4-23 【悪役令嬢を目指す僕の婚約者】が、超っっっ絶かわいすぎて溺愛してしまう件!!
「もしかして、これって転生しちゃった!?」
癒しの「神聖力」を持つ伝説の聖女、それが転生した今の貴女です。
魔法が溢れるファンタジー世界で、素敵な学園ライフを楽しみましょう。
学園では素敵な出会いが待っています。
“完全無欠な美形の王子様”
“子犬系の可愛い後輩”
“貴女に絶対の忠誠を誓う専属執事”などなど。
学園の全員が攻略対象だから、絶対好みのキャラが見つかる!
イベントも盛りだくさん!
文化祭に、魔法コンテスト、なんと憧れの舞踏会まで!?
意地悪な悪役令嬢や、ライバルたちと競争、魔王との闘いだって大事な恋のスパイスに!
「さぁ、はじめましょう、素敵な魔法学園ライフ!」
*好感度を上げるアイテムは一部有料となっております。
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――ここは、そんな感じの【乙女ゲーム】の世界なんだと。
悪役令嬢を目指す僕の婚約者が、最高の笑顔で話してくれた。
僕の婚約者『公爵令嬢 アメリア・ローズ』は、今日も最高に可愛らしい。
「あ! レオ王子!」
美しい庭園の中央で佇むアメリアは、僕の姿を認めた瞬間にぱっと顔を輝かせてくれる。
まったく、まるで妖精みたいじゃないか!
愛らしすぎて、辺りの花々が霞んで見えるね!
「どうかなさいました?」
「いや、何でもない……。おはよう、アメリア」
頬の緩みを何とか戻し、僕は朝の挨拶をする。
彼女は少し不思議そうにしながらも、それ以上追及してくることはなく「おはようございます、レオ様」と言って微笑んだ。
僕の名前を呼ぶ彼女の声音はいつも優しくて、胸の奥から愛しさが込み上げて来る。
……んだけど、彼女は急に何か言いたげに……ああ、これは、嫌な予感がする……。
「ねぇ、アメリア……まさかと思うけどさ……」
「そのまさかですわ。見てくださいませ! 今週のわたくしの悪行の数々を!!」
アメリアは誇らしげに一枚の紙を差し出してきた。
「…………うーん」
アメリアの言う「悪行」はとても可愛らしいもので……。
だけど、それを自慢げに報告するアメリアはとにかく可愛くて……。
「レオ様、ちゃんとご覧になってます?」
「うん、もちろん見ているよ。その、……可愛すぎる君をさ」
正直に打ち明けると、アメリアの顔が見る間に赤く染まった。
「そっ、そんなセリフを【最推しキャラ】から言われるなんて……は、反則ですわ……」
彼女はよく、【最推しキャラ】という言葉を僕に使う。
好きの最上位版なのだと教えてくれたんだけど、でも、僕の思ってる好きとは違うような気がするんだよな……。
「とにかくこちらを見てくださいな! 私……ううん。わたくしはこれからも、レオ様最推しで参ります! その証拠ですからっ!!!」
紙を掲げ、アメリアは高らかに宣言する――。
僕の婚約者『公爵令嬢 アメリア・ローズ』は、今日も最高に可愛らしい。
そして。
今日も最高に謎で、最高に変わり者だ。
――六年前。
彼女と初めて出会った日からずっと。
◇ ◆
「やられた……僕は絶対に、婚約なんてしないからな!」
離宮の裏にある小さな庭園。
その低い塀を飛び越えると、僕はそのまま茂みの中へと駆け込んだ。
「なにが、『久しぶりに親子でゆっくりお茶でもどうだ』だよ!! 子供だと思って僕をだますなんて!」
現地についたら、お見合い会場はセッティング済みだった。
慌てて逃げて来たものの、当然追いかけてくる護衛たち。
走り回ってなんとか護衛をまいたけど……。
くそう。
くそう。
くそう。
そりゃ僕だって、もうじき十歳になる王族だ。いろいろ覚悟はしてたよ。
だからって、相手がどうしてあの「アメリア」なんだよ!!
周囲から「薔薇姫」と呼ばれてるアメリア。
その名前に恥じない美少女らしいけど、とにかくワガママだって話だ。おかげで皆から敬遠されてるけど……。
でも考えてみたら、僕だって同じだ。
「余りもの王子とワガママ薔薇姫、か。……ちょうどいいって思われたのかも……」
ため息交じりに呟いたとき、どこからか声が聞こえてきた。
『不思議な世界に召喚されて~聖女になった私~♪』
「え?」
『あなたは気づいていま~す~か~? ドキドキスキスキフワフワ~♪』
「……歌……?」
外国の歌かな。聞いたことのない言葉とメロディだけど、すごく綺麗な声。
まるで透き通るような……。
辺りを見回すと、声は少し離れた所にある大きな木のあたりから聞こえていた。
音をたてないようにして移動して、木の裏からそっとのぞき込むと……。
そこには、一人の少女の姿があった。
僕と同い年くらいだろうか。
さらりと流れる綺麗な金色の長い髪に、桜色をした頬と雪のように白い肌。
まるで花が咲いたような愛らしい笑みを浮かべている。
あまりに可愛くて、もっと見たくて。思わず身を乗り出したら、彼女が振り返った。
「――っ!?」
「あ、驚かせてごめんね」
彼女は目を大きく見開いて、頬を赤く染めていく。
「あの……もしかして……子供の頃の、レオ王子?!」
「え? あ、ああ、僕はレオだけど……子供の頃のって何?」
「やっぱり!! きゃー!! 本物のレオ様!! わぁぁぁぁ!!!」
勢いよく立ち上がった彼女は両手を口に当てると、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねた。
僕の質問には答えてもらえてないけど……彼女が可愛すぎて、そんなことどうでも良くなった。
「金髪碧眼の超絶美少年! 確かにイラストの面影がありますわ!」
「いらすと?」
「でも。ここにレオ様がいるってことは……わたくしの作戦は失敗しましたのね……」
「作戦って……えーと、君、誰?」
「あ……こほん。申し遅れました」
ようやく落ち着いたらしい彼女は、優雅に裾を摘まみ上げてお辞儀する。
「わたくし、アメリア・ローズと申します」
「アメリア……ローズ? ってまさか、ローズ家の……【薔薇姫】?」
「まぁ、そのウワサはご存じなんですのね? でも、婚約破棄できなかったと……原作の力おそるべし……ですわ」
「原作?」
「いえ、こちらの話なのでお気になさらず」
にっこり微笑まれる。
ん、でも今、婚約破棄って言ったよね?
