートは忘れてはいけない」

「……あ」


 そういえばバナナ焼いてた。甘い物好きなクロエはちゃんと忘れてなかったようだ。

 慌ててホイル包みを引き寄せ、開放する。

 するとしっかり熱が入って柔らかくなったバナナが現れた。

 それを見ていたライラが聞いてくる。


「バナナって焼いて食べるものなの?」

「ううん、私は普通にそのまま食べる。ただ焼くと甘くなるんだって」


 すかさず甘い物好きのクロエが言いさしてくる。


「それは事実。私は何度か焼いたバナナをトッピングしたバニラアイスを作って食べたことがある」

「……クロエそういうことするんだ」


 甘い物を食べるのに手間は惜しまないタイプなのだろうか。

 しかしクロエがおいしいと言うのなら、このホイル焼きバナナも問題ないのだろう。

 早速私たちは食べてみることにした。


 フォークで一口サイズに切ってすくい上げる。なんだかねっとりとしているかも。

 そのまま口に運んで味わってみる。


「……うーん、これ」


 甘い。確かに甘くなってる。でもなんだろう。普段常温で食べるから熱いバナナってすごく違和感ある。食感も熱が入ってねちょっとしていた。

 おいしい。おいしいのに間違いはない。だけど……違和感ある。


「私普通に食べる方が好きかも」


 私が言うと、クロエは静かにうなずいた。


「そういう人も多い。私はどっちでも楽しめるけど」


 ライラはどうなんだろうと視線をうつす。


「……私、普通のバナナ食べたことないから比べようがないわ。でも甘くておいしいわよ?」


 やっぱり、普通に食べたことがあるから違和感があるのか。

 でも考えてみれば当たり前かもなぁ。昔初めてアップルパイ食べた時も、熱が通ったリンゴにすごく違和感あったもん。今では慣れたけど。


 この焼きバナナも、たまに食べていたらいつかきっと慣れてしまうのだろう。

 新しい事に挑戦するのもいいけど、普段通りにするのも悪くはない。これはきっとそういう事なのだ。

 なんて、いまいちしっくりこない焼きバナナの味を強引に納得させる私だった。


 バナナを食べ終えた後は、紅茶を淹れて食後の一息をつくことにした。

 紅茶を淹れ終わった頃には、空はすっかり暗くなっていた。考えればこうして夜空を見るのは久しぶりかも知れない。しばらく夜が来ない町にいたからなぁ。


 テントのそばで三人、紅茶を飲みながら見上げる久々の夜空。

 煌めく星々の光が、なんだか新鮮に見えていた。

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