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よくある婚約破棄なので  作者: おのまとぺ
後編 二人の追走劇
26/26

25 誓いの指輪2◆



 フィルガルドから部屋に呼ばれたのは夕食が終わって一時間ほど経った頃のこと。ララは開け放たれた窓から入り込む秋の風を感じながら、読書をしていた。


「………今からですか?」


「はい。お話があるとのことです」


 メイドは恭しく頭を下げてそう言うと、ララの反応を窺うようにチラッと顔を上げる。「いかがなさいますか」という問い掛けに頷いて、ララはソファから降りた。


 自由な一ヶ月の逃亡を経て再び戻ってきた王宮で、少しずつララは自分の居場所を作っていった。国王陛下や王妃との交流、使用人たちとの会話を心掛け、関わるに値する上位貴族や知識人たちには積極的に手紙を送って好意を示した。


 ララがフィルガルドに提案した条件は二つ。

 復縁したいのであれば、一ヶ月以内に挙式をして正式な夫婦となること。そして、次に愛想を尽かしたときにはスムーズに離婚の申し出が通るように、女性に不利な現行の法を正すこと。これら二つは、王子の周りをブンブンと飛び回る女王蜂たちへの牽制と、彼自身への自戒も兼ねていた。



 腐った貴族社会のリセット。

 まだ目標は達成出来ていないけれど、徐々に効果は出ていると思う。フィルガルドが目を瞑っていたウェリントン公爵家やべゴット伯爵家については距離を取って監視対象とした。というのも、堕落した名家はいずれボロが出ることを知っていたから。



「お母様から連絡はあった?」


「本日はありません。ご友人と二人で隣国へ旅行に行かれると仰っていたと記憶しています」


「ああ、そうだったわね。楽しんでると思うわ」


 足枷の外れた母は、久方ぶりの自分のための時間を満喫しているようだ。マドレーヌが良い話し相手になってくれていると聞いている。


 一瞬だけ浮かんだ父の顔を頭から追い出して、ララはフィルガルドの部屋をノックした。すぐに足音が聞こえて扉が開かれる。気を利かせたメイドが再度お辞儀をして部屋を去るのを見届けて、ララは夫に向き直った。



「先ほど一緒に食事をしたばかりですが、もう寂しくなったのですか?」


 ふざけて言った冗談に対して、珍しく真剣な顔で「そうだな」と返されたので面食らう。こういう言葉は軽く笑って躱わすのがいつもの彼なのに。


 調子が狂いそうな心臓に手を当てて黙るララの前で、フィルガルドは片膝を床についた。脱力したままの左手が持ち上げられる。


「君の要望でまだ指輪を準備していなかったんだが……」


「あ……ええ、そうですね。目に見えるものよりも約束や思い出といった見えないものを大事にしてほしかったので」


 しどろもどろに答えるララの薬指に何かひんやりとしたものが触れた。スルスルと指を通るそれを見て、思わず息を呑む。


 左手の薬指には指輪が嵌っていた。

 あの日、ララが売り飛ばした指輪が。


 しかし、よくよく目を凝らしてみると何かが違う。半年一緒に日々を過ごした指輪なので、ララとてそのデザインは覚えている。三つ並んでいたダイヤはどうしてか、澄んだ緑と黄色の石に一粒のダイヤが挟まれる形に変わっていた。


「訳あって少し修理に出したんだ。サイズは変わっていなくて良かった」


「どうして……これを?」


「或る親切な人に譲ってもらった。この指輪は君によく似合うから」


 ララは左手を持ち上げて、輝く石を見つめる。

 立ち上がったフィルガルドの視線を感じた。


「ララ、君に三つの誓いを立てる」


「誓い?」


「君を幸せにすること。誠実であること。永遠に愛すること」


 言いながらトントンッと並んだ石たちに触れるものだから、くすぐったいのと恥ずかしいのでララは顔が熱くなった。言葉にしないと伝わらないと言ったのはララだが、ここ最近のフィルガルドは少しお喋りが過ぎる気もする。


 満足そうに微笑むフィルガルドの腕を掴んでララはそのエメラルドの瞳を覗き込んだ。


「あら、じゃあ私も貴方の薬指を守る自分の名に誓いましょう。生涯良き伴侶であることを」


「………! 知ってたのか、」


「知ったのはつい最近です。貴方がそんなロマンチストだったなんて、嬉しい発見だわ」


 困ったように笑うフィルガルドに背を向けて、くるりと振り返って窓辺へと歩み寄る。吹き込んだ風からは秋の花の香りがした。







End.



ご愛読ありがとうございました。

誰かに楽しんでいただけたら幸いです。


補足するとフィルガルドが付け替えた石はエメラルドとトパーズで、真ん中のダイヤと合わせてそれぞれ「幸福」「永遠の愛」「誠実」の意味になります。こういうの説明すると格好悪いかなと思いつつ言いたがりなので……


もともと本作は、アルファポリスのファンタジー小説大賞に応募していたお話がびっくりするほど読まれないので「なんとかなれーーッ!!」という気持ちで書いたものです。結果なんともなってないのですが、もしお時間が有り余っている人がいたら読んでみてください。(完結後にこちらにも転載予定)


婚約破棄も悪役令嬢もざまぁもありませんが(悪者は制裁されます)、熱血脳筋先生とかゴリ強の老人とかチート気味な王子とか魔力のない魔法学校の先生ヒロインが居たりします。


ではでは、皆様すてきな秋を!

評価や感想などいただければ喜びます!


ではでは。

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― 新着の感想 ―
凛とした素敵なヒロインさんでした! メソメソウジウジしてなくて、潔くてカッコよかったです。 マドレーヌさんが、私の中ではずっとラピュタのドーラ姐さんで再生されてました。気風が良くて好きです♪
投稿&完結ありがとうございます。 気が付けば読了していました。 美味しいとは思えなかったのに喉を通り過ぎた後の残り香と酔い心地が快くてついつい杯を重ねてしまった、もう銘柄も覚えていないウヰスキーが齎…
[一言] ララを見つめていた男の目的もちゃんと種明かししたところで終わったのお見事でした! それにしても王子様ボンクラ過ぎる…まぁボンボンって得てしてそういうものなんですけどねぇ…。 自分では気づけな…
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