そっか。彼女も、僕なんかとは婚約したくなかったのか――。
「ごめん……。僕がもっと優秀だったら、君を巻き込むことはなかったんだと思う……」
「え?」
「婚約の話さ。兄上達ならよかったんだろうけど、僕は……駄目な奴だから」
「……はぁ?」
「昔から要領が悪くて……。勉強も苦手だし。武術だって全然で……」
アメリアはぽかんとした表情で僕を見ている。
はは、呆れて物も言えないんだろうな。
「あの!!!」
突然大声で叫ばれ、驚いて顔を上げると、目の前にはアメリアの顔があった。
彼女は真剣な面持ちで僕を見つめていた。
「ア、アメリアさん……ち、ちか……」
「そんな自分を卑下するようなことを仰らないでください! レオ様は六年後に誰よりも強くかっこよくなります! わたくしが保証しますわ!!」
「え?! 僕が?」
「はい、レオ様は素敵な方ですよ! むしろ最高です! だって、わたくしの最推しキャラですからっ!」
「さ、さいおし……?」
「あっ、いいえ。気にしないで下さいませ。とにかく! わたくしが必ず“主人公の聖女ちゃん”と幸せにして差し上げますわ!!」
ぐっと拳を作って宣言する彼女に、思わず笑みがこぼれる。
なぜだろう。
彼女の力強い声が、とても心地よくて――。
王宮内でいつも感じていた劣等感のようなものが、溶けていく気がする。
「ははっ、ありがとう。……君は優しい子なんだね」
「はぅっ!! そ、それは反則……尊い……しゅき……」
「え?」
「あ、いえ、何でもありませんわ。それよりレオ様、お伝えしたいことがありますの」
彼女は僕の手を取り、ぎゅっと握りしめてきた。
うわぁ。どうしよう。
これまでに経験したことがない程、心臓がどきどきしている。
「落ち着いて聞いてくださいませ、この世界は――」
「この世界がどうか……したの?」
「ここは、乙女ゲームの世界なのですわ!」
◇ ◆
あの出会いから彼女はずっと変わっていない。
彼女はこの世界を「わたくしが前世でプレイしていたゲームの中」だと言い、「シナリオ」だと言って物語のような未来を予言してくる。
「レオ様はちゃんと、“主人公の聖女ちゃん”と幸せになりますのよ」
「なんで僕が、まだ出会ってもいない女の子と幸せになるんだ?」
「そういう運命なんですわ!」
「はぁ……。で、これが今回の悪行リスト?」
「ふふふ。わたくし、今週も完ぺきな悪役でしたわ!」
★公爵家のお金を減らすために、孤児院のバザー品をすべて買い占めた
あ、これ、確実に感謝されるやつだ。
★自分の悪行を知らしめる証人を増やすために、新たな人を多数雇い入れた
ああ、社交界でうわさになってたな。
最近、公爵家は貧乏な貴族の令嬢を行儀見習いで雇い入れてるらしい。
悪行というか……ローズ家の評判あがってるからね。
★王家の求心力を下げるために、王都で炊き出しを行った
なんでこれが悪行なんだろう。
「とりあえず、君が僕のために頑張ってくれてることはよくわかったよ」
「当然ですわ! 最高に最悪で最凶な悪役令嬢に近づけてますわね、わたくし!!」
彼女は世間の反応を知らないんだろうか。
小さい頃【薔薇姫】と呼ばれていた彼女は、いまや敬愛を込めて【薔薇の聖女様】なんて呼ばれていることに。
まあ、でも、確かに。
「僕の婚約者は最高かもしれない……」
「ですわよね!」
アメリアは何かを勘違いしているらしくドヤ顔だ。あまりに可愛くて思わず抱き寄せると、彼女は「ふぇっ!?」と叫ぶ。
「れ、レオ様……? そ、その、こういうことを、わたしくしにしては、いけません!」
「僕は君にしかしないけど?」
「~~~~っ!! また、 そ、そんなこと仰って……でも、もうすぐ主人公が登場する時期ですわ。気持ちも変わりますわよ……」
「僕が君以外の誰かを愛する日が来るなんて、思えないけどなぁ……」
「はううう~~! そ、そんなセリフ、反則ですわ~~! でもわたくし、負けません! 立派な悪役になってみせます!」
僕の婚約者『公爵令嬢 アメリア・ローズ』は、今日も最高に謎で、最高に変わり者だ。
そして――――やっぱり最高に、可愛らしい。





