87.久しぶりのダンジョンに突入しました
久方ぶりの一人での探索。
桜さんはこの前御影ダンジョンで仲良くなった弓使いの子と一緒に武庫ダンジョンで親睦を深めるんだとか。
あそこなら戦いなれているしレベルも上がっているのでそこまで苦戦することはないだろう。
それもあっての久方ぶりのおひとり様、もちろんリルもいるけれど川西ダンジョンの上層階は他の探索者が多いのでそこを回っている間はあまり出番はないかもしれない。
「どうぞお気をつけて。」
ギルドで手続きをしてから大きな荷物を背負いダンジョンへと突入する。
まずは上層階でスケルトンとリビングデッドを蹴散らして準備運動をしてから転送装置で四階層へ移動する。
気付けばレベルも18を超え、なんだかんだ20の大台が近づいてきた。
ちなみに梅田ダンジョンの推奨レベルはおよそ30、そこから考えるとまだ半分を過ぎたところだけどついこの間探索者になったと考えれば中々のペースじゃないだろうか。
「うーん、今日も中々の込み(混み)具合のようで。」
通路型ダンジョンということもあり獲物を探す探索者と何度もすれ違いながら奥へ奥へと移動、一階層は殆どスケルトンと遭遇することもなく早めに見つけた階段を下りて二階層へ。
ここまで来ると一気に人が少なくなるけれど、それでもちょくちょくすれ違うのでまだリルの出番はなさそうだ。
「お、いたいた。」
広い通路の奥、リビングデッドが壁の方を向いたまま突っ立っている。
抜き足差し足忍び足・・・出来るだけ静かに近づいたつもりが、一定距離まで近づいた瞬間に奴がぐるりとこちらを向き両手を前にして近づいてきた。
とはいえ一体だけならどうってことないので、適度な距離を保ちつつ伸ばした棍で突き上げつつ頭をフルスイングしてやると明後日の方向に首が飛んで行った。
後は足を引っかけて倒してから心臓付近を突いてやればそのまま地面に沈んでいく。
装飾品のドロップは無し、まぁ当然か。
一度奥まで行ってから来た道を引き返しつつリビングデッドを撃破、一度地上に戻るまで30体ほど仕留めたけれどお目当ての物は手に入らなかった。
「仕方ない、次に行くか。」
気を取り直して転送装置で四階層へ、おどろおどろしい雰囲気の漂う通路を聖水を振りかけながらゆっくりと進んでいく。
ここに出るのはバンシーという少女の見た目をした幽霊。
井戸から這い出して来る某映画に出てくるようなロングヘアーの少女が前髪で顔を隠しながらふわふわと向かって来るらしい。
噂によると髪の毛の下は中々の美人らしいけどそこまでしてみたいもんでもないしなぁ。
「リル。」
「わふ!」
誰もいないようなのでリルを召喚、彼女を先頭に通路を進んでいくと前方に俯いたままの白いワンピースを着た少女が姿を現した。
初めて見るけどまさに幽霊、そりゃ桜さんが嫌がるわけだ。
とはいえ俺はさほど気にしないタイプなので聖水を武器に振りかけてからまっすぐ少女へ向かっていく。
「・・・すの?」
「ん?」
「わたしを、ころすの?」
もうすぐ俺の間合いに入る、というタイミングでぼそぼそという声が聞こえて来たかと思ったら二度目はまるで真横で話されているような距離で聞こえて来た。
慌ててバックステップで距離を取ると、さっきまで俺がいた場所に少女が前傾姿勢のまま立っている。
まるでリルの体をすり抜けてワープしてきたかのようだ。
流石のリルも驚いたのか慌てた様子でこちらを振り向き、そいつに向かってブレスを吐くも掻き消えるように姿が見えなくなった。
「くそ、どこだ!?」
棍を二つに分け、即座に対応できるようにしながら周囲を警戒。
リルもきょろきょろとあたりを見回すも姿は見えない。
「わたしを、ころすの?」
「だからどうした!?」
再び左の耳元に聞こえてきた声に反応し、今度はそのまま棍を振り回すと見事少女のこめかみに直撃。
そのまま真横に吹っ飛んだかと思ったらリルが前足で地面に叩きつけた。
「・・・ひどい。」
「くそ、まだいるのかよ。」
前足の下で光る粒子になって消えたかと思ったら再びあの声が聞こえてくる。
「ころした。」
「ころした。」
「ゆるさない。」
「おまえを、ゆるさない。」
「ゆるさない。」「ゆるさない。」「ゆるさない。」「ゆるさない。」「ゆるさない。」
四方八方から聞こえてくる少女の声が通路中に反響し、気が狂いそうになる。
慌てて聖水を頭から振りかけると不意に声が小さくなり、周りを見ると右の壁から半分だけ体を出した少女が前髪の隙間からこちらを睨みつけていた。
「ブレス!」
「グァゥ!」
こんなもんでビビってたまるか!
リルのブレスに飛び込む形で棍を振り落とすと見事壁の中に逃げ込まれる前に脳天をたたき割ることに成功した。
そのまま粒子になって消えた後には髪の毛の束とピンク色のリボンが落ちている。
「はぁ、さすがにメンタルに来るなこれは。」
例の歩く珊瑚とはまた違う疲れ方、それでも攻撃が強いわけではないので気を取り直しつつ素材を回収して奥へと進んでいく。
確かバンシーも装飾品をドロップしたはず、これだけ大変な思いをするんだから一つぐらい出てくれればいいのにと期待をしながら時々襲ってくる少女の怨嗟に立ち向かう。
一体だけなら何とかなるけどそれが三体四体ともなると常に耳元で恨みを言われてしまうので中々にしんどい。
加えて言うなら振り向いた瞬間に少女の顔が目の前にあった時は心臓が飛び出るんじゃないかってぐらいに驚いて思わず叫んでしまったぐらいだ。
因みに顔は可愛かった。
可愛かったけどあまりにも怒っている感じだったのと、あの幼い感じは好みではなかったので個人的にはもう少し年上に設定してもらいたい。
「のろってやる・・・。」
「呪い上等、さっさと成仏しやがれ。」
フルスイングで少女の腰に棍を叩きつけ、吹き飛んだのをリルが追いかけて両足で叩き潰す。
うん、この連携も中々様になってきたな。
はたから見れば虐待そのもの、だけど相手に呪ってやるとか殺してやるとか言われているんだから正当防衛が成立してもおかしくない。
おかしくない・・・よな?
「お?」
光の粒子になったバンシーを確認するべくリルが前足を上げると、そこにあったのは髪の毛の束と青いリボンそれと光る何か。
慌てて駆け寄り確認すると、そこにあったのは白い石の付いたピアスだった。
「一応これがレアってことになるのか?」
残念ながらピアスは開けていないので俺が付けることはできなさそうだけど、とりあえず上で鑑定してもらおう。
もしかするとレア物かもしれないし、値段によっては城崎ダンジョンに向けた新しい装備を新調できるかもしれない。
そんな期待を胸にピアスを大事にカバンの内ポケットへとしまって残りの素材を回収。
そろそろ五階層に降りる階段が出てくるはずだ。
階層主は確かマミーだったはず。
マミーというかミイラというか、つまりそっち系のアンデッドということになる。
階層主になるぐらいなんだからそれなりの実力なんだろうけど今までがゴーレムとか熊とか結構大きめの魔物が多かっただけにどんな感じになるか全く想像できないんだけど・・・まぁ何とかなるだろう。
しばらく歩くと予想通り階段を発見。
いよいよ川西ダンジョン最初の中ボス戦だ。
果たして相手の実力やいかに。




