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第96話 指輪交換

 

 買い物した後、江島貴史は柏木奈乃の家に寄った。

 まあ、遠回りなんだが。


 同じデザインの指輪を二つ買った後、柏木は直ぐにつけずに家に誘った。


「ただいま」玄関の鍵を開け、中に呼びかける。

 パタパタと足音がして居間に続くドアが開き、柏木の妹が顔を出す。

 俺の顔を見て驚いた表情の後、がっかりした表情に変わった。


 驚かれるのも何だが、何故ガッカリされるのか?

「おう、じゃまするぞ」

「あ、……、どうぞ」妹はつまらなさそうに居間に引っ込んだ。

 柏木について居間に通される。


「着替えてくるから待ってて」柏木は直ぐに部屋から出ていく。


 居間に妹と二人取り残された。

 この妹、少し苦手だ。


 離れてソファーに座る。

 妹も居心地悪いのかテレビをつけてゲームを起動させた。

 ロード中に思い出したかのように、「お茶でも飲みますか?」と言ってキッチンスペースに入る。

「お、悪いな」別に飲み物は要らないが、何もしないのも手持ちぶさただ。妹にとってもな。


 冷蔵庫から冷えたお茶を出してきた。いちいち淹れるのが面倒なのか、お茶を作り置きしているのだろう。


「兄さん、帰ってくると直ぐに着替えるから」ゲーム画面を見ながら妹が話しかけてくる。

 待たせていることを謝っているのか。

「おう、構わない」


 少しの間を取ってから、「ゲームでもしますか?」と誘われた。

 間が持たないよな。それでも自室に引き上げないのは何故だろうか?

「いや、ゲームはしない」


 そして、また間があく。

「新曲聴きました。ライブでも、配信でも」

「お、サンキュー。で、どうだった?」取り敢えず感想を聞きたくなるのは習性だ。

「良かったです」

 どう良かったのか言って欲しいが、続きはなかった。

「そうか」


 そして、また間があく。

「高瀬さんの曲は、……、意味がわかりません」

 高瀬の曲はマニア向けと言うか、玄人向けだな。中学生にはわからないだろ。

「江島さんの曲のほうが良いです」

 ん? これは褒められてるというより、高瀬の曲を貶しているのか?


 そして、また間を空けたあと話題を変えてくる。

「珍しいですね。江島さんと帰って来るの」

「ああ、買い物に行っていた」

「ふーん。……何買ったんですか?」

「あー、指輪」

「指輪?!」

「……おう。指輪だ」何か引っかかったか?

「兄さんが買ったのですか?」

「いや、買ってやった」


 妹はゲーム画面から目を離して俺を見ていた。

 俺もなんとなく見ていたゲーム画面から目を離して妹を見る。

 妹は少しの間の後ゲーム画面に視線を戻し、コントローラーをガチャガチャやって強引に敵を倒した。

 格闘ゲームとか全く興味ないので、何をやっていたかさっぱりわからなかった。


 ゲームは選択画面に戻っていたが、妹はそこから進めずに画面を見ている。何か考えているようだった。

 多分ゲームの事を考えているわけではないのだろう。



「おまたせ!」暫くして柏木が戻ってきた。浮かれたような弾んだ声だった。


 柏木は白のレース多めのブラウスにピンクのカーデガンを重ねている。膝上丈の赤いスカートもヒダが多めで、スカートの裾から白のレースがかさばるように覗いていた。短い白のソックスもヒラヒラがついている。

 珍しいな。最初に会った頃はこんな可愛いを強調した格好をしていたような気がする。


「気合い入りすぎててムカツク」妹が独り言のように悪態をつく。

 聞こえるように言ったよな?


 仲悪いのか? この兄妹。


「席外した方が良い?」妹は冷めた目で柏木を見る。

「うん。ごめんね」


 妹はめんどくさそうにゲームの電源を切って立ち上がった。

「お姉ちゃんが頑張ってくれたほうが、私にチャンスがやってくるもんね」柏木を見もしないで嫌味っぽく言う。

 柏木はムッとした顔をしたが何も言わなかった。


 やっぱり仲悪いよな。喧嘩でもしてんのか?


 妹は俺を見る。

「お姉ちゃんをよろしくお願いします」真剣な表情で頭を下げた。

 何をよろしくするんだ?

 後、さっきまで「兄さん」と言っていたよな? やっぱ変わってんな。


「余計な事言わないで」柏木が不機嫌そうに咎める。


 しかし妹のほうは表情を一変させていた。

「頑張ってね、お姉ちゃん」柏木の手を取り、優しく声をかける。

「ん」柏木も柔和な表情でそれに応える。


 喧嘩してるわけでもないのか?

 わかりにくいな、こいつら。



 妹が退室した後、柏木は俺の左隣に座る。

 近いな。

 体が触れるくらいに近い。


 買ってきた指輪の入った化粧箱を二つテーブルに並べる。

「可愛い!」柏木は嬉しそうに指輪を手に取る。そして、「つけて!」と言って俺に指輪を差し出した。

 柏木は楽しそうにはしゃいでいる。おとなしくしていないので、さっきから頻繁に体が当たってくる。


 まあ、喜んでもらえて何よりだが。

 指輪を受け取る。

 柏木は高揚した表情で左手を差し出してきた。薬指を強調している。

 左手薬指に嵌めろって事か?


 少し思案する。


 柏木は今日も俺が買ってやった普段遣いのピアスをしている。これも俺が買ったやった片側イヤーカフを右耳につけていた。


 普通は男が片側イヤーカフをするときは左耳にする。俺も片方だけピアスやイヤーカフを付けるときは左耳にしている。


 柏木は右耳の片側イヤーカフの意味も、左手薬指に指輪をする意味も知らないのだろうか?


 気にしないやつは気にしない。俺もわざわざ指摘するつもりもない。


 柏木の左手を取る。

 柏木は嬉しそうに俺を見上げてくる。


 可愛いな。

 男だとわかってるのに何故かドギマギしてしまう。


 伸ばされた薬指ではなく、人差し指を掴んで指輪を嵌めた。

 フリーサイズの男性サイズの指輪は柏木の指には少し大きかった。


 柏木は人差し指に嵌めた指輪を見て、え? って顔をする。一瞬傷ついた色を浮かべてから直ぐに嬉しそうに笑った。


「ありがとう、江島くん! 可愛い?」左手の甲を晒して笑う。

「ああ、可愛いな」俺も自然に見えるように笑顔を返す。


 柏木はわかってやっているのか?


「江島くんもつけてあげる!」柏木はもう一つの指輪を取り出す。そして俺の左手を掴んだ。

「いや、自分でつけるぞ?」


 柏木を傷つけないようにやんわりと左手をほどき、自分で右手の人差し指に指輪を嵌める。


 寂しそうな表情を隠せない柏木に、それに気づかないふりをして、「どうだ?」と指に嵌めた指輪を見せる。


「うん、カッコいい! 江島くんはカッコいいよ!」

「お、そうか」


 柏木も笑顔で指輪を嵌めた左手を見せてくる。

「お揃いだね!」

「おう、お揃いだな」

 柏木は嬉しそうに俺の左腕に抱きついてきた。


 楽しそうに俺の腕の中で柏木は、期待するような笑顔を俺に向けてくる。

 頭を撫でろって事か。

 黙っていても柏木の扱い方がわかるくらいには付き合いも長くなってきたよな。


 柏木の頭を優しく撫でた。


 柏木は嬉しそうに俺の腕に顔を埋める。

 まるで泣き顔を隠すかのように。




読んでくれてありがとうございます。

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