79.森の恵みをたくさん収穫しました
「和人さんここにもありますよ!」
「お、こっちにもあるぞ。」
御影ダンジョン三階層。
草原地帯からうって変わって木々の生い茂る森林地帯へと移動した俺達を待っていたのは、森に生息する魔物ではなく豊富なキノコだった。
「あ!それはブラウンマッシュルームですね、パスタにすると美味しいんです。」
「そっちはロングピルツだったっけ。エリンギとえのきを足したみたいな感じだけどシャキシャキしてうまそうだな。」
「実はスーパーではちょっとした高級食材だったりするんですよ、これ。」
「つまり回収すればするほどもうかるってわけか。こりゃ探さないわけにはいかないな。」
ついさっき探索者に魔物を押し付けられたことも忘れてそこら中に生えているキノコを採取しまくる。
だってこれ一株で下手すれば千円を超える値段で買取りされるっていうんだからやらない理由がないだろう。
もちろん探索も重要だけどせっかくここまで来たんだからリュックいっぱいになるぐらいの素材を持ち帰りたい。
「キノコ以外に何かあるかな。」
「どうでしょう。植生もあると思いますけど、ハーブ系とか薬草系とかは見つかりそうですね。」
「ポーションの錬成にはダンジョン産の薬草しか使えないし見つけたら回収しておかないと。」
「毒消しの実や麻痺消しの種なんかも欲しいなぁ、あれ買うと結構高いんです。」
ゲームの中でしか使わなかったような単語がごく当たり前のように出てくるのもダンジョンが出来たからだろう。
昔の人もまさか同じようなものが現実に出てくるとは思わなかっただろうけど、その下地があったおかげか案外すんなり受け入れられていうような気がする。
もちろん今までの薬も十分効果があるけれど、今ではダンジョン産の素材を使った新しい薬の方がもっと効果的なのでほぼ使われることがなくなった。
そのせいでいくつも製薬会社が倒産したとか教科書で読んだ気もするけれど、いち早くそれを取り入れて開発に成功した会社が今の製薬会社を牛耳っているとかなんとか。
ま、俺には関係ない話だけど。
「リルちゃんがいたらもっと簡単に見つけられそうなのになぁ。」
「それは間違いないけど、暗くなる様子はないしここじゃ難しいと思うよ。どこで見られているかもわからないし見つかって下手に広まるのも困るからね。」
「むぅ、じゃあ諦めます。」
「いい素材が見つかるかは桜さんの直感スキルにかかってるから頑張って。」
「お任せください!」
ここを下りれば転送装置があるのでとりあえずそこを目指しつつ売れそうな素材を回収していく。
鑑定スキルがあれば毒があるとかどんな素材なのかとかすぐにわかるんだけど、残念ながら市販の鑑定道具は使い捨てなのであまりホイホイ使えるようなものじゃないんだよなぁ。
実際は毒キノコでした!っていう可能性もあるのでよくわからないやつはスルーしつつ、見覚えのあるキノコや素材だけを回収していく。
次からはちゃんと予習して手からくるようにしよう。
「和人さん。」
「ん?」
「何かいます。」
「・・・探索者か?」
「わかりません、でもあの木の奥に何かいる。」
棍を二つに分けて両手に持ち、桜さんは盾を前に構えて様子をうかがう。
さっきまでの遠足気分はどこへやら緊迫した空気の中正面の大きな木をじっと見つめる。
あの探索者たちなら遠慮なくあの笛を使うとして魔物だったら・・・先手必勝だな。
木を見つめること数十秒、木の裏からゆっくりと黒い影が出て来たタイミングで素早く飛び出し、影に向かって根を振り下ろす。
「くそ、角が固い!」
先手必勝を狙ったものの振り下ろした棍が大きな角に阻まれ思うようにダメージを与えられない。
それどころか角を振り回され危なく棍を取り上げられるところだった。
「和人さん下がってください!」
「わるい、仕留め損ねた。」
「大丈夫です。弱点は・・・左後ろ足ですね。」
「了解、ひきつけよろしく。」
弱点看破のおかげで狙うべき場所が分かるのはありがたい。
一度後ろに下がって距離を取りつつじりじりと左側に移動して弱点に狙いを定める。
こっちが攻撃したことで一気に戦闘モードになったモスディヒーア、角や体に付着した苔が攻撃を滑らせてしまうらしいので下手に力んで失敗するとそこを狙われてしまうんだとか。
角だけはかなりごついのでどちらかというと鹿というよりもトナカイとかそっち系にも見えてしまう。
俺の方を気にしながらも正面で盾を構える桜さんに向かって頭を下げ、そのまま猛スピードで突進。
足場の悪い中でも冷静に敵の動きを読んだ桜さんが攻撃を受け流しつつすれ違いざまに一撃を入れる。
それに怒ったディヒーアがまた同じような突進を繰り返し、何度かそれを行っている間に俺の近くでくるりと反転した。
狙うのは今!
素早く飛び出し弱点の左足めがけて棍を振りぬき、当たると同時に火水晶の魔力を開放すると小さな爆発が起き踏ん張れなくなったディヒーアはその場で転倒。
「やぁ!」
「もいっちょ!」
すかさず桜さんが横からのど元を切りつけ、俺は後ろから角のない部分めがけて棍を振り下ろす。
息の合った連係プレーで見事討伐に成功した。
残ったのは角と皮、それと緑色のコケ?
「なんでしょう。」
「わからないけどドロップ品には間違いなさそうだから後でギルドにもっていこう。ぶっちゃけ肉が手に入るのかと思ったんだけど、違ったみたいだ。」
「私もお肉かなって思ってました。」
「ロングホーンの肉があるからそれでもいいんだけど、鹿肉って美味しいっていうしなぁ。」
もしかしたらレアドロップで肉があるのかもしれない。
その辺までは調べてこなかったのでキノコや木の実を探しつつ、ディヒーアを見つけたら率先して買っていく。
結局探索者に遭遇することもなく気づけば四階層への階段を発見、須磨ダンジョンのように主を倒さずに下に降りられるのは非常にありがたい限りだ。
「無事に降りられそうですね。」
「だね、死角の多いここで襲ってこなかったってことはさっきのであきらめた・・・ってことにしておきたい。」
「大丈夫ですよ!多分ですけど。」
「どっちやねーん。」
「なんですかそのやる気のないツッコミは。」
「いや、ちょっと疲れたから。」
「とりあえず今日はこの辺にしましょうか、まだ先は長いですし。」
本当は7階層ぐらいまで行きたかったところだけど、ここでかなりの素材を採取してしまったのでカバンがパンパンになってしまった。
皮系の素材が結構中身を圧迫するんだよなぁ。
ギルドでポーターを紹介しようとした理由は間違いなくこれだろう。
向こうとしても素材をたくさん持ちかえれば持ち帰るほど潤うわけだし、わざわざそれをしない理由はない。
まぁ、頼んだところでまともだったかと聞かれると何とも言えないしリルを召喚出来ないのは正直痛い。
実際あの時リルがいなかったらこうやって無事に探索できていなかっただけに暫くはこのままでいくしかないだろう。
ま、本気で稼ぎたいなら須磨ダンジョンの魔真珠作戦もあるしとりあえずは気にしなくてもいいか。
気を取り直して階段を降り四階層へ、果たしてこの先では何が待ち受けているのだろうか。




