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4-24 多分モテ期だけど何か違くね?

〜ある夜、ゴミ捨て場〜


めろぽよ「わ、人寝てんじゃん! 顔めっちゃ好みなんですけど! カバン置いちゃってるし……学生証見ても良いよね?」



〜ある夜、大学のグラウンド〜


沙耶乃「ぜ、全裸で男の人が寝ています……。……はっ!? 殿方の大事なところを見てしまった……!? け、結婚するしかないということでしょうか!?」


〜ある昼、アパートの廊下〜


侑「え、何でまっ昼間に廊下で寝てんの? ……酒臭っ!? ってこれ寛太朗じゃん!!!」

 四月四日、友人宅にて。俺は大学で知り合った二人の男友達と酒を飲みながら神妙な面持ちで麻雀卓を囲んでいた。


 口火を切ったのは万年童貞の男、もっさん。顔が芋臭いからもっさんと呼ばれている。


「……さて、ついに明日から新学期が始まる。三年生になる俺達はついにゼミが始まるわけだが」


 タン、と力強く七索(チーソー)を打つ。俺はチーを宣言する。


「サークルにも入らなければ部活にも所属していない。当然、女の子との繋がりは」

「「ない」」

「そうだ」


 うむ、と頷きながら今度は一索(イーソー)を打つ。俺は再度チーを宣言する。


「俺達はカスだ。童貞だ。だから成績も悪い。よってゼミはみんな希望のところには行けずバラバラ」

「待てよもっさん。童貞は関係ないんじゃないか?」

「関係あるに決まってるだろ!? だったら何でのらりくらりと単位を取れてるヤツらは軒並み非童貞なんだ!? は!?!?!?」


 とんでもない勢いでツッコまれたのは俺達と同じく万年童貞のピーヤ。コイツはもっさんとは違い見た目こそ悪くない爽やか系だが、如何せん趣味がパチスロ競馬麻雀酒煙草と救いが無さすぎる。というか女の子相手でも話題がそれしかない。


「まあ待てよ、もっさんとピーヤ。俺にはわかる」

「……本当だろうな? キングオブバカ」

「バカじゃねえわ!」


 そう呼ばれたのは俺、相羽寛太朗(あいばかんたろう)だ。小学生の頃から名前のバカ部分を切り取られてずっとバカと呼ばれている。そうに違いない。別に俺が本当にバカだからなわけではないんだ。


「要はアレだろ? 教授に媚び売って単位を貰う的な」

「バカ、よく考えてもみろ? 俺達は童貞だから単位を取れない。つまり?」

「……童貞じゃなくなれば単位も取れる……!? そんなの最高に最高が重なってるじゃねえか!?」

「だろ!? だから俺達はまずゼミで女の子に気に入られる必要があるわけだ!!! 具体的には面白い自己紹介とかさァ!!!」


 バン! と雀卓を揺らす程強い打牌。もっさんから白が溢れた。


「「それロン」」

「また!? 麻雀カスのピーヤはともかくバカは何だその豪運!!!」

「うるせえ箱割れ(点数0点未満)!」

「ぐう……!」


 ぐうの音しか出ないとはこのことだ。ことわざ合ってるよな?


「……とにかく!!! 頭脳の俺、見た目のピーヤ、そして運のバカ! 俺達が揃えば最強だと思わねえか!?」

「俺が運だけってのは気に食わんが確かにそうだ!!!」

「卒業しようぜ、童貞!!!」

「「ウェーイ!!!!!」」


 バカデカい声で乾杯する。成績も確かに大事だが大学は童貞を卒業する場所! やってやるぜオラァ!!!


「……ちなみにバカピーヤ。抜けがけは絶対に許さねえからな? 俺達は三人一緒にクリスマスイブに卒業するんだ」

「「お前こそ先に卒業したら殺すぞ」」

「ふっ。任せろ!」







 翌日、俺は三限のゼミの前にトイレにこもっていた。


「俺ならいける……俺ならいける……!」


 昨日はあれから全員分の自己紹介を練りに練ったのだ。掴みはキャッチー、そしてひと笑い取ってからギャップ! これで俺はモテモテ間違いなし……!


「……よし、行くか!」


 トイレから出てゼミの教室に入る。中には既にほぼ全員のゼミ生が着席していた。


「……ういっすー……」


 い、今のは大丈夫だよな!? 気さくな人って思ってもらえたよな!? とととりあえず適当に座るか! 初手は適当に男子の隣に──


「こっち空いてるよー」

「っはい!!!」

「あは、どしたの? 緊張してる? 可愛いんだけどー!」


 ぎゃ、ギャルだ!!! ギャルだ!!! 怖い!!!!!


 ……ま、まあ返事しちゃった手前? 行くしか? ないってかさ? 別にめっかわギャルガールに誘われてウキウキなわけじゃないけど? パッチリお目目とかグッドルッキングフェイスとかスーパーナイスバディとかに惹かれたわけじゃないけどな?


「し、失礼しゃす」

「んふ、運動部みたい。高校とか何かやってた?」

「や、野球とサッカーとバスケとテニスと水泳と空手と柔道を少々……」

「マ!? 何それ兼部的な!?」

「その、運動神経は人より良いっぽくて……お手伝いさんみたいな……?」


 そのせいで高校の頃の部活を聞かれると説明が面倒臭いんだよな……まあおギャルさんの前じゃそもそもまともに話すことすらしんどいんだけど……。


 ……引かれた? 何で黙ってんの?


