68.桜さんの目標を定めました
「氷装の小手、かっこいいですね。」
「見た目以上に軽いし武器に氷属性をつけてくれるってのが素晴らしい。リルもいるし今後火属性ダンジョンは攻略が楽になりそうだ。」
「いいなぁ、私も冷気耐性があれば篠山ダンジョンに潜れるのになぁ。」
「あそこはまだ魔力が乱れているらしいから下層は難しいけど、五階層までならリルも一緒だし桜さんでも十分いけるんじゃないかな。」
「私は和人さんと行きたいんです!って、言いながらも梅田ダンジョンに行くためには最低あと一つダンジョンクリアしないとなんですよね。」
氾濫騒動から三日。
しっかり休んで体力を回復した俺達はドワナロクで探索道具の補充なんかを行っていた。
手に入れた銀色の小手は氷装の小手というものらしく、構えるだけで氷の盾が自動で生成されるだけでなく武器に軽い氷属性を付与してくれる中々に優秀なものだった。
まぁ下層とかではあまり効果はなさそうだけど、いざというときに敵の攻撃を受け止められるのは非常にありがたい。
特に乱戦になったときなんかは受け止めるのも難しい時があるのでそういう時に小手と盾で防ぐことが出来れば被害を最小限に抑えることも出来るはず。
この辺は桜さんと模擬戦をしながら実際に試してみよう。
「まずはどのダンジョンを走破するか、収入にこだわらなくてもいいから実績を積みやすいところがいいんじゃないかな。」
「となると近場だと須磨ダンジョンなんかどうです?」
「あー、あの海辺の?」
「そうです!電車でも行けますし、集中して潜るならいいホテルもありますよ。」
「詳しいね。」
「えへへ、実は一回行ってみたいと思って調べてたんです。」
ペロッと舌を出してごまかそうとする姿がまた可愛らしい。
なんでこんな年上を慕ってくれるのかはわからないけど夢のためにもお互いに頑張って成長しないと。
須磨ダンジョンといえば海岸沿いの岩場にあって敵がそこまで強くないことから武庫ダンジョン同様初心者向けのダンジョンとして親しまれている。
まるで海水浴に行くような手軽さで挑めるらしいけど一応相手は魔物なので油断すれば大けがすることだってある。
それでもきわどい水着姿に武器を持ち潜る姿がよく動画サイトに投稿されているんだとか。
収入は期待できない気軽に挑戦できるという意味では実績作りにいいかもしれない。
「となると海向けの装備や道具が必要だね。」
「鎧系とかは錆びちゃうらしいので布とか革系の防具だけになっちゃいますからそれも用意しないとです。あ、あと水着も!」
「水着いる?」
「いりますよ!下着のまま防具つけるわけにはいかないですし、あそこはすぐびしょぬれになるんで着替えとか風よけとか結構色々必要です。」
「・・・本当に?」
「本当です!」
ま、そういうことにしておこう。
そうなると既存の道具や装備はほとんど流用出来ないので、鈴木さんにお願いして新しい装備を新調してもらうことにした。
手軽に行けるとは言え油断は禁物、武器はそのまま使えるとしても装備はそこそこの物を用意したい。
探索道具に関しては流用できるものもあるのでこれは別途桜さんと一緒に選びながら買いそろえることにした。
「和人さんこっちはどうですか?」
「あー、うん、いいと思うよ。」
「じゃあこっちは?」
「ちょっと布少なすぎないかな。岩場もあるみたいだしこけてケガしない?」
「そこはサポーターつけてますから大丈夫です!なるほど、和人さんは明るい色の方が好きと・・・。」
装備に関しては鈴木さんの見立てで安くていい物を用意してもらえたんだけど、何故か桜さんの水着選びが終わらない。
一人で選んでくれていいのに俺まで一緒に選ぶことになっているのはなぜだろうか。
最初は競泳用みたいな太ももぐらいまでカバーするタイプの水着だったのにだんだんと日常で使えるようなセパレートタイプやビキニタイプまで試着し始める桜さん。
どう考えても趣旨が変わっているような気がするんだけどそれを指摘するのもあれなので黙っていることにした。
救いなのはほぼ個室なので周りの目線を気にしなくてもいいところ、はぁ早く終わらないかなぁ。
「よし、とりあえず決まりました!」
「気に入ったのがあって何より。それじゃあ次に行こうか。」
やれやれやっと終わったと立ち上がったその時だ、試着室の中から桜さんが顔だけを出している。
「ど、どうかした?」
「どれが好みでした?」
「好みっていわれても全部似合ってたし、しいて言えば二番目の奴かな。」
「上がタンクトップになってるやつですね!じゃあそれと、あとはこっちと・・・オッケーです!すぐ着替えちゃうのでちょっと待っててください!」
再びカーテンを閉めて着替えを始める桜さん、衣擦れの音があまりにも生々しくてとりあえず試着室から離れることにした。
「お疲れ様でした。」
「ありがとうございました。あの、探索用水着って他のと何が違うんですか?」
「使われている生地が魔物の素材でできており、強度だけとっても普通の刃物程度では傷一つつけることはできません。また、魔防力の高い物もあり少々の魔法はかき消してしまいます。もちろん撥水性能も高いのでプライベートでもご使用いただけますよ。」
「だからあんな値段するんですね。」
「流石に一般の物でダンジョンに潜ることはできませんから。まぁ潜る方もおられますが恥ずかしい思いをするだけですね。」
なるほどなぁ、
一着数万、ものによっては10万を超えると聞いた時は耳を疑ったけどそういう理由があったのか。
探索時は膝や肘なんかにはサポーター的なものをつけるけれど可愛さ重視でそれをつけない人もいるらしい。
何のためにダンジョンに潜っているかわからないけど、まぁその辺は自己判断だしなぁ。
「お待たせしました!すみません、これ全部ください。」
「え、全部!?」
「普段使いもできますし折角の須磨ダンジョンですから!」
「ふふ、毎度ありがとうございます。ご一緒にウィンドブレーカーなどはいかがですか?ちょうどそちらの水着に似合う素敵なものがあるんです。」
「ぜひ!」
「あー、俺は向こうで須磨ダンジョン用の探索道具を見てくるからどうぞごゆっくり。」
これ以上は流石に限界なので桜さんには悪いけど別行動決定だ。
元々水着系は別会計の予定なので別れても問題はない。
探索道具は折半っていう話だったけどその為にあそこにい続ける方がつらいので別の物を見てテンションを上げていこう。
キャンプ道具同様こだわりだすときりがなくなる探索道具、須磨ダンジョン特設コーナーなる場所があったのでそこで色々と仕入れることにした。
常に足場が濡れている環境なのでそれ用に改良された携帯用コンロや簡易机、折り畳みの椅子なんかが多数並べられている。
他と違うのは風よけや着替えに使う折り畳み式のテントが当たり前のように置かれている所。
確かに濡れたままでいると体温も奪われるので着替えは必要だと思うけど、そんな頻繁に着替えるものなんだろうか。
正直解らないけどなくて困るぐらいならあった方がいいので、その考えであれこれ詰めていくとあっという間に籠がパンパンになってしまった。
恐るべしドワナロク、結局装備品も含めると50万円近いお金を払っていた。
ゴールドカードを使ってこの値段、元を取ろうと思ったらかなり頑張らないと難しいだろう。
問題は須磨ダンジョンでそれができるかどうかだが・・・、まぁやるだけやってみるか。




