60.スキルのレベルが上がりました
雪中行軍を続けながらの爆撃を続けること四回。
自分がノーコンすぎて毎回一発は外すけれど何とか二つの群れを一網打尽にすることができた。
最後はなんか申し訳無くなってきたけどこれもダンジョンの宿命ってことで諦めてもらおう。
【アイシクルエイプのスキルを収奪しました。雪玉、ストック上限は後二つです。】
爆撃がそれて生き残っていたやつに近づきスキルを収奪してからとどめを刺す。
あれ?アイシクルエイプからいくつ収奪した?
記憶を呼び戻して確認すると確か三頭からスキルを収奪したはず、にも関わらずストックがまだ二つあるってことはもしかしてスキルレベルが上がったのか?
基礎レベルが上がったときの様な倦怠感がないのでいまいち実感はないんだけども、この感じから察するにレベルが上がったことは間違いない。
現在取得しているスキルは四つ、いままでだとこれ以上のスキルは収奪できないはずだけどレベルが上がっているのならもう一つ確保できるはず。
とはいえここに出てくるのはアイシクルエイプの他にイエティだけ、いまだ奴らと遭遇していなんだが一体どこにいるんだろうか。
「お?」
雪中行軍を続けていると右前方にぽっかりとあいた穴を発見、どうやら大きく盛り上がった地面の下に何者かが穴を掘っていったようだ。
何者って言っても十中八九魔物しかいないわけだけども、もしかしてここが八階層への階段なのか?
折り畳みのスコップを取り出して雪を掘り返していくと人が通れるぐらいの大きな穴が姿を現した。
環境が激変していなかったらすぐに気づけただろうけどこの状況だと下手すればいつまでも見つからなかった可能性もあるわけで。
とはいえエコースキルを屋外で使っても効果は薄い、よくまぁ見つかったものだ。
「リル、なにかいそうか?」
「わふぅ?」
「とりあえず入り口は大丈夫そうだな。」
穴の中に入ると先程までの寒さから一変、ぽかぽかと温かい空気で満たされていた。
風が無いだけでこんなにも温かくなるのかと感動しながらもまだここはダンジョンの中、予想通り奥に続く道があるので警戒しながら先へ進むとしよう。
ランタンの明かりだけを頼りに少し身をかがめなければ歩けないような通路をゆっくりと進んでいく。
リルの反応から魔物がいないのは分かるんだけどこの体勢のまま進むのは正直腰が痛い。
「ん?」
さっきまで後ろから感じていた風が今度は前方から吹いてきた。
かと思ったら背中を伸ばせるほどの高さに通路が広がり目の前に三つの分かれ道が姿を現す。
風がふいているということはこの分かれ道のどれかに出口があるのか、はたまた外に通じる別の道なのか。
とはいえ左から順になんていうことをするのは体力的にも精神的にもしんどいわけで、ということでエコースキルを使って通路の先を確認すると真ん中の道だけ小部屋に繋がってることが分かった。
その先は確認できなかったが今までの感じだとこの先に階段がある可能性が高い。
とはいえそこには魔物の反応もあるので戦闘になるのは間違いなさそうだ。
反応は二つ。
リルがいるので二手に分かれれば何とかなるだろう。
「リル、いけるな?」
早くも戦闘態勢に入っているのか返事はなかったものの尻尾を振って返事をする。
そのまま真ん中の通路を慎重に進むとリルがぴたりと足を止め、奥に真っ白い毛並のオランウータンみたいな魔物が見えた。
アイシクルエイプとはまた違うタイプ、あいつがイエティか。
そのまま二手に分かれようと思ったものの思った以上に小部屋が小さく乱戦になる可能性が高い、となると一頭ずつおびき寄せて戦いたいところなのだが・・・
【アイシクルエイプのスキルを使用しました。ストックは後二つです。】
どうしたもんかと考えて出た結論がさっき収奪したスキルを使う事。
毒液とかと違ってスキルを使ったら勝手に出てくるタイプと違い願ったら手の上に雪の球が姿を現した。
てっきり放出系のスキルだと思っただけにかなりがっくり来るんだが出て来たものは仕方がない。
ノーコンピッチャーに投げさせるのがそもそも間違っているんだが、どんどんと溶けてくる雪玉を前に覚悟を決めて勢いよく投げると若干の放物線を描きながらもなんとか背中を向けていたイエティにあてることができた。
突然雪玉を当てられ驚いたように振り返ったやつがリルを見るなり奇声を上げながらその場で飛び上がる。
「来るぞ。」
「ウォン!」
二頭ともこっちに気づいたみたいだけど向かってきたのは当てた方、一度通路の奥まで引き返してから猛スピードで突っ込んでくるイエティを迎え撃つ・・・はずだったんだがよのなかそううまくはいかないようだ。
「嘘だろ!?」
勢いよく向かってきたイエティめがけてリルが鋭い爪で迎え撃つはずがそのまま壁を蹴って頭上を飛び越え俺の後ろに着地、そのままバネのようにしゃがんだかと思ったら勢いよく後ろ足から飛び掛かってきた。
予想外の攻撃だったが何とか棍で受けとめ、そのまま腕力で押し返しつつステップを踏むように連続で突きを繰り出すもトリッキーな動きで翻弄されてしまった。
距離を取りながらニヤリと笑うイエティにイラっとしてしまうけれどもそのまま攻撃したところで避けられてしまうだけなのでここはグッとこらえてリルとの連携に切り替える。
「グァゥ!」
まずはリルが飛び掛かり相手が避けたところで今度は俺が素早い連続突きを繰り出しつつ、再びリルが足元を狙って執拗に噛みつき攻撃を行う。
上下かつ距離感の違う攻撃に流石のイエティもバランスを崩し、片膝をついたところで鋭い牙が横腹に食い込んだ。
「ウキィィィィ!」
「うるさいっての!」
リルを振りほどこうと彼女の口を掴んだところを狙い無防備な頭めがけて勢いよく棍を振り下ろすと骨の砕ける音と共に頭部がベコンと凹んだ。
掴んだ腕をダラリと垂らしそのまま横に倒れていくイエティ、すかさず体に触れてスキルを発動するのとほぼ同時に体が地面に吸い込まれていった。
【イエティのスキルを収奪しました。剛腕、ストック上限は後四つです。現在時点で収納できるのは五種類のみです。】
間一髪でスキルを収奪、予想通りスキルレベルが上がっていたようで五つまでスキルを収納できるようだ。
収奪したスキルは剛腕、確かに猿系は力が強いと聞いたことはあるけれどさっきの身のこなしを考えたら俊敏とかそういう感じのスキルなのかと勝手に考えてしまったが違ったみたいだ。
スキルを使うと腕が太くなるのかそれとも殴る力が強くなるのか。
確認したいところだけどとりあえずもう一頭を倒してから考えよう。
あの身のこなしだと小部屋で戦うよりも通路におびき出した方が戦いやすそうなので、さっきと同じやり方でおびき寄せればなんとかなるはずだ。
「もう一回いけるよな?」
「わふ!」
口元を鮮血で染めながらリルがなんともいい返事をする。
よし、それじゃあ行きますか。
忘れずにイエティの毛皮を回収してから再びの小部屋へと向かう。
ここを超えればいよいよ八階層。
東宮さんを含んだ高ランク者を苦しめたさらなる劣悪な環境が待ち構えている。
果たしていかなる世界が待ち受けているのだろうか。




