86.無事地上に帰還しました
「いやー、ほんと助かりました。」
「お礼を言うのはこっちの方だ、あのジャングルの中でまさかあんなところに階段があるなんて思いもしなかった。」
「場所は変わりますけどいつもあんな感じで隠れているから気を付けた方がいいっすよ。」
「ってことは7階層もあんな感じで隠れているのか。」
学生四人組との共闘を終え、彼らの案内で階段まで連れて行ってもらった俺達は無事に地上へと戻ることができた。
まさか大木の洞の中に階段が隠れているとか、知らなかったらずっとあのジャングルを徘徊するところだった。
事前に調べておけば問題ないとはいえ、知っていたとしても実際に見つけるのは苦労するだろう。
猿に追われ、カブトムシに突っつかれ、しかもあの湿度と気温。
不快指数120%の中で目を凝らして洞を見つけろとか鬼畜にもほどがある。
「やれやれ、やっと着いた。」
「げっ!受付並んでやがる、こりゃ時間かかるぞ。」
「桜さん、計算はこいつらに任せてお風呂行きましょうよお風呂!学生専用なんですけど桜さん可愛いから大丈夫ですって。」
「え、でも・・・。」
「いいからいいから、あ!ライセンスカードよろしくね!」
ギルドに戻ってきた俺達だったが、受付には最低でも三組の探索者が大人しく順番を待っていた。
これは長くなりそうだな、そう思っていたところで四人組の紅一点が桜さんの手をつなぎ強引に更衣室の方へと引っ張っていく。
一瞬躊躇する桜さんだったけど、彼女がライセンスカードを仲間に渡したのを見てその気になったようだ。
「まったく長湯すんなよ。」
「うるさいわね、女の子は時間がかかるのよ!」
「あの、和人さんこれお願いします。」
「ゆっくりしておいで、いってらっしゃい。」
別に断る理由もないしあの不快な環境を考えたらリフレッシュしたくなる気持ちも痛いほどわかる。
ここは誰かが犠牲にならないといけないんだから年長者として我慢するのは致し方ないだろう。
「すみません、騒がしくて。」
「こっちこそ探索者の知り合いが出来て本人もうれしいと思うよ。ほら、俺が男だからたまには同性と色々と話したいこともあるだろうし。」
「かっこいいっすねぇ新明さんは。」
「かっこいい?俺が?」
学生のお世辞とはいえまさかそんなことを言われる日が来るとは思わなかった。
彼らからすれば6歳は上だろうし、年上がかっこよく見えているだけだとおもうけど正直なところそういわれて嫌な気はしないよな。
「そうですよ!ロックビートルに躊躇なく馬乗りになって首の関節部に攻撃するとか初めて見ました。フォレストエイプの投擲も軽く防いでましたし、あれなんですか?」
「それはこの小手のおかげだよ。自動で氷の盾が出るから少々の攻撃ならなんとかできるし、氷属性もつけられるから結構重宝してる。」
「えー、いいっすねぇ。どこで手に入れたんですか?」
「篠山ダンジョンで。」
「篠山ってあの氾濫しそうになった奴ですよね?ゼミがかぶっていけなかったんですけど、報酬がものすごく多かったわりにすぐに収まったとかで大儲けしたって友達が言ってたんですよ。くそ、行けばよかった!」
俺も同性の探索者とこうやって話をするのは殆どなかったのでなんだかんだ盛り上がっているうちにあっという間に順番が来ていた。
事情を説明してお互いに六階層の素材を出し合い、共闘ということでこれは折半してもらうことに。
彼らは自分たちが擦り付けたからと言って全部渡すと言ってくれたけれど、結果的に共闘して倒したのもあるし階段を教えてくれたお礼もあるのでお互いに納得の上折半することで決着がついた。
「それでは計算しますのでしばらくお待ちください。」
「それじゃあ俺達も風呂行きますか。」
「いや、さすがにこの顔じゃばれるだろうし君らだけで行って来るといいよ。」
