4-05 固有スキル『無人兵器マスター』を手に異世界で勝ち組人生を!
本人の努力だけではどうにもならない理由で幸福とは言えない人生を送り、20代で殺された藤堂アキラ。
しかし、彼は現代地球の無人兵器を自在に操るチートスキルを得て魔法が存在するファンタジー風異世界に転生した。
そこで彼は、手にした力を最大限活用して生きる事を決める。すべては自身の考える勝ち組人生を送るために!
人生をやり直したい。勝ち組人生を送りたい。そう願った事はないだろうか?
高校までは生まれつきの人相の悪さと冤罪による悪評のせいで皆に疎まれ、有名大学に現役合格して留年せずに卒業するものの就職氷河期で就職浪人。
企業の新卒一括採用が常識の日本ではそれだけで不利になり、3つ下の弟がそこそこの大学卒でも新卒で正社員になったせいで実家での居心地も悪くなる一方。
そして、「無職なら家の手伝いぐらいしろ」と親に言われて買い物に来たショッピングモールで頭のイカれた通り魔に刺されて死亡。だから、死の間際に強く願ったんだ!
【もし人生をやり直せるなら、次は絶対に勝ち組人生を!】
その後、謎空間で転生担当とかいう存在に色々と説明を受け、現代日本での知識や記憶を持ったまま新たな世界の大地に立っている。いわゆる異世界転生というやつで容姿は20代のままだが、転生特典として専用のチートスキルがあった。
「はは、まさか本当に願いが叶うとはな……」
半笑いになりつつ改めて自分の状態を確認し、周囲の様子も探る。どうやら、ここは森の中にある開けた場所らしい。そんなに詳しくはないが、植生などを見る限り地球とは明らかに違ってた。いまのところは転生担当の説明通りだ。
「そうと決まれば、さっそく行動開始だ」
いくつか必要な事柄を確認してから身体を軽くほぐすと、転生時に手に入れた俺専用の固有スキル【無人兵器マスター】を発動させる。
すると、MR(複合現実)の要領で目の前にタッチパネル式の空間投影ディスプレイが即座に出現して様々な情報を表示してきた。しかも、固有スキルだからなのか直感的に操作方法が分かった。
「これだけ!?」
まずは、いま使える無人兵器の一覧を表示するが、2種類しかない事に愕然とする。一応、条件さえ満たせばアンロックされて増えるようだが、肝心な解放条件が不明で具体的に何をすればいいのか分からなかった。ああ、攻略サイトが欲しい。
「ものは試しだ」
ここで考えてても仕方がないので1つを選択してみた。タッチパネルを操作して出撃を決定すると、直径30cmほどの民生用ドローンみたいなのが1機だけ飛行状態で出現した。同時に空間投影ディスプレイが自動で操縦モードに切り替わったので、そのまま操縦してみる。
「上手く操縦できるか不安だったが、意外といけるな。これも固有スキルだからか?」
もちろん、ドローンの操縦なんて初めてだったが、やり込んだゲームをするみたいにスムーズに飛ばせた。それでも念のために5分くらい見える距離での練習を続け、少しでも慣れてからカメラ映像を利用した遠距離飛行にも挑戦してみる。
結論、何の問題もなし。やはり、操縦にもスキルの恩恵があった。しかも、この練習飛行のおかげでスキルの機能がいくつかアンロックされた。
「じゃあ、いくか!」
使いこなせると確信できた途端、テンションの上がってきた俺はドローンを森の中へ突入させる。そして、木々の間を縫うように高速で飛ばして情報を集めていく。
「ん……?」
しばらくは植物ばかりだったが、ついにドローンのカメラが別の少し開けた場所で植物以外の物を捉えた。なので、速度を落として少し慎重に接近させる。
「馬車だ」
実物を見た記憶はないが、その形状から馬車と言っていいだろう。ただ、ここへ辿り着くまでに何度もぶつかったのか走行不能になるほどの損傷があり、人や馬の姿も確認できなかった。だが、何日も放置されていた形跡もない。
だから、直接行って確かめる事にした。タッチパネル操作で馬車の位置をマークし、ドローンを誘導モードにする。これでドローンは自動で俺の所まで戻り、その誘導に従って歩くだけでマークした場所までカメラで偵察しながら行ける。チートスキルさまさまだ。
【30分後】
ようやく目的の場所に辿り着いた。
「つ、疲れた……」
馬車を前に大きく息を吐いて座り込む。体力は元の世界のままだし、身体能力が向上したわけでもないし、森の中を歩いた経験もないから想像以上にきつかった。
もっとも、苦労したかいもある。地面に付いた跡が真新しいので、2~3日前まで普通に走っていたとみて間違いない。さらに、この地面の痕跡を逆に辿れば道に出られるはずだ。
また、馬車は荷物運搬用で御者は途中で振り落とされたか、何かの原因で人の手を離れて馬が暴走したんだろう。そして、ここで馬と繋いでいた部分が壊れて取り残された。
「異世界なんだし、使えそうな物があればいただいていくか……」
