第99話 お花見
羽崎正人は柏木奈乃の顔に落ちた桜の花びらを払った。
「ん?」不意に顔を触られた奈乃は、目を開いて不思議そうに俺を見上げる。
「いや」何でもないと微笑みかける。
奈乃はまた目を閉じた。
今日は3年生に進級してから初めてのクラス会。
2年から3年に進級するときにクラス替えは無いので去年と同じメンバーだった。
委員長は今年も委員長だった。
新学期になってすぐに花見を理由にクラス会を開催した。
クラス会の朝、いつものように奈乃の家に迎えに行く。
「お早うございます」いつものように那由多に出迎えられる。
「おはよう、那由多ちゃん」
にこやかな那由多に居心地の悪さを感じる。
那由多に紙袋二袋分のお菓子を渡された。いつものように昨日クラス会用のお菓子を奈乃と那由多と俺で作った。
お菓子作りの手際の良さを那由多に褒められた。数をこなしてるからな。
奈乃は相変わらず、アレだったが。
「おはよう、羽崎ぃ」玄関に出てきた奈乃が、俺と那由多の間に割り込む。
隙あらば俺との距離を詰めようとする那由多に困っていたから助かったのだが。
でもその後俺の腕に抱きついて、挙げ句那由多を煽るように舌を出すのはやめろ。
那由多がムッとした顔でこっちを見てるだろ。
今日の奈乃は白のシャツに水色のカーディガン。薄い茶色のキュロットスカートに素足に短い白のソックス。
スニーカーを履いて玄関をあけ、俺の腕を引っ張って外に出る。
奈乃にムッとした顔を向けていた那由多は、奈乃が視線を外すと奈乃に向ける視線を優しい目に変えていた。
門から出た奈乃は俺の腕から手を離し、少し離れてから立ち止まって、俺に向けて手を広げた。
「どうかな?」
珍しくポニーテールにしていて、いつものスクエアのピアスに片耳イヤーカフが目立つ。
そして胸元には短いチェーンのペンダントがあった。
ホワイトデーのお返しに俺がプレゼントした。
シルバーで小さな飾りがついている。高いものではないが、安物でもない。
俺の好みで選んだプレゼントだが、奈乃は気に入ってもらえただろうか?
「可愛いよ」
「えへへ」奈乃は嬉しそうに笑う。「もっと!」
おい、うざくて可愛いな。
「短いスカートは足が見えて良いな」
「もー、服を褒めてよ」と文句を言うがやはり嬉しそうだ。
足を隠すようにキュロットの裾を引っ張るが当然隠れない。
あざといポーズしたかっただけだろ。
もちろん可愛いよ!
「あ、あとこれスカートじゃないから」そう言ってキュロットの裾を捲る。
知ってるよ!
「捲るな。押し倒すぞ」
「え?」
スカート捲って太もも見せつけきたら、挑発してるようにしか見えないだろ。
押し倒す、って言葉に奈乃が固まる。緊張した表情で俺を見てくる。
お前、期待してるのか?
真っ昼間の玄関先でそんな事するわけ無いだろ。
諸般の事情で奈乃の期待には応えられないので、代わりに肩を抱き寄せた。
奈乃はおとなしく俺の胸にしなだれかかったまま動かない。
これ以上何かするわけにもいかず、困って胸のペンダントに手を伸ばす。
「似合ってる」
「うん。ありがとう」
暫く奈乃を抱き寄せていたが手を離す。
開放しても奈乃は俺から離れなかった。
今日はクラス会がある。いつまでもこうしてるわけにはいかない。
「行こうか」
「……うん」そう言ったがすぐには離れなかった。
一旦体を離した奈乃は俺と手を繋ぎたがった。
「何で手なんだ?」
「え?」手を繋ぐのを拒否されたと思った奈乃は不安そうな目を向けてくる。
いや、ちょっといじわるだったか。
「さっきは腕組んでただろ?」那由多の前では当てつけのように腕組んだよな?
「あ」奈乃は嬉しそうな顔をして俺の腕に抱きついてきた。
「行こ! 羽崎ぃ」
俺の腕を胸に当てるように抱きかかえ歩き出す。当たる胸もないけどな。
集合場所の城址公園。クラスメイトたちは早々に集まっていた。今回もほぼ全員が参加している。
去年から引き続いた担任も荷物運びに車を出していた。
奈乃は全員とハグをするのもいつも通り。担任とハグをするのは……、通報されないか? 大丈夫か?
花見客が多いので騒ぐようなレクは用意していなかった。委員長の負担が少ないのは良い事だろう。
その代わり、奈乃が張り切ってはしゃいでいる。これもいつも通り。
奈乃を他のみんなに取られた俺は一人ジュースを飲みながら本来の目的の桜に目をやる。
「何黄昏れてるの?」感傷に浸る暇も貰えないらしい。
3年になって席替えの結果、残念ながら隣の席にならなかった佐野さんだった。
「桜見てるだけだけど? 今日は花見だろ?」
佐野さんは面白そうに笑った。
「ホントに花見してるの?」
「花見だからな」他に何すんだよ?
