56.無事ギルドに引き渡しました
なんとか悪霊の群れから逃げ切り無事に四階層に到着、階段の横には待ちに待った転送装置がドドンと鎮座している。
緊張の糸がぷつりと切れてしまい抱えていた少女を支えられずそのまま床に寝かせて一息ついた。
「はぁ、マジでしんどかった。」
「もう二度と三階層には行きません、行きませんからね!」
「そんなに怖かったのか。」
「リビングデッドとかはまだ大丈夫なんですけど、幽霊だけは本当にだめで。最初は我慢できてたんですけどあそこまで群れてるともうゾワゾワーーーってなっちゃって。」
それって幽霊が怖いのかそれとも集合体恐怖症的なやつなのかどっちなんだろう。
なんとなく後者な気もしないではないけどあえて突っ込まない方が良さそうだな。
「そうだあの子は!?」
「呼吸してるのは確認できたから一応生きてるっぽい。レイスに群がられて生きてるってのもすごいけどリビングデッドと違って食い殺されるわけじゃないからそれで助かったのかもね。意識があったら悪夢とか精神攻撃がやばいっていう話だけど気を失っていたおかげでそれも感じなかったんじゃないかな。」
「よかった。」
「桜さんがあの横道に気づいたから助かったんだよ。さすが直感スキル、今日もいい仕事してますねぇ。」
「えへへ。」
嬉しそうにはにかむ桜さんの笑顔にやっと空気が和んできた。
リルが興味深そうに少女へ近づきくんくんと匂いを嗅いでいる。
お、動いた。
突然腕が動いたのに驚いてリルがピョン!と飛び上がり、一度は距離をとったもののまた近づいて様子を見ている。
何がそんなに気になるんだろう、わからんなぁ。
なんてやり取りを見守りつつ、腕の疲れがある程度取れてから再び少女を抱き上げ直して転送装置で地上へ。
突然女の子を抱いてでてきたものだから周りの探索者にすごい目で見られているけれど、別にやましいことをしているわけじゃないので堂々と探索者ギルドへ戻った。
「ようこそ探索者ギルドへ・・・って何事ですか!?」
「レイスに襲われていたところを救助しました、意識はありませんがとりあえず生きています。」
「よかった!要救助者一名!要救助者一名!ストレッチャー持ってきて、救護室に搬送します!」
あ、これドラマで見たことある。
受付嬢のよく通る声の後、奥の通路から看護師と共にストレッチャーが運ばれてきたのでその上に彼女を寝かせて後は職員に丸投げする。
奇しくもこれで二度目の救助。
相互扶助が探索者の義務とはいえこうも頻繁に救助することになるとは思ってもみなかった。
運ばれていくのを眺めながら自分の怪我も治療、治療って言っても薄めたポーションを飲むだけだけど、それでやっと痛みと出血から解放された。
「この度は救助にご協力ありがとうございました。改めて受付させていただきます。」
「対応がスムーズでしたけど、結構あることなんですか?」
「そうですね、レイスは少し珍しいですがここではケガが日常茶飯事なので。」
受付手続きをしながら彼女がちらっと目線を上げた先では、なにやら探索者同士で口論をしているよう。
周りがうるさくてよく聞こえないがおそらく一階層での魔物の取り合いだろう。
そこまで強くなくてそれでいて一獲千金が狙えることもあり常に人であふれている為、どっちが倒しただなんだっていうトラブルが起きやすいのかもしれない。
ゲームで言う横殴りや横取りというやつだろうけどまさかそれが現実でも起きるなんてなぁ。
「ご苦労様です。」
「新明様のように礼儀正しい方が多いといいんですけど。それではこちらの査定品をお預かりしますが、他に何かございますか?」
「そうだ、これを拾ったんです。」
素材の買取をお願いしつつポケットに手を入れると例のライセンスが指に引っかかった。
端についた血痕を見て一瞬だけ眉間にしわが寄る。
おそらく気持ち悪いとかそういうのではなくこれが残された理由を思ってのことだろう。
ダンジョンという性質上人の生き死には日常茶飯事、プロなので表には出さなかったようだけどそれでも思うところはあるはずだ。
「こちらも救助いただきありがとうございました。」
