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第97話 オファー

 

「高瀬さん、時間あるかな?」

 昼休み、高瀬雪穂は軽音部の3年生に呼び出された。

 文化祭のときに音響を手伝ってもらった人だった。


 教室にいたクラスメイト全員に注目される。

 いちいち私の行動を監視しないでほしいと思うと同時に、一足一挙を注目されることに自尊心が満たされるのも自覚している。


「え? 誰? 雪穂」一緒にいた女子が不審げに尋ねてくる。

「軽音部の3年よね」私の代わりに志歩が答える。私の交友関係把握しているのかしら?


 適当に同席者に断りを入れて席を立つ。

 男子生徒に呼び出されるのは慣れている。学校一の美少女と言われている私に声をかけられるだけ、その自信と勇敢さには敬意を払わないとね。


 でも今回は違うわよ。軽音部の人達は私と奈乃ちゃんがお付き合いしていることを知っているから、横恋慕なんてムダなことはしないでしょ。


「高瀬さんを呼び出すだけで、周りの視線が痛いんだけど」教室の入口で待っていた軽音部の先輩は萎縮していた。

「ごめんなさい。今日は日が悪かったですね」

「何だっけ?」

「ホワイトデーらしいですよ」

「ん? 俺は高瀬さんにホワイトデーのお返しを渡そうとしているのか?」

「そんな相手がいないか興味あるのでしょう」

 先輩は少し考えてから、「監視されてるのか?」と、不快そうに言った。

 それには苦笑するしかなかった。


 教室から離れるように移動する。

「高瀬さんには彼女……、彼氏……」言い換えてなおもしっくりこない顔をした。わかりにくくて悪いわね。

「付き合っているやついること知らないのか?」

 これにも苦笑を返す。クラスのみんなに知られたら、奈乃ちゃんに迷惑がかかる未来しか見えない。

 実際に志歩がやらかしている。



「それで、何かしら?」

 軽音部の部室まで来た。昼休みなのに何人かがたむろしていた。

「今度、軽音部のバンドでライブするんだ」

「外で?」学外でという意味で尋ねた。

「そう。イベントホール借りる」

 少し意外だった。学内だけの活動しかしていないと思っていた。


「高瀬さんたち、学外でブイブイ言わせてるだろ?」

 ブイブイ? どんな意味?

「俺達も負けてられないからな」

 何の勝負かしら?


「イベント会場借りるから、音響は自前で用意しないといけないんだ」

 ライブハウスならどちらもお店が用意してくれるのにどうして使わないのかしら?

「学校のクラブ活動でライブハウス使うのは色々面倒なんだ」

 私達は使っているけど。何か問題かしら?

 疑問は尽きない。それより私が呼ばれた理由は?


「それで私は何故呼ばれたのかしら?」

「ああ、できたら音響を頼みたいんだ」

「出来ますよね?」あなた、できるわよね?

「俺がステージにいるとき、どうすんだよ」

 これだけ人がいて、音響できる人は一人だけなの?


「先輩がステージに上ってるときに音響をすればいいのですか?」

「できたらフルでお願いしたい。セッティングも含めて」

 少し考える。

 裏方は楽しそうだし、軽音部には借りがある。できればお手伝いしたいとは思う。


「江島くんと奈乃ちゃんに相談しても良いかしら?」

 サークルメンバーに話を通すのは筋だと思った。

 江島くんは問題ないだろう。


 奈乃ちゃんはわからない。理解できない事で不機嫌になったりするから。




「いいんじゃないか? 手伝ってやれよ」

 放課後、サークルメンバー揃って再び軽音部に顔を出す。

 江島くんは二つ返事だった。


「柏木くんはどう思ってる?」柏木くんは良いとも悪いとも言っていない。一番確認したいところ。

「え? 俺? 別にいいと思うけど?」柏木くんは尋ねられたことにすら驚いている。

 私が軽音部の活動に関わることに興味すら無さそうな返事だった。


「僕も何か手伝いしましょうか?」柏木くんは軽音部の先輩に申し出る。

 なんだ、私と一緒に参加したいのね、柏木くん。


「いいのか? 柏木くん」

「雑用とかしかできないですけど」

「うん。助かるよ。ありがとう」


「江島は?」先輩は江島くんにも話をふる。

「え? 俺っすか? いやー、観客で参加しますよ」

「お前なー」

 江島くんは笑って誤魔化して、軽音部の先輩達も笑って受け入れた。


「あ、江島くんの分も僕が頑張りますから!」柏木くんが慌てて江島くんをフォローする。

「そうか、任せた」江島くんはあっさりと柏木くんに面倒なことを押し付けた。


 私一人で十分貢献していると思うけど?

 何かモヤッとする。江島くんこの態度が?

 いや、江島くんを柏木くんが庇ったことが不快なのか……。


「みんなで行くなら、私達も参加すればいいのでは?」江島くんが柏木くんに押し付けて、何もする気が無いのが納得いかない。


「おい」江島くんが怒ったように私を咎める。

「高瀬さん」柏木くんまで慌てて目で何か言ってくる。

 どうして二人とも怒っているの?

 そんなにライブしたくないのかしら?


「あー、高瀬さん」軽音部の部長さんが困った顔で口を挟んできた。「悪いけど、君たちの客が入り切るほど箱は大きくないんだ」



 その後は日程等の打ち合わせをした。

 帰るときに、柏木くんは大きな紙袋を三つ持っていた。

「柏木くん、それ全部ホワイトデーのお返し?」軽音部の一人が声をかける。

「あ、はい」柏木くんが恥ずかしそうに頷く。

「すごい数だね」

「あー、お返しなんか別に良かったんですけど……」


 本当にすごい数ね。どれだけバレンタインデーに配ったのかしら?

 ちょっと、……結構ムカツク。


「江島はちゃんとお返ししたか?」

「しましたよ」

 柏木くんは機嫌良さそうに笑みを漏らした。

 え? いつの間に? 柏木くんにだよね? そんな素振り見せてなかったのに?


「高瀬さんも、お返し大変そうだね」

「え? まあ」実際には、全員にはお返していない。流石にクラスの女の子にはお返しをした。でも、他のクラスの子にはお返ししていない。

 きりがないし、学年が違う子は名前すら覚えていない。


「そういう先輩はちゃんとお返ししたんすか? 柏木から貰ってましたよね?」江島くんが言い返す。

「あ、江島くん。軽音部の皆からはもう貰ったから」柏木くんが代わりに江島くんに答えた。


「え? いつの間に?」

「何、抜け駆けしてんだよ!」

「お前もな!」

 急に軽音部の中で言い合いが始まった。


「いや、放課後に来てくれるとは思ってなかったから、休み時間に渡したんだよ」と、言うことらしい。

 軽音部の全員が別々に。


「おい、高瀬」

 軽音部の内輪もめを無視して江島くんが私に耳打ちする。

 何?

「怖い顔してんぞ」


 一番気になってるのは、江島くんの奈乃ちゃんへのお返しなんだけど?






読んでくれてありがとうございます。

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