67.想像以上の大金を手に入れました
功労金の額を変更しております
主任同席のもと諸々の手続きが完了して職員が応接室にやってきた。
もちろんそこにはメガネさんこと東宮さんもいる。
「今回は氾濫を収めてもらって本当に感謝してる。あんなことがあったのにちゃんと走破記録も更新してくれて君には頭が上がらないよ。」
「それはまぁ偶然なので気にしないでください。正当に評価してもらってそれに見合う報酬さえもらえれば十分なんで。」
「単独走破記録については来月中ごろを目安に発表させてもらうとして、これが今回の報酬を含めた総支払額になるから確認してもらえるかな。」
「頂戴します。」
東宮さん直々に手渡された書類を桜さんと一緒に上から順番に確認していく。
①単独走破報酬10万円。
②記録更新報酬10万円。
③シルバーウルフの毛皮15万円
④クリスタル買取り15万円(二つ)
⑤その他素材15万円
⑥氾濫鎮静化功労金35万円
「え?」
「うそ、こんなに!?」
ずばり総額100万円也。
素材に関してはゴールドカードがあるからもう少し高くなるとおもうけど、こんなに早く三桁を稼ぐ日が来るとは思わなかった。
まぁ、半分は報酬と慰労金だけどそれでも稼いだことに変わりはない。
まさかこんなにもらえるなんて、あのボロアパートに住んでいた自分に見せてあげたいぐらいだ。
「本当はもっと支払うべきなんだろうけどうちではこれが限界でね。その代わり前に約束した篠山の名産品を1年分付けさせてもらうつもりだよ。これは木之本監査官にも確認を取っているから大丈夫、ですよね木之本さん。」
「グレーといえばグレーですけど、新明君の功績を考えればそのぐらいの追加があっても問題はないと思うよ。そもそもギルド憲章には名産品を渡してはいけないという決まりはないし、成果報酬ということにすれば今回氾濫に集まってくれた他の探索者と変わりないからね。」
「ということだから後で住所も貰えるかな、最高の名産品を送らせてもらうから。」
「楽しみですね和人さん!」
「お肉を多めでお願いします、彼女がたくさん食べるので。」
「あはは、まかされたよ。」
応接の奥で丸くなっていたリルが肉という単語に反応して顔を上げる。
いやー、お金だけでなく名産品までもらえるとは。
前に話は出ていたけど約束したわけじゃなかったので覚えてくれているとは思わなかった。
「報酬はこれで問題ないかな?」
「十分です。」
「それじゃあライセンスカードを預かろう。それと、今回の一件を踏まえて探索者ギルドは新明君のDランク昇格を決定したよ。今後は自由にD級ダンジョンに潜ってもらえるし、PTを組めばC級ダンジョンへも入場できるよ。ただ、可能なら彼女の存在はもう少し伏せてもらえると助かるかな。」
「あー、ですよね。」
「もういくつかのダンジョンを制覇してもらって、それから公表してもらえれば色々ごまかせるはずだからもうちょっとだけ頑張って。」
ライセンスカードを東宮さんに預け、中に報酬を入れてもらいながらランクについて改めて説明を受ける。
E級ダンジョンをクリアすることでD級ダンジョンに潜ることは問題ないんだけど、正式にDランクへ昇格しないと入れない場所もあったりする。
昇格条件は複数のE級ダンジョンを走破もしくはD級ダンジョンを走破すること。
どちらも複数PTでの走破も認めてくれているけれどC級以上は単独PTでの走破が義務付けられているからそこからはキャリーしてもらえないんだよなぁ。
だからこそ梅田ダンジョンがやばいって言われるんだけどもとりあえず今は桜さんのランクを上げることが先決なのでE級かD級を走破することになるのかな。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
「帰りはどうするの?武庫ダンジョンまで戻るからよかったら送ろうか?」
「いえ、迎えに来ているのでそれに乗って帰ります。」
「僕のドラテクを披露できなくて残念だけど迎えがあるなら仕方がないね。そういうことだから東宮さんもお疲れ様、被害が大きくならなくて本当によかったね。」
ポンポンと東宮さんの肩をたたき主任が応接室を後にする。
俺達も改めて東宮さんにお礼を言ってからギルドの駐車場へ移動すると、前と同じ黒塗りの高級車が俺達を待っていてくれた。
後部座席に乗り込むと同時に緊張の糸がほどけてどっと疲れが押し寄せてくる。
ここからあと一時間、正直起きていられる自信はない。
「お疲れでしょうから眠っても大丈夫ですよ、ついたらちゃんと起こしますから。」
「とか言って桜さんの実家に連れていかれたとかないよね。」
「まさか、行ったところで褒められるのは和人さんだけですし。Dランクになったって聞いたらもっと頑張れって言われるのがおちです。」
「レベル制限もなくなったし次回からは一緒に探索ができるから。次はどこに行く?前の川西ダンジョンにする?」
「あそこは絶対に嫌です!」
幽霊嫌いの桜さん、いくら自分のランクが上がるとはいえあのダンジョンには二度と行きたくないという強い意志を感じる。
個人的に悪いダンジョンではなかったと思うけど、一人で行くにはなかなか荷が重いのでここは桜さんの意見を尊重しよう。
「まぁ次に行くにせよ色々と準備は必要だからね、装備も鑑定したいし壊れた道具とかも買いなおしたい。それこそ新しいテントと探索装備とか買ったら色々と便利だと思うんだけど。」
「そうやって買ってると今回の稼ぎなんてあっという間になくなっちゃうんでしょうね。」
「100万って探索者になる前はかなりの大金だったはずなんだけど、あれこれ買うだけで全部なくなっちゃうんだから怖いよなぁ。」
「ほんとです。」
金は天下の回り物、こうやって稼げたからこそ新しい装備を買おうって気持ちになれるんだろうけど気持ちが大きくなってあれもこれもと言い出したらあっという間になくなってしまうのは間違いない。
それだけに次に何を買うかは真剣に考えないと。
もちろんホワイトベアのマントを買った時みたいに何度も同じダンジョンを往復して稼ぐっていう手もある。
とりあえずは装備の鑑定、それから一緒に手に入れた例の本をどう使うかを決めないと。
あぁでもないこうでもないと話している間に眠気はどこかに行ってしまいあっという間に時間が過ぎて気づけば家の前に到着していた。
「はぁ、やっと帰ってきた。」
「お疲れ様でした。ご飯とかどうしましょうか、お疲れですよね?」
「疲れてはいるけどおなかには何か入れておきたいかなぁ。」
「じゃあ簡単な物を作っておくので和人さんはお風呂に入ってきてください。」
「いいの?」
「だって今日一番の功労者じゃないですか。その間に美味しいごはん作っておきますね。」
このままベッドに倒れこみたいところだけど、空腹で目が覚めるぐらいなら食べるものをしっかり食べて寝るに限る。
でもお風呂で寝ないようにだけ注意しておかないとダンジョンから生還したのに風呂で溺れ死んじゃいましたじゃあまりにもカッコ悪い。
そんなわけで一番風呂をありがたく頂戴して長い一日の疲れをとることにした。
ここまでこれたのもリルや収奪スキルのおかげ、また明日からも夢に向かって頑張るとしよう。
結局風呂場で寝てしまい溺れかけながらも長い長い一日は無事終わりを迎えたのだった。