そう呟いて馬車の積荷をあさろうとした時、周辺警戒モードにしていた偵察用ドローンが何かの接近を警告してきた。なので、映像を出して正体を確かめる。
「これって、ゴブリンだよな……?」
カメラが捉えたものの正体を理解するのに数秒を要した。緑色をした人相の悪い人型の魔物、俺の認識が間違っていなければファンタジー世界でお馴染みのゴブリンだ。しかも、数が多い。
一瞬、このゴブリン共が友好的な可能性を考えたが、だいぶ傷んでいるものの剣・槍・棍棒といった武器を構えて接近している事や、人の頭蓋骨らしきものを装飾品にしている個体がいる事などから敵だと判断。
機能解放でドローンの同時運用が可能になったスキルを発動して追加の無人兵器、一覧では攻撃用に分類されていた『M240D』GPMG(汎用機関銃)を装着したRWS(遠隔操作銃塔)を敵の迎撃に適した位置に出現させる。
すると、空間投影ディスプレイが射撃管制モード(脅威判定も同時に行われるらしく、ゴブリンに敵を示す赤いマーカーが表示されている)に自動で切り替わったので、照準カーソルの近くにいた敵に狙いを定めて撃った。
最初こそ映画やゲームとは違う実際の銃撃音に驚かされたが、すぐに敵の生死の方が気になって画面へ意識を向けると、赤いマーカーが消失していた。多分、死んだんだろう。
なので、次の敵に照準を合わせる。聞き慣れない銃撃音と仲間の死で混乱してるのか、動きが止まっていて簡単だった。そして、同じように短い連射を浴びせて射殺した。
さすがに2体連続で殺されるとゴブリンも怒り狂うらしく、残った連中が武器を構えて一斉に突撃してくる。だが、それは無謀な行為だった。
俺は機関銃の射程と連射性能、スキルによる命中補正をフル活用して淡々と敵を処理していく。結果、ざっと見ても20体以上のゴブリンの死体が散らばる地獄絵図ができあがった。
「とりあえず、敵は片付けたけど……」
敵性反応がなくなった事を確認し、今後についてどうするか考えていると、“それ”がゆっくりとした足取りで姿を現した。
「マジかよ……」
ドローンのカメラ映像を見た途端、感嘆の声が漏れる。なぜなら、驚くほどの美少女が両手を上げて近づいてきていたからだ。実は、中立を示す黄色いマーカーがゴブリンの集団とは別にあったので存在には気付いていたが、これは完全に予想外だった。
一応、彼女は中立らしいので俺も両手を見えるようにして出向き、設置したRWSを挟む形で直に顔を合わせる。
肌は色白で光り輝く金髪のポニーテールにエメラルドグリーンの瞳が印象的な愛らしい顔立ち、背は俺より少し低いぐらいなので170cm手前だろうか。帯剣もしていたが、最大の特徴は彼女がエルフという事だ。
そして、マントみたいなのを羽織っていて遠くからでは気付かなかったが、モデルのようなスラリと伸びた手足に巨乳の持ち主でもある。
「――、――?」
あるスキル獲得のため、言語理解スキルを代償にしたせいで彼女の言ってる事が分からない。それをどう説明するか悩んでると、彼女が小声で何かを呟いた。
「どう? 私の言葉が分かる?」
その後に彼女が発した言葉は俺にも理解できた。衝撃的な出来事に驚きつつも返事をする。
「ああ、理解できる」
「良かった。見慣れない恰好だけど、あなた何者なの? それに、この武器は一体……」
彼女がこちらを探りつつ傍らのRWSに視線を向けた。
「えーと、俺はアキラ、旅の者だ。で、これは俺専用の特殊な武器かな?」
「そうなんだ……」
この反応から察するに信じてないようだ。まあ、仕方ないか。自分でも胡散臭いと思う。だから、こっちから質問をぶつけてみた。
「君は? もう1人と合わせて紹介してくれないか?」
彼女が驚いた顔で俺を見る。彼女に対する揺さぶりとして黄色のマーカーが2つあり、もう1つが姿を現さずに隠れている事をそれとなく指摘したのだ。
なんともいえない微妙な沈黙が訪れるが、俺が隠れている方に視線を向けたのを見て諦めたのか、後ろを振り返ってもう1人を呼び寄せる。
「私はリーゼ。で、こっちが妹の……」
「リーンだよ! よろしくね!」
まさかの双子美少女エルフだった。しかも、姉妹揃って巨乳である。最初に出会ったのが姉のリーゼで、初対面からテンション高めなのが妹のリーンらしい。
「私たちは仕事で来たの。あそこにある馬車の積荷の回収よ」
「でも、ゴブリンが集まっててどうしようかな~って話してたら、君があっという間に片付けちゃったんだよね」
「そうだったのか。俺は積荷に用はないから2人の好きにするといい」
すると、なぜか彼女たちは意外そうな顔をした。確かに、最初は使える物があったら頂くつもりだったが、2人と対立してまで欲しいわけじゃない。だから譲ったんだけど……。
「アキラさん、私たちと取引しませんか?」
いきなり後ろを向いて2人だけで相談したかと思うと、不敵な笑みを浮かべたリーゼが予想外の提案をしてきた。





