77.魔物を押し付けられました
一階層を探索して分かったことは、朝と晩が一時間おきに来るということ。
長丁場になると覚悟した俺達だったけど案外あっさりと朝を迎え、再び探索を続けることができた。
途中何度かカリュカールに襲われはしたけれど常に単体だったのでおそらく群れで行動していないのかもしれない。
それならば恐れるに足らず、単体なら二人のコンビネーションで危なげなく倒すことができている。
【カリュカールのスキルを収奪しました。夜目、ストック上限は後一つです。】
とどめを刺すついでに収奪スキルを発動、なるほどこれがあれば夜の時間も安心だな。
「次の階層も夜が来るんですかね。」
「この感じだと多分そうじゃないかな。調べた時はそこまで詳しく書かれていなかったから、調査不足でごめんね。」
「謝らないでください、こういうの全部和人さんに任せっぱなしで自分でも調べたらいいんですけど。」
「まぁ調べ物は嫌いじゃないし、それに桜さんには食糧の準備とかをしてもらってるから大丈夫だよ。」
スキルを使った感じだと効果は一時間だけ、保温スキルみたいに各階層にいる間効力があれば便利だったんだけど日中に目を開けられなくなる可能性もあるのでそのリスクを考えればこの時間でいいのかもしれない。
とりあえずストックできるだけストックしていざというときに置いておくとしよう。
二回目の夜を終えたころ無事に階段を発見、周囲を警戒しても誰かに見られている感じはなかったのでそのまま降りることにした。
「お、さっきとちょっと違うな。」
「上は草が緑でしたけどここは全部茶色ですね。」
今度はサバンナの乾季だろうか、同じ草原でもこれだけ違うかという変化に思わず立ち止まってしまったが、また後ろからぶつかられても困るので速やかに移動。
周囲をを確認するも大きな違和感はなかった。
「二階層に出るのはロングホーンっていう牛みたいな魔物らしい、鋭い角と体当たりに気をつけよう。」
「了解です!」
「因みにドロップ品は予想通りのお肉、そういえばスーパーでたまに見かける気がするなぁ。」
「通常はワイルドカウとかですけどロングホーンも時々おいてますね。脂身が少なくて赤みがとっても美味しいんですよ。」
「つまりリルの分も含めていっぱい持って帰れってことか。」
「ですね!」
ここにリルがいたら気合たっぷりの返事をしてくれたんだろうけど、まだまだ人目があるのでもう少しだけ辛抱してもらおう。
さっきみたいに一頭ずつ出て来てくれればカリュカール同様なんとかできるはず、とりあえず明るいうちに移動をして今日の晩飯・・・じゃなかったロングホーンを探すことにした。
「あ、いた。」
「でも近づいてきませんよ?」
「向こうも気づいているみたいだけど好戦的じゃないのかな。」
少し歩いただけで獲物を発見、闘牛のような立派な角をこちらに向けてくるけれどしばらくするとまた足元の草を食べ始めた。
魔物とはいえ襲われなかったらというタイプなんだろうか、もしそうだとしたらこの階層は戦闘なしでスキップ出来ることになる。
肉は欲しいけど早々に通過できるならそれに越したことがないので、刺激しないよう距離をとりながら通過することにした。
「肉は階段を見つけてから少しだけでもいいかな?」
「そうですね、リルちゃんには申し訳ないですけど先に進むのが優先なので。」
「とりあえず夜になるまで先に進もう、疲れてない?」
「大丈夫です!」
ダンジョンに潜って早数時間、二人ともレベルが上がってそれなりに体力がついてきているとはいえ無用な警戒を続けているせいで神経はすり減っている。
次の夜は夜目を使って警戒しつつ桜さんには仮眠して貰おう。
そんなことを考えながら進んでいるうちに再びサバンナがオレンジ色に染まっていく。
ちょうどいいところに大きな木があったのでその下でしばしの休憩を取ることにした。
「それじゃあお言葉に甘えて。」
「お疲れ様、おやすみ。」
木の背中を預けるようにして座った桜さんが暫くして寝息をたて始める。
休める時に休むのが探索者に求められるスキルの一つ、信頼してくれているからこそ眠りにつけるんだろう。
喜んでいいのかなぁ、これは。
【カリュカールスキルを使用しました。ストックは後三つです。】
夜目を発動して周囲を警戒、あえて焚き火をしないのは周りの自分達の位置を知らせないため。
今の所何かちょっかいをかけられているとか監視されている様子はないけれど、武庫ダンジョンで痛い目を見ているだけに敵意を向けられた相手に油断はできない。
とはいえ少しでも気分を落ち着かせないと後々大変なので、とりあえず大好きなチョコ味の携帯食を齧りながら辺りを警戒する。
何も考えない時間。
したのは月も星もないけれどなんとなくあるように見えてしまうのはなぜだろうか。
「ん?」
ふと直座りしたお尻から微細な振動を感じた。
地面から伝わる微かな振動にあたりを警戒するも暗視スコープのような視界に何も反応はない。
だが振動はどんどんと大きくなり、なんならドドドドという音の聞こえてくる。
どこだ、どこからくる?
ロングホーンは好戦的じゃないと勝手に思い込んでいただけで夜になったら豹変するタイプだったのか?
「裏か!」
周りは警戒していたけど木の後ろまでは確認していなかったので慌てて顔を出すと、暗闇の向こうに何頭ものロングホーンが見えた。
更に言えばそれらに追われるように走る探索者の姿。
彼らはそのまま木の横を通り過ぎ・・・。
「おい、魔物を集めてやったぞ!」
「せいぜい頑張れよオッサン!」
そう吐き捨てながらそのまま通過、かと思ったら何かを落として走り去ってしまった。
「桜さん起きて!」
「え、あ、はい!?」
敵はすぐそこまできている、慌てて桜さんの肩を揺すりそのまま棍を構えると同時に振動の元凶が木の横を通過・・・するはずもなくその場で急停止してぐるりとこちらの方を向く。
そのままあいつらを追いかけてくれたらいいのに、そんな甘い考えをしてしまうけれどわざわざ俺達に押し付けるために温厚なこいつらをかき集めたんだ、何か細工をしてあるんだろう。
おそらくはさっき落とした何か、けれどそれを確認する時間はない。
「リル!ご飯の時間だ!」
周囲に他の探索者の姿はないのを確認してからブレスレットに呼びかけると眩い光と共に純白の獣がサバンナに立つ。
「グァゥ!」
「桜さんは木を背にして警戒して、こいつらは俺とリルでなんとかするから!」
「でもこんな真っ暗じゃ・・・。」
「夜目は効くんで!」
流石にロングホーンといえどあの大木を折ることはできないだろう。
ざっと見て全部で7頭、まずはそれらを木の反対側に誘導して一頭ずつ撃退すれば大丈夫。
あいつらはリルも知らないし俺が夜目スキルがあることも知らないからこれでどうにか出来ると思っているだろうけど、こう見えて単独走破記録保持者なんでね。
夕食が自分からやってきてくれたって事でサクッと倒して桜さんを安心させてあげないとな。
「リル、倒した分の肉は全部食べていいからな。がんがんやっていいぞ。」
「ワフ!」
リルのやる気にも火をつけたしいっちょ夕飯確保といきますか!