「いえ、こっちはどうにもならなくて。」
「これが戻ってきただけでも十分です。最近はそれすら持ち帰らない人も増えたので、本当にありがとうございました。救助費用に関しましては先程の分と合わせまして計算させていただきますので少しお時間を頂戴します。」
「わかりました。」
素材買取りだけならそんなにないのかもしれないけど、量が量なので時間がかかるのかもしれない。
ぶっちゃけ値段は期待していないが今日の夕食代ぐらいにはなるだろう。
「あ!これの査定もお願いできますか?」
「これは、綺麗な指輪ですね。」
「二階層で見つけたんです。」
「ご報告ありがとうございます、規約上ダンジョン内で見つかった装飾品は能力を含め全て記録させていただきます。もちろん誰が手に入れたかなどは全て秘密にいたしますが構いませんか?」
「大丈夫です。」
「ではこちらもご一緒にお預かりいたします。正しい行いをした方がこうやっていい物を持ち帰ってもらえるとこちらもうれしくなりますね。」
最後のは彼女の本心だろうか、あえて聞こえないことにして頭を下げそれぞれ更衣室に移動する。
篠山ダンジョンと違って人も多く、大きなお風呂もないのでさっさとシャワーを浴びて外の売店で休憩しているとまだ髪の毛が濡れたままの桜さんがやってきた。
「混んでた?」
「もうすっごい混みようで、中でケンカしている人がいて居心地が悪いので出てきちゃいました。」
「それはこっちも一緒だよ。殺伐としているというか、そんなに遠くない距離なのに武庫ダンジョンの平和な感じが懐かしくなるなぁ。」
「そうですね、あそこは皆さんお行儀もよくて・・・ってEランクダンジョンなので当然かもしれませんけど。」
「あれはきっと主任がいるからだと思うよ。」
例の呼び出しの時にも感じたけど、あの人は普通のギルド職員とは違うもっと上の存在なんだと思う。
それをあえて隠してはいるみたいだけどあの人の管理下にいたらそりゃ平和にもなるさ。
「新明様、査定が上がりましたのでカウンターまでお願いします。」
「あ、終わったみたいですよ。」
「行こうか。」
手に持っていた牛乳瓶を一気飲みしてカウンターへ。
シャワー上がりでも美味しい物は美味しいものだ。
「新明です。」
「お待たせしました。それでは順にお伝えしてよろしいですか?」
「お願いします。」
「では査定品の方ですが、スケルトンの骨とリビングデッドの布など合わせまして4万3千円、ゴールドカードの割り増し分を含めまして5万1600円になります。それに合わせまして救助報酬が5万円と8万円となっております。この度は本当にありがとうございました。」
買取品はまぁそんなもんだろう、救助報酬はどっちが高いのかはわからないけれどとりあえずギルドにお返しできて何よりだ。
「目は覚めましたか?」
「まだ意識は戻りませんが医師の所見ではしばらくすれば戻りそうです。外傷もありませんし、意識がなくなったことでレイスの精神攻撃を受けなかったんでしょう。そうじゃないと今頃廃人になるはずですし。」
「もう二度と戦いませんからね!」
「あはは。」
「最後にアクセサリーですが、こちらが鑑定結果になります。人の目もありますので家でご確認ください。ここだけの話、当たりですよ。」
査定額とかはまぁライセンスに入れてしまうので公表されても問題ないが、装飾品に関しては奪われる可能性もあるのでここでは秘密にしているようだ。
桜さんが結果を受け取り大事そうにカバンへしまう。
周りの目は・・・大丈夫そうだな。
「どうもありがとうございました。」
「お疲れ様でした、また来てくださいね。」
「四階層って何が出るんでしたっけ。」
「バンシーですね。」
「もうやだぁ!」
バンシーといえば少女の見た目をした幽霊の魔物、レイスは形を持たない幽霊だけどそっち系なのに変わりはないので桜さん的にはアウトらしい。
次にここに来るかはわからないけど、あとは篠山ダンジョンの調査がいつ終わるかにかかっている。
早く走破してレベルを上げたいところなんだけどほんとどうなることやら。




