78.スキルを使ってやりすごしました
暗闇の中、角をこちらに向けて突っ込んでくるロングホーンをひらりと躱しながらすれ違いざまに短く持った棍を叩きつけてダメージを与えていく。
狙うは足一択。
何度も攻撃し続けるとそこだけがどんどんと動きが鈍くなり、更に攻撃を避けやすくなる。
本当はかっこよく倒したいところだけど棍では中々致命傷を与えられないのであくまでも時間稼ぎに徹しつつ向こうの様子を伺うとちょうどリルの鋭い爪がロングホーンの皮を切り裂き、暗闇に悲鳴がこだました。
ズシンという音と共に巨体が地面に倒れ、とどめとばかりに喉元に鋭い牙が突き立てられるのを確認してから慌ててそばに近づいてスキルを収奪。
【ロングホーンのスキルを収奪しました。突進、ストック上限は後二つです。】
暫くすると動かなくなり巨体は地面に吸い込まれるように消えていった。
これで三頭目。
地面に残った肉を美味しそうに頬張ったリルは次なる獲物を求めてロングホーンの群れへと突っ込んでいく。
「そっちは任せた。」
「ガウ!」
「さて、そろそろ俺達の分の肉も確保しとかないとな。」
残ったロングホーンは残り四頭。
リルに追いかけらるように二頭がその場から離れたので残りめがけて俺も近づき、こちらに気づいて顔を向けたのを逃さず使い慣れたスキルを発動する。
【ロングホーンのスキルを使用しました。ストックは後二つです。】
モフラビットでおなじみの突進スキル。
背中からものすごい力で押し出される加速と共に角の間へと思い切り棍を叩き込むと、頭がい骨をつぶす感触と共に脳みそを直接揺さぶられ一瞬で昏倒するロングホーン。
すかさず体に触れてスキルを収奪、ストックを補充したところで再びスキルで加速してから今度は後ろ足めがけて棍を振りぬくと右の後ろ脚から地面に崩れ落ちた。
「桜さん!」
「はい!」
「とどめは任せた!」
「え、あ、はい!」
大暴れするロングホーンの横っ腹をなんども叩きつけながら桜さんを呼ぶと、すかさず木の裏側から飛び出して迷いなく首元にショートソードを突き立てた。
すぐさま引き抜くと血しぶきが辺りに飛び散り大暴れしていたロングホーンも最後は小さく痙攣しながら動かなくなる。
それと同時に闇の向こうからも悲鳴が聞こえてきたのでどうやら戦いは終わったらしい。
「やれやれ、何とかなったな。」
「すごい、この暗闇の中で何で戦えるんですか?」
「んー、体質じゃないかな。昔から暗いところでも結構見えていたと思うから。」
「体質かぁ、スキルみたいなのがあればいいんですけど難しいですよねぇ。」
二頭のロングホーンが地面に吸い込まれ地面に残された肉と皮を回収。
本当は夜目のスキルだけど実際に暗いところでも見えるタイプなので嘘は言っていない。
クリスタルを使えばもしかしたら同じスキルが使えるかもしれないけれど、折角ならもっといいスキルが欲しいよなぁ。
「グァゥ!」
「リルもお疲れ、素材の回収ありがとな。」
「リルちゃんも偉かったね、さすが!」
戦いを終え肉をたっぷり食べたリルがドロップした皮を咥えて戻ってきた。
すかさず桜さんがリルに抱き着き偉い偉いと頭をなでる。
ほんとこの二人仲がいいよなぁ。
「しっかし、予想はしてたけど本当に擦り付けられるとはね。夜だったからリルを出して何とかなったけど日中だとかなりやばかったかな。」
「私だけじゃせいぜい二頭までだったと思います。」
「そもそもどうやってロングホーンを引き寄せてたんだ?」
「そういえばそうですね。」
二人の探索者が悪態をつきながら去っていき、そのあと何かを落として・・・ってあれだ!
戦闘に夢中になって忘れていたけれど地面をよく見ると何かが落ちているのを発見。
手に取ると何とも言えない匂いがする。
どうやらあまり好きではない匂いだったんだろう、リルが鼻を抑えたかと持ったらそのままブレスレットの中に戻ってしまった。
「何かわかる?」
「わかりません、魔物を誘導する何かでしょうか。」
「となるとこのまま出しているのはまずいか・・・。」
このまま放置してまたロングホーンが来ても困るのでとりあえず証拠として回収し、袋を二重にしてカバンの中へ。
気付けば空が少しずつ明るくなってきて夜が終わろうとしていた。
いくら俺が気に食わないからって擦り付けは立派なマナー違反、一歩間違えば命を落としていただけに通常であれば資格取り消しなどの厳しい措置が取られるはずだけど相手がだれかわからないので訴えることも出来ない。
とりあえず被害の申し出はするけれど、これからここに来るたびにこんなことになったんじゃたまったもんじゃないよなぁ。
急いで下の階に行けばいいというけれどフィールド型である以上自力で階段を探さなきゃいけないわけだし、その間にまた襲われないとも限らない。
せめて今ので終わってくれるといいんだけど。
「それじゃあ行こうか。」
「はい!」
軽く食事を済ませ日が昇ると同時に活動を開始、自分からロングホーンに近づかないようにしていたけれどさっきのように集めて擦り付けられるのも困るので今回は率先して戦いを挑むことにした。
向こうも売られたケンカは買うようで一定距離まで近づくと容赦なく襲ってくるも単体では特に苦戦することもなく、コツコツと肉と皮を回収。
今日の晩は焼肉三昧だな、そんな話をしながらなんとか三階層への階段を発見した。
「後ろは?」
「大丈夫です。」
「さっきので終わってくれたらいいんだけど、油断しないようにいこう。」
「まずは下に降りてすぐ、ですね。」
「あとは夜になってからも気を付けないと。この感じだと明るいうちに休憩して交代で仮眠をとる方が得策かもね。」
周囲を警戒するも誰かに見られている様子はない。
あれで死んだと思われた方が気分は楽だけどそう簡単にはいかないだろうなぁ。
とにもかくにも先に進まなければ始まらないのでゆっくり階段を下りて三階層へ到着。
見えてきたのはどこまでも広がる草原・・・ではなく木漏れ日差し込む林の中だった。
「綺麗です。」
「草原かとおもったら今度は森・・・いや、林になるのか?」
「そもそも森と林の違いって何ですかね。」
「んー、字画的には生えている本数が多いか少ないかだと思うけど個人的に手が加えられているかどうかじゃないかなぁ。」
目の前に広がる木々は規則正しい感覚で並んでいるし種類も同じ感じだし、この違いは帰って辞書を調べればわかるだろう。
草原と違って視界が悪く隠れられる場所がたくさんある。
上に戻るためには何としてでもここを抜けなければならない正直魔物の強さよりもそっちの方が気になって仕方がない。
「ここに出るのはモスディヒーアでしたね。」
「稀に苔の付いた角がドロップするらしいけどそれが薬になるらしいよ。ちなみに肉も美味しいらしい。」
「お肉いっぱいです。」
「個人的には野菜も食べたいところだけど、パーティーは上に戻ってからということで。リルは・・・やっぱり我慢するしかないか。」
こういう場所こそリルに出てきてほしいけれど誰に見られているかもわからないのでまだお預け、出すとしても夜になってからだな。
願わくば何もなく終われますように。
そう祈りながら枯葉の積もった林の中をゆっくりと進んでいくのだった。