 だがしかし、そんな心配は無駄だったようで。


「っば! 超天才じゃん!」

「……え? 俺が天才?」

「そ! だってみんなから求められるって天才じゃん? もっと自信持ちなよ!」

「……そっか。そっか!!!!!」

「ぶっは、声デカいし!」

「俺って天才だったんだな! ありがとうおギャルさん!」

「変なあだ名つけんなしー! ウチのことはめろぽよって呼べー!」

「ありがとうめろぽよ!」


 何か行ける気がしてきた! 本当にありがとうめろぽよ! 俺頑張るよ!


 それから少しの間雑談していると、チャイムと同時に教授が入ってきた。髪を短く整えたいかにもおじいちゃんって感じの人だ。


「はい、みんなが静かになるまで一秒とかかりませんでしたね」


 なら言わなくて良いのでは……?


「このゼミを担当する白河(しらかわ)です。よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる教授につられて俺を含むみんなは頭を下げる。優しそうな人で一安心だ。


「さて、まずは自己紹介から行こうかな。うちのゼミはデータの解釈を話し合う必要があるから生徒間のコミュニケーションは大事なんだよ」


 来た! 自己紹介! みんなのハートを掴む時間!


「でもさ、普通にやっても面白くないよね?」

「は?」


 っべ、つい声に出た。何言ってんだこの人。


「てことでね、みんな隣の席の子の自己紹介をしようか。まずは二分間二人でそれぞれ自分のことを話して、それからみんなに向けてその人の自己紹介をする。うん、面白いね」


 何にも面白くないけど!?!?!? 昨日頑張って考えた俺の自己紹介は!? 俺の一発ギャグは!?


「じゃあはい、始め」


 パンと手を叩く白河。コイツ……! 逆恨みと言われようと二年の間に絶対一泡吹かしてやるからな……!


 ……んで、俺の隣と言えば。


「よろよろー!」

「……うっす!」


 ま、まあめろぽよに任せれば大丈夫かな? コミュ力高そうだし……?


「そそ、実はウチ知ってるんだよね!」

「何を?」

「ピのこと!」

「ピ!?」


 ピって好きピとか好きピッピのアレだよな!? もしかして俺って既に彼女が居たのか!? いつ!?!?!?


「あ、ピって言っても好きピじゃなくて好きピッピね! 流石のウチでもまだピのことはピとは言えないし!」


 なーに言ってるかわかんねえや!


「はは! だよな!」


 まあ合わせときゃ何とかなるけど! ピはピじゃなくてピの方ね! オーケーオーライドンウォーリー!


「ピのことは先月知ったんだ。ゴミ捨て場で寝てた!」

「アイツらとバカ飲みした時……? いやゴミ捨てついでに寝た時か……?」

「んでねー、寝顔可愛いなーって思って財布から生徒手帳見たの」

「えっ」

「相羽寛太朗。今年で二十一歳。それから色々調べたんだ。家族構成は父母妹、あだ名はバカ、バイトはしてない、バナナが好き、お酒は強い、それから住所はねー……」

「ちょちょちょ待って待ってくれ!?」


 何これ怖い! 何で知ってんの!? 全部バレてんだけど!?


「あは、もしかしてウチのこと好きになっちゃった?」

「なる要素なくない!?」

「さて皆さん、時間です」

「ちょってめ白河!」

「ん、ではそこの不届き者達から始めてもらおうか。面白くなければ不可をつけるよ」

「それでも教授かてめえ!?」


 とはいえそう脅されたら従わざるを得ないのが生徒。発端は俺かもしれないけどこれ何かのハラスメントになんないのか?


 俺はしぶしぶ立ち上がる。


「……」


 ……やっべー……めろぽよの名前聞いてねー……。


「……あー、この子のことはめろぽよって呼んであげてください。明るくて可愛くて……それから……」

「不可?」

「じゃねえわ!!! ピです! この子はピ! みんなよろしくな!」

「ピがうちのことをピ……!? それってつまりカレカノピッピってこと……!?」


 ダメだ収拾つかねえ!


「ふむ。ピね。その言葉は知らなかったから後で調べるよ。新しい知識をありがとう。不可は取りやめておくよ」


 勝手に何とかなったのでこれ以上何か言うのはやめておこう。下手なこと言って不可つけられたら殺人犯になってしまうし。


「はーい! んじゃ次はウチ!」


 あとはこっちだ。俺の情報は全部筒抜け。ならせめてみんなに変に思われないような自己紹介をしてくれたら良いけど……。


「相羽寛太朗! あだ名はバカ! 童貞だよ!」

「ちょっと待てや!?」

「けどぉ、今さっきウチとピになったから……ね? そういうこと! やば、恥ずかしー!」

「ふむ、バカ君は童貞か。頑張るんだよ」

「何の応援だてめぇ!?」


 めろぽよはそれで全部言い切ったのか着席する。あぁ……拍手がまばらだぁ……。


 ……その後のことは、正直ほとんど頭に入ってこなかった。




 ──俺がめろぽよではない(・・・・)女の子に無理やりラブホテルへ連れ込まれる、十二時間前のことだった。

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