「大丈夫ですって!学生だけとか言いながら誰もチェックしてませんし、それに武庫ダンジョン単独制覇の話とか聞かせてくださいよ。」
「そうです!それよりも今度一緒に川西ダンジョンとか行きませんか?」
「お、いいねぇ!一発デカいの見つけて大儲けしたらいい店知ってるんで一緒に行きましょう。」
さっさと着替えて結果を待とうかと思ったけれど、まだまだ後ろに並んでいるところを見ると査定にも時間がかかりそうだ。
折角誘ってもらっているんだしここはひとつ裸の付き合いでもして俺も情報収集させてもらうとしよう。
そんな感じで諸々お世話になりながら楽しい話をしつつ無事に査定は終了。
流石に彼らの前でゴールドカードを出すのはあれだったので提示はしなかったけれど、それでも7万円ほどの収入になった。
マッドスパイダーの糸が普通よりも高く買ってもらえたようなので、次回行くことがあったらあの方法で量を増やそう。
「それじゃあお疲れ様でした!」
「桜さん、また帰ったら連絡しますね!」
駅前で大きく手を振る弓使いの子に桜さんも手を振ってこたえる。
向こうも裸の付き合いをして随分と仲良くなったようだ。
「楽しかった?」
「とっても!同性の探索者ってなかなかいないのでいろんな話を聞かせてもらいました。今度二人で武庫ダンジョンに遊びに行く話をしているですけど、いいですか?」
「いいもなにも桜さんの好きにして問題ないよ。でもリルはいっしょに行けないからくれぐれも気を付けて。」
「もちろんわかってます、でも和人さんもですよ?リルも一緒とはいえすぐ無茶するんですから。」
「あはは、気を付けます。」
前科があるだけにそれ以上は強く言えなかったけれど、探索者次第ではリルを出せるし収奪スキルも使えるのでいつもよりかは戦いやすくなるはずだ。
手に入れた硬化や跳躍なんかのスキルも試してみたかったしそれらを試すとなると・・・やっぱり川西ダンジョンになるか。
あそこは桜さんがNGを出すので行けないんだけど個人的に新しい装備が欲しいので一発当てたいっていう気持ちもある。
もっとも、そういう時ほど物欲センサーが働いてお目当ての物にかすりもしないってのはよくある話だ。
「それじゃあお疲れ様でした。」
「お疲れ様。」
家に帰り、それぞれの部屋に戻る。
当たり前のように出て来たリルはそのまま桜さんの部屋に行ってしまった。
「さて、次に向けてメンテナンスでもしますかね。」
部屋に戻ってさぁ寝ようっていう気分でもないので、カバンの中身をひっくり返して荷物の整理から始める。
まずは使用した物を書き出して補充リストを作成、それから次に行くダンジョンに合わせて道具を調整しつつ追加で補充リストに書き出していく。
川西ダンジョンでは聖水が必須なのでそれは多めに準備しつつ、一人で潜るので荷物は最小限に減らしておく。
あ、リルも一緒だから肉も入れておかないとすぐにふてくれされるからなぁ。
後は装備品のメンテナンス。
幸い火水晶の二節棍はアイアンゴーレムに勝る強度があるおかげで汚れはしているけれど凹んだり痛んだりしている様子はない。
これのおかげでここまでやってこれたけれど、正直今の戦い方だと棍を使うよりももっと別の武器で戦った方がバランスがいいんだよなぁ。
それこそ今回の大楯の彼じゃないけどタンク役が増えたら前衛過剰で逆に戦いにくくなる。
それならいっそのこと後衛に鞍替えして後ろから補佐するのはどうだろうか。
普段は遠距離で攻撃しつつ、二節棍はそのまま持っていけるのでいざとなったら接近戦に切り替えればいい。
とはいえセンスの問題もあるので弓は練習が必要、魔法もスキルが無ければ使えないし潜在魔力が多いわけでもない。
となると使える武器は限られてくるわけで・・・。
装備を磨きながらそんなことを考えつつ夜は更けていくのだった。




