89.ドロップ品を回収しました
巨大な火柱は全てを焼き尽くした後静かに消滅、焦げ臭いにおいだけがそこで何かが燃えたことを物語っている。
あれだけ激しく燃えたとしてもドロップ品は普通に出てくるんだからありがたい話だよなぁ。
漫画とかでは魔物を倒した後は素材の剥ぎ取りとかをしなければならないけど、これはその手間もなく必要な物が手に入る。
もっとも、この間のディヒーアやファットボアのように肉が欲しいのに手に入らないパターンもあるので絶対に便利かといわれるとそうでもないんだよなぁ。
焼け跡に近づくとその場に残っていたのは真っ白い包帯とグローブ。
グローブと言っても指先は出ていて手の甲を守ってくれるような奴だ。
黒い革製でテカリ感が中々にかっこいいが、階層主からドロップしたってことはそれなりの物なんじゃなかろうか。
包帯は何の変哲もない感じだけどきっと何かが違うんだろう、知らんけど。
「ん?」
素材を回収して改めて周りを見渡すとチビマミーが落としたと思われる素材がそこら中に転がっていた。
包帯は包帯だけど量は少なめ、それでもこれだけの数があれば巨大マミーがドロップしたのと同じぐらいの量になるんじゃないだろうか。
というか、チビマミーまで素材を落とすならあのまま倒さずに延々と召喚させ続ければものすごい量の素材を確保できるんじゃないだろうか。
もちろんリスクはあるけれど包帯が高値で買取りされるのであれば一つの儲け方として何度も周回する手もある。
もっとも、今までの人も同じことを考えただろうからそれが広まってないってことはそれほどでもないんだろうけど。
残すのはもったいないので手分けして包帯を回収、そのままカバンに押し込んで一息つく。
中々大きなカバンを用意しているのにすぐに素材がいっぱいになってしまうのが不便だ。
それをカバーするためにカバンを大きくするという手もあるけれど、結局背負うリュックが重くなるから運ぶだけで体力を消費してしまうというっていうね。
それならば大人しく運搬人を雇えっていう話だけど、リルがいるのでそれも難しい。
いっそそこも含めて口の堅い人を雇うのも視野に入れているけど中々うまくいかないわけで。
「まぁまだいけるか。」
これは俺一人で決められる話でもないし、桜さんを交えて何度かお試しをしながら決めるしかないだろう。
カバンを背負いなおして六階層への階段に足を向ける。
「わふぅ?」
「どうしたリル。」
「ワフ!」
「あ、こら!遊ぶのは全部終わってから・・・って、あーあ。」
チビマミーがはい出してきたせいで小部屋の地面はどこもデコボコ、特に巨大マミーが棺ごと出て来たところには大きな穴が開いている。
一応中を覗き込んでみたけど地の底までつながっている感じもなく少し深い穴になっていただけだった。
だがそれが気に入ったのか、俺が止めるよりも早くリルがその穴に飛び込んでしまい嬉しそうに地面を掘り始める。
真っ白い毛並みがあっという間に真っ黒になり、もはや別の犬種のようになってしまった。
白いからこそフェンリルとしての威厳があるというのに・・・まぁ汚れても可愛いけどさぁ。
穴の上から楽しそうに土を掘り返すリルを眺めていると、途中でカチン!という金属音が聞こえて来た。
本人も何が起こったのかわからず首をかしげている。
上から見る限りは石か何かだと思うんだけども・・・試しに周りの土を掘り返してもらうと明らかに人工物っぽい物が見えて来たので俺もあわてて穴の中へと降りてみる。
「これは・・・宝箱か?」
いやいや、なんで巨大マミーが出て来た穴に宝箱があるんだよ。
っていうか普通は気付かないだろこんなの。
必至になって宝箱を引っ張り出すと出て来たのはまさかの銀箱。
前みたいに見たこともないような赤い箱じゃないとはいえ、Dランクでも走破しないとお目にかかれないような奴がなんでこんなところにあるんだろうか。
「これ、開けていいよな?」
「わふ?」
「いやまぁ開けるけどさ、もしドカン!っていったら笑ってくれ。」
C級以上のダンジョンでは宝箱にも罠が仕掛けられている事もあるので罠解除や罠探知が非常に有効になってくるけどまだD級ダンジョンだし大丈夫なはず。
掘り出した宝箱のふたを恐る恐る持ち上げてみると・・・無事何事もなく開けることができた。
はぁ、やれやれだ。
「ん?なんだこれ。」
期待して開けた箱の中に入っていたのは・・・箱?
