70.ダンジョン探索を再開しました
桜さんが提案してくれた須磨ダンジョンバカンス。
最初こそ色々言ったけどなんて言うか最高でした。
桜さんが買い込んだ水着はどうやらこのためだったらしく毎日日替わりで披露してもらえたし、周りの探索者も皆バカンス目的、それはもう際どい水着の人もいたけれどそっちを見ると桜さんが不機嫌になるのであまりみられなかったのが残念だ。
気付けば3日も滞在しており、いい加減体が鈍ってきたのでそろそろ探索をと桜さんに切り出すと渋々ながら同意してくれた。
「和人さんは働きすぎです。」
「でもほら3日の休むと筋肉とか落ちてくるって言うし。」
「そんなのまた鍛えたらいいじゃないですか、今日の水着が一番のとっておきだったのに。」
「それはまた次回ということで。」
「絶対ですよ?絶対にまた来ましょうね!なんならグアムダンジョンでもいいですよ?」
海外にまで行ってダンジョンに潜りたいかと聞かれたらまぁ気にはなるよね。
とはいえせっかく行くなら観光もしたいし、それはまた行った時に考えよう。
そんなわけで須磨ダンジョン専用装備に着替えていよいよ探索を開始。
探索者仕様の水着に各種サポーターというなんともアンバランスな感じだがそれがいいっていう冒険者も少なくない。
桜さんもそれに当てはまるんだろうけど主に胸部が・・・いや、これ以上は何もいうまい。
「いきなり二階層からって変な感じだなぁ。」
「上が観光地化しちゃいましたから。敵もそんなに強くありませんしサクッと走破してまたバカンスしましょ?」
「一階層があんな感じだったとはいえ油断は禁物、確かショットシェルって魔物だったっけ?」
「そうです!浅瀬からロケットみたいに飛び出してくるので注意してください。」
バカンスメインのダンジョンなので二階層についても探索者はまばら、この感じだと三階層からリルを召喚しても良さそうだ。
くるぶしぐらいの浅瀬をバシャバシャと歩きながら先へと進む。
敵はこの浅瀬から突然飛び出してくるらしいので注意がひつよ・・・。
「和人さん!」
「っとぉ!?」
突然右側の水面から何かが飛び出し突っ込んでくるも、新しい小手の前に出来た見えない壁に阻まれて下に落ちた。
まさかこんなにも早く装備の効果を実感することになるとは思わなかったけど、自動で敵の攻撃を防げるのは非常にありがたい。
氷の盾は空気中をキラキラと漂ってからふわりと消える。
改めて足元を見ると波間の隙間からこちらを伺う何か目が合った。
棍をそいつめがけて思い切り突き立てると硬い感触の後砂の中で何かがぐるぐる動き出した。
「こいつが犯人か。」
「ショットシェルの本体ですね、さっきのが子株で命中したのが体に張り付くと血を抜かれるそうです。」
「いやいやそんな魔物がいるのに肌を露出するとか逆効果じゃないか?」
「でもびしょぬれのまま動き回るのも危険ですよ?結構風も強いので体温が奪われちゃいます。」
「だからウィンドブレーカーがあるんじゃないのか。」
折角のウィンドブレーカーなのに前を止めずいい感じに胸元を出したままの桜さん、一応大人なのでわざとなのはもちろんわかっているけれど、今それをする必要はないんじゃなかろうか。
そんなことを考えている間に棍で貫いたショットシェルが水中に吸い込まれ素材がプカリと浮いてくる。
サザエの様な見た目をした巻貝で浮いてくるってことは中身はないんだろうけどもしかしてこれが水中に隠れていた本体なんだろうか。
「それは言わないお約束です。」
「ちなみにこいつってそこら中にいるんだよね。」
「この階層はショットシェルしかいないはずですからおそらくは。」
「じゃあそいつらが一斉に子株を打ち込んできたら?」
「干からびちゃうんじゃないでしょうか。」
まるで他人事っていう感じの桜さんだが自分が一番やばいんだけど?
もちろん盾を使って防ぐことはできるだろうけど四方八方から打ち込まれたら対処できない。
もちろんヤバくなったらしっかり着込むんだろうけど・・・いや、これ以上言うと機嫌が悪くなりそうなのであえて言わないでおこう。
棍の先で水中をつつきながらジャバジャバと浅瀬を行くこと30分程、ただ歩いているだけなのに予想以上に足に疲れがたまってくるのは微妙なこの水量のせいだろう。
そこそこの抵抗がある上に体重をかけるとズブッと沈み込んでしまうのでそれを引き抜くのにも体力を使う。
篠山ダンジョンの寒さとはまた違う体力の使い方、かといって陸地はなくどこまでも水辺が続いている。
こりゃ休憩するのにも一苦労、須磨ダンジョン専用探索道具が良く売れるわけだ。
【ショットシェルのスキルを収奪しました。ショット、ストック上限は後四つです。】
討伐ついでにサクッと収奪してみたんだけど手に入れたのはそのまんまのスキル。
何を打ち出すのかはわからないけどストックがあいているのでとりあえず回収しておけばまた何かに使えるのかもしれない。
「はぁ、さすがに疲れますね。」
「確かにこの微妙な重さが体力を奪っていく感じ、休憩する?」
「したいとは思うんですけど危ないですよね。」
「まぁこれだけ開けてるとどこから打ち込まれるかわからないし。」
「じゃあもう少し頑張ります。」
「とりあえず下の階層に向かうために階層主の所まで行こうか。」
各階層にいる主を倒さないと下に進めない、とはいえフィールド型ダンジョンなのでそれを探すのも中々に大変なわけで。
若干の疲労を感じながら探索すること1時間ほどでやっとお目当ての階層主を発見、見た目は途中で倒しまくったショットシェルなのだが大きさが半端ない。
自分の背丈ほどもある巨大巻貝がドドン!と俺達を迎えてくれたわけだが・・・。
「どうやって倒すんだ?」
「叩くとか。」
「まぁそれしかないだろうけど、あいつと同じなら子株を打ち出してくるわけだよな?」
「それは流石に要注意ですね。」
いまだ動かない巨大ショットシェル、さすがの桜さんもウィンドブレーカーを着込んで盾を手にジリジリと近づいていく。
こんな時リルがいてくれたらよかったんだけど微妙に人の目があるので出しにくいんだよなぁ。
「和人さん危ない!」
桜さんが先行して近づいていった次の瞬間、突然ショットシェルがぐるりと反転してその勢いで何かを射出。
桜さんの声に慌てて小手を前に出すと氷の盾にサザエぐらいの子株が突き刺さっていた。
さっきまで水中に隠れていたのと同じ大きさのを打ち込んでくるとか中々ワイルドじゃないか。
「こいつ、動くぞ。」
「あ!また隠れちゃいました・・・。」
「こうなったら持久戦だな。次に動いたところで仕掛けよう。」
「はい!」
子株を射出する瞬間だけ生身の部分が見えるようなのでそこを狙って攻撃するしかない。
一応思い切り殻をぶっ叩いてみたけれどあまり効果があるようには思えなかった。
一応アイアンゴーレムも倒せるぐらいの強度があるので叩き続けると何とかなりそうだけどそれは最後の手段ということで。
巨大巻貝を前に水着姿の二人が戦いを挑むというなかなかシュールな光景だけどこれが須磨ダンジョンの日常、バカンスだけのダンジョンと思いきや思っている以上に大変かもしれない、そんな予感をひしひしと感じるのだった。




