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4-07 仕事をしてくれ冒険者!

冒険者ギルドの仕事は大変だ。

依頼を受けた冒険者が職場に向かう確率も低く、仕事中にトラブルが起きる確率も高い。

ギルド役員であるカミノは、今日も飛んだ冒険者の代わりに依頼に出向く。

「新しい役員が増えないとそろそろヤバい」

そんな日常を過ごしていたある日、新しい候補者が見つかって……


人間に振り回される、社畜系冒険者ギルドの物語!

「何で役員が冒険者の代わりに現地行ってるんだろうなぁ……」

「冒険者を雇うコストが消えて利益が上がりますね」

「それはただの万屋じゃねぇか!」

 酒場の席で、一人の男が項垂れていた。

 それが気になった俺は、気まぐれに話しかける。


「どうしたんだお前さん。そんなしかめっ面で酒なんか飲んでよ」


 男はむくりと薄赤い顔をあげた。


「俺は鍛冶屋の息子として育ったっす。親父から鍛冶の仕事を教えてもらってやっと一人前になったってところで、親父から鍛冶屋を継ぐのは兄貴だ。お前はここで手伝いをするか、別の仕事をして暮らせって言われて……」

「へぇ、それは大変だな。結局どうするんだ?」


 酒を片手に相槌を打つと、彼は大きくため息をついた。


「正直悩んでるっす。親父の言う通り、別の仕事でも見つけようかなって思ったっすけど。鍛冶しかやったことがない俺が、今更別の仕事が出来るかどうか不安で………」


 つまり仕事を探してるって事か。丁度、俺も人手が欲しかった所だ、これも何かの縁。声をかけてみるのもいいか。


「俺に雇われてみるか? まずはお試しって感じで」


 試しに勧誘してみると、彼は驚いたように返答する。


「マジっすか!? 挑戦してみたいっす! でもどんな仕事っすか?」

「いい返事だな。仕事内容は、冒険者ギルドの役員だ」

「冒険者ギルド?」


 俺は鍛冶屋の次男に、詳しい内容を話すことにした――


 ◆◇◆◇◆◇


 第一話『冒険者は空を飛ぶのが好きだ』


 ◆◇◆◇◆◇


 春、木々が芽吹く季節。

 古ぼけた酒場のカウンターを借りて、俺達は仕事をしていた。 


「カミノさん。顧客(クライアント)から連絡が来ました。派遣した冒険者が飛んだみたいです」

「どこの業務?」

「街の下水道掃除ですね」

「またかぁ……」


 本日仕事をする予定だった冒険者が連絡もせず職場に現れない。これを『飛ぶ』と呼称する。


「臭い、しんどい、単価が安いの三重苦ですからね。長期の仕事として向いてませんよこれ」

「いやどんな人でも就業可能! 未経験でも問題なしという最大の長所があるから!」

「飛んだのは事実ですので、受け入れましょう?」

「はい」


 結論から言おう。

 冒険者ギルドの仕事は大変だ。

 今のギルド長から誘いを受けてから二年。

 冒険者ギルドの役員をやってくれと頼まれ、今に至る。冒険者ギルドという名前すら馴染みがなかったが、要は総合人材サービスを取り扱う仕事だと教えられた。もっと意味がわからん。

 仕事内容はシンプルだ。人手を必要としている組織から仕事を貰い、金を稼ぎたいが仕事がない人達に提供する。細かく説明するともっと複雑だが、基本はこれで充分だ。


「それで、穴が出たわけですがどうするんですか? この補填」

「次の冒険者を探すしかないな!」

「もう勤務時間入りますけど、見つかる当ては?」

「ないな」

「他に対策は?」

「ないな……」


 俺の隣で淡々と正論を吐きながら事務仕事をしているのが、同僚のメイだ。

 元々は孤児だったが、ギルド長に娘として拾われ、今は仕事を手伝っている。

 俺と年齢が近いが、かなり小柄な体つきをしており、子供だと言ってもバレないだろう。


「では、カミノさんの出番ですね。いつも通り飛んだ冒険者の補填稼働をお願いします」

「よし、俺もサボっていい?」

ギルド長(お母さん)にチクりますよ」

「そこだけ聞くとただの子供なのになぁ……」


 小さい女の子がお母さんに告げ口をする。何とも微笑ましい光景だ。


「へぇ、今日カミノさんがやる予定だった業務を肩代わりする人にその態度ですか」

「すいませんでしたメイさん。杖構えるのやめてください。マジ頼りにしてます」

「わかればよろしい」


 冒険者が飛び、補填が見つからない場合は俺が代わりに向かっている。

 で、今日やる予定だった俺の仕事の一部をメイが引き受けてくれる。

 毎回こうなのでいつも頭が上がらない。

 尚、子供扱いするのは彼女の地雷だ。からかいすぎると魔法が飛んでくる。むっちゃ痛い。


「また下水道かぁ……行きたくねぇなぁ……」

「どんな人でも就業可能、未経験可なのでカミノさんでも安心ですね」

「生憎、俺はもうベテランと言っていいくらい勤務してるんだわ」


 下水道では普段、汚物消毒用のスライムが放たれており、浄化作業を行っている。しかし、スライムの知能が低く大体の範囲でしか活動してくれない。対策として、人の手で下水道をせき止める危険性がある汚物を回収し、スライムに押し付けるという単純な仕事である。