てっきり武庫ダンジョンの時のように鍵が必要なのかと思ったけど、蓋はすんなりと開いてしまった。
箱の中は歯車やバネの様なものが複雑に組み合わさっているようで、側面に穴が開いている。
ふむ、ここに何かを挿してこれを動かすのか。
うーむ、さっぱりわからん。
わからないけれどせっかく銀箱の中から出て来たものだし価値のあるものに違いない。
とりあえず地上に戻ったらそういう事例があったかどうかを確認してみよう。
「よっこいよっと!」
気合で穴から這い出すとリルと同じくドロドロになってしまった。
リルはブレスレットに戻れば綺麗になるのに俺は戻るまでこのままだ。
改めて身支度をしてから今度こそ六階層への階段を降りる。
ここを抜ければひとまず転送装置に到着、だけどここからは魔物が二種類出てくるだけに油断は禁物だ。
「ここは確かリビングメイルが二種類出てくるんだっけか。」
リビングメイル、生きた鎧といえば直訳すぎるけどまさにそんな感じの魔物だったはず。
鎧だけがガチャガチャと動き周り様々な武器を使って襲ってくる。
ここに出るのは弓と剣のリビングメイル、しかも武庫ダンジョンの最強コンビと同じく常に一対で行動しているんだとか。
これが完全に一人だったらどうにもならなかっただろうけど、俺にはリルがついているので何とかなるはず。
下の階層は墓場というかどこかおどろおどろしい感じだったけれど、ここからは石畳の通路に代わるらしい。
コツコツと歩く音がそこら中に反響して時間差で重なるようなると複数人が歩いているような感覚になる。
そこに加えてリルの爪の音も混ざるので何とも騒がしい。
「来たか。」
逆を言えば魔物が歩く時の金属音もよく響くという事、反響しすぎてどれぐらい離れているのかまでは分からないけれど一対なのはわかっているので後はそれに対処するだけ。
「よし、そこの角で待機だ。」
武庫ダンジョンでも使った待ち伏せ戦法、角を曲がってきたところを強襲することで常に二対一の状況を作りだせる上に遠距離からの攻撃を最大限無効化できる。
その場の環境を有効に使ってこそ一流の探索者だと何かの本で読んだ気がする。
ガチャガチャと鎧の音が近づいてきて角を曲がってきたその瞬間。
「嘘だろ?」
棍を長く伸ばして勢いよく突き上げた攻撃は見事鎧のど真ん中に直撃、突然の衝撃に吹き飛ばされたリビングメイルはそのまま壁にぶち当たり、ボコンという音と共に石畳の下に吸い込まれてしまった。
まさかの落とし穴の罠、遅れてやってきた弓の方もリルの体当たりで壁まで吹き飛び最初のと同じように下へと落下、罠があるのはもちろん理解しているけれどまさか魔物が引っかかるなんてなぁ。
「あ、しまった。」
魔物を倒せたのは素直に嬉しい、だけどこのやり方だとドロップは回収できないしレベルアップも期待できない。
なによりこんなヤバいやつがいくつも仕掛けられているのか、ここからは。
落下罠を上からのぞき込むと下にはいくつもの鋭い槍が仕掛けられていた。
桜さんがいれば直感スキルである程度は対処できるけれどそれができない以上今まで以上に気を付けないと。
折角手に入れた装備も持ち帰らなかったら意味はない。
致し方なく確認棒を取り出して床を叩きながら慎重に慎重に通路を進んでいくことに。
罠に怯えながらさらに奥からやってくるリビングメイルにも対処しなければならず予想以上に消耗しながら、ダンジョンの奥を目指すのだった。