「じゃあ私も花見しよっと」そう言って俺の隣に座る。
「委員長とこに行けば?」
「忙しそうだから」
ふーん。
……。
「いや、付き合ってないから」
「何も言ってないよ」
暫く他愛もない会話を交わす。会話が途切れても特に気にしてないようなので楽でいい。
そのうち佐野さんは俺にピッタリとくっついてきた。
何のつもりだ?
「明人と奈乃ちゃん、どっちが先に我慢できなくなるかな?」
明人は委員長の名前だ。名前で呼ぶような仲なんだな。
「委員長は嫉妬とかしなさそう」
「だよねー」佐野さんは苦笑いをする。
多分奈乃の方が先に邪魔しに来そう。ちょっと自惚れてるか?
「羽崎ぃー。遥香ちゃん、独り占めはダメ」
ほらな。
奈乃は俺たちの前に立って、可愛らしく仁王立ちしてみせる。頬を膨らませて怒っているのをアピールしてくる。
可愛いな、おい。
佐野さんは笑って奈乃に手を差し伸べる。「おいで、奈乃ちゃん」
佐野さんは自分の座っていた場所に奈乃を座らせて立ち上がった。
「盗らないから」からかうように笑う。
奈乃はむー、とする。
「スマホ貸して。撮ってあげる」
佐野さんは奈乃のスマホで俺たちのツーショットを撮った。奈乃はいつも以上に俺の腕にベッタリくっついて、反対の手でピースを作った。
写真の中の奈乃はいい笑顔だった。
それに引き換え俺はぎこちない笑顔だ。何か奈乃に抱きつかれてドギマギしているのがあからさまだった。
俺、こんなに奈乃のこと意識してるのか?
「奈乃ちゃん、俺とも写真撮ろうよ」
俺達が二人で写真撮ってるのが羨ましいのか、クラスの男子が奈乃に声をかける。
「うん!」奈乃は嬉しそうに立ち上がって、その男子の腕に抱きついた。
抱きつかれたクラスメイトは嬉しそうに照れている。
お前も普段から教室で仲いいよな。まあ、奈乃はクラス全員と仲いいけど。普段と違ってテンション高いな。
「また奈乃ちゃん取られちゃったね」佐野さんは再び俺の隣に座った。
「まあな」奈乃のやりたいようにやらせる。
「委員長は来ないな」
佐野さんにムッとした目で見られた。からかわれたからやり返しただけだけど?
「ムカつくから明人の邪魔してくる」佐野さんは立ち上がる。
「邪魔しないで、仕事手伝ってやったほうが好感度上がるんじゃないか?」
「メンドウだからやだよ」そう言って委員長のところに向かった。
付き合ってもないのに、かまっては欲しいんだ?
全身でかまってアピールをし続ける奈乃はみんなによしよしされてはしゃいでいる。
「疲れたー。休憩ー」と言って、近くの男子の膝を枕に寝転がる。
雑に膝を立てたまま仰向けになった。
「奈乃ちゃん、スカート」
男子に咎められる。膝を立てているため膝上丈のキュロットがずり落ちて、生足の太ももを晒していた。
「ん? これ、スカートじゃないよ?」奈乃はキュロットの裾を捲ってみせる。
「奈乃ちゃん!」近くにいた皆が奈乃のキュロットと膝を押さえつけた。
立てた膝を伸ばされ、キュロットの裾を下ろして太ももを隠された。
みんなに咎められて奈乃はビックリした顔で固まっている。
「奈乃ちゃん、怒ってないからね」みんなは固まってしまった奈乃を慌ててフォローする。
奈乃はわざとやったのだろうが、思ったよりみんなの反応が強くて驚いてしまったみたいだ。
そんなに怖がるなら、怒られるとわかってることするなよ。
そこも可愛いんだけどな。
「羽崎ぃー、疲れたー」終わりがけになって奈乃が俺のところにやって来て、俺の膝を枕に横になった。
疲れたと言っては男女問わず皆の膝を枕にしていたが、あれは媚を売っていただけで本当に休憩していたわけではなかったのだろう。
奈乃は本当に疲れていたのか、媚びた顔を作ることもせず俺の太腿を抱くように横臥して目を閉じる。太もも見せのサービスは無く膝は立ててない。
「膝は立てないのか?」
「んー、みんなに怒られるから」目を閉じたまま返事をする。「ん? 私の足、見たかった?」
「ああ」
「あ……、ごめん。家に帰ったらね」
帰ってからも膝枕するのか。……良いけど。
「スカートじゃないから捲れないよ?」
「そう。どこまで見れるか試してみるか? 裾が広がってるから、パンツぐらい見れそうだけど?」
奈乃は目を開けて俺を見上げる。
咎めるわけでもなく、むしろ期待しているような目で。
「うん。後でね」そう言って再び目を閉じた。
良いのかよ。
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