 楽ではあるが、メイが言っていたように臭いし、しんどいし、給料は少ない。そこから発生する俺たちの利益なんて全くない。ただ、街役場との繋がりを保つ案件としては充分すぎるため、活動をしている。

 役場の人から書類仕事のコツも教えてもらえるし、仕事になりそうな公共事業の話も振ってくれる。地道ではあるが、繋がるものが多い仕事であると言っていいだろう。

 まぁ、冒険者にはそんなメリットないんだよな、取り合えず仕事が出来て、安い賃金がもらえるだけ。そりゃ飛ぶか、飛ぶな。


「それにしても、最近飛ぶことが多いですね。一度真面目に対策を考えたほうが良いかもしれません」

「原因を潰すか、ペナルティを用意するかじゃないか? 仕事サボったら罰金みたいな」

「体調不良で欠勤の場合の対応が難しいですね。その状態でお金取り立てたら完全にアウトです」

「それは取り立てないようにして……ああ、それだと結局仮病が横行するだけで何も変わらんな」

「そうなんですよね……ある程度の拘束力があればいいんですが」

「難しいなほんと」


 二人して頭を抱える。この仕事を始めてだいぶ慣れてきたが、まだまだ課題が多い。

 人を管理するというのは、相当難易度が高く、トラブルが無茶苦茶発生する。飛んでいなくなるのはまだマシなほうで、冒険者と依頼主の間で殴り合いの喧嘩になる。最初は俺たちを仲介していたのに、手数料を出したくないから、いつの間にか引き抜かれてる。といった問題が横行しているのが事実であった。


「ほんとなぁ、ギルド長は何を考えているんだか。こんな調子でどうすればいいんだ」

「カミノさん。お母さんもそうですが、考えるのは私たちの仕事ですよ。本来、私達のような存在って要らないんですから。需要を考えていかないと」

「それはそうなんだけどさぁ、愚痴の一つや二つも出るって」

「気持ちはわからなくもないですが……」


 ギルド長は、資金稼ぎのために世界各地を飛び回っている。色々なことをやっているみたいだが、詳しい内容は俺にもわからん。

 どこか浮世離れしたような雰囲気があり、いまいち掴みきれてないんだよな、あの人の事。

 偶にふらっとやってきては、俺達の調子を確認して直ぐに飛び立ってしまう。


「なんだかんだ一番の稼ぎ頭はギルド長だもんなぁ……俺たちも頑張るか」

「ですね。ひとまず、カミノさんが今日やる予定だった業務を教えてください。私が引き継ぎますので」

「了解。今、俺達みたいな役員を一人雇おうと思っててな。そいつが問題ないか面接をする予定だったんだよ。どのみちメイにも確認してもらう予定だったし、俺の代わりにやって欲しいんだ」

「少し前に話していた人ですね、鍛冶屋の次男でしたっけ」

「そうそう。一応試用期間を設けるつもりだけど、その期間で問題起こされても嫌だしな」

「開幕、私を子ども扱いするような無礼な人でなければ大丈夫ですよ」

「……ハードル高いな」

「は?」

「ごめんなさい」


 何にせよ、今の俺たちに足りないのは人手だ。金もないのは事実だが、なにより人が足りない。

 今日みたいに俺が飛んだ冒険者の補填に走った場合、本来やる予定だった業務が出来ず、メイの負担が増える。これが何度も発生するのは流石に避けたい。


「とりあえず、昼時に来るように話してあるから、簡単に業務内容話して、一緒に仕事してもよさそうか判断してほしい」

「かしこまりました。その間にカミノさんは下水道掃除ですね。分かればで大丈夫ですが、飛ぶ原因も探ってもらえるとありがたいです」

「だな。他に勤務してる人もいるし、詳しく話聞いてみるわ」


 仕事が理由なのか、プライベートの問題なのか未だに特定できていない以上、下手に判断して行動することは出来ない。地道に情報を集めていくしかないのだ。

 そもそも急に連絡なく消えるのやめて欲しいんだけどな!! 連絡あったらまだ動けるんだよ!


「それじゃ、行ってくるかぁ……」

「はい、いってらっしゃいませ」


 小さな少女に見送られて、俺は酒場から外に出た。

 面接程度であればメイなら問題なく対応できるだろう。

 俺も頑張らないとな。


 ◇◆◇


「こんにちはー」

「こんにちは、冒険者ギルド『ナユタ』にようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

「どうもっす! カミノさんの娘さんっすか? 小さいのに偉いっすね! 今日はカミノさんに呼ばれて来ましたっす! 居るっすか?」

「……は? 娘? よりによってカミノさんの?」

「ん? どうしたっすか? 何か怖いっすけど……」

「あなたは不採用です」

「え?」

「不採用です……!」

「いや、ちょっと待つっす!! なんか火の玉出てる!! 魔法出てる!! 待つっすよ! よくわかんないけど悪かったっすから、まっ」


 ――ぎゃあああああああああああっ!!!


 ◇◆◇


 地下水道で掃除をしている中、メイからメッセージが送られてきたため内容を確認する。

 面接の件だろうか? どうだったか連絡をくれるのはありがたいな。


『むかつく人だったので、とりあえず消し炭にしました』


「いやなんでだよ!!!!」


 人ってやっぱり難しいわ。

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