第94話 雪合戦
柏木奈乃は雪道を踏みしめながら、パートナーの高瀬雪穂の後をついて行く。
早朝の雪山。ホテルから抜け出し、クロスカントリー用の林道を歩く。
寒くて、吐く息が白い。張り詰めたような空気も気持ちいい。踏みしめる雪が、キュッキュッと鳴るのも楽しい。
雪穂ちゃんと二人でスキーに来ていた。
雪穂ちゃんは雪山撮影旅行のつもりです誘ってきたのはわかっていたけど、スキーに誘われたと勘違いしたふりをする。
私はアウトドアスポーツは得意じゃない。スキーは親に連れられて何度かしたことはあるけど特段好きでもない。
でも雪穂ちゃんはしたことが無いだろう。
私は雪穂ちゃんとできるだけ沢山の思い出を作りたい。
雪穂ちゃんに色んな思い出を作って欲しい。
あと、撮影旅行よりスキーで体を動かした方が、雪穂ちゃんが疲れてはやく寝てくれるかもしれないし。少なくとも「疲れたから寝かせて」って言ったら、少しぐらいははやく寝かせてくれるかもしれないとも期待した。
スキー自体は結構楽しかった。
初心者の雪穂ちゃんに教えるのは新鮮で楽しかったけど、あっという間に私より上手くなってしまった。
一つ位、私の方が得意なものを残しておいて欲しかったな……。
雪穂ちゃんはずっと私を見ていてくれる。
私が転んだら直ぐに飛んでくる。
先を滑っていても、私が転んだら凄い勢いで斜面を蟹歩きで私のところまで登ってくる。
重たいスキー板をつけたまま走るような勢いで登攀してくる姿はドン引きするレベルだった。
体力オバケかな?
雪穂ちゃんは私を助け起こすたびに抱きしめてくる。挙句の果てに人目のあるゲレンデでキスまでされた。
汗をかいているから匂いを嗅ぐのだけはやめて欲しかったな。
それでも私に雪穂ちゃんの手を取らないという選択肢はない。
翌日、撮影のために日が昇る前から雪穂ちゃんは起き出した。
昨日の夜、「疲れたから早く寝かせて」とのお願いを全く聞いてくれなくて、夜遅くまで私の身体で遊んでいたのに元気だね。
「奈乃ちゃんは寝ていていいわよ」
「ん、ついてく」一人にしないで。
今日の雪穂ちゃんは別人の顔をしている。
雪山を歩くために珍しくスニーカーを履いている。
厚手のズボンにストリート系の派手なジャンパーを着ている。
ごっついカメラバックを肩にかけてカメラを構える雪穂ちゃんはカッコいい。
私は邪魔しないように少し後ろを歩く。
置いて行かれないように頑張って歩く。
雪穂ちゃんはだんだん後ろを振り返る回数が減って、私を気にしなくなった。
クロスカントリーのコースから外れた場所の雪は新雪のまま残っている。
「雪穂ちゃん!」
雪穂ちゃんが振り返る。私は新雪に背中から大の字に飛び込んだ。
「あはは! 写真撮って!」大の字の形に雪に埋もれて笑う。
私を見て! 私にかまって!
雪穂ちゃんは慌てて影戻ってきて俯瞰で私をカメラに収める。
「えい!」雪の塊を手にとって雪穂ちゃんに向かって投げる。ただのイタズラのつもりだった。
雪穂ちゃんは慌ててカメラを腕の中に隠して私の投げた雪を被った。
あ、マズった。
カメラに雪が当たるかも知れないと思い至らなかった。
雪穂ちゃんがきつい目で私を見る。
あまりにも怖くて息を呑む。
怯えた私を見て雪穂ちゃんは目を閉じ、自分を落ち着かせるかのようにゆっくりと息を吐く。
再び目を開いたときには優しい目を作っていた。
「もう、奈乃ちゃん。イタズラはやめてね? 可愛いんだけどね」微笑みながら手を差し伸べてくる。
作り笑いに怒りの大きさが透けて、怖くて泣きそうになる。
「あ……、ご、ごめんなさい……」
それでも私に差し出された雪穂ちゃんの手を取らないという選択肢はない。
「雪の下に折れた枝や杭があるかも知れないから、雪に飛び込んではダメよ」優しく諭される。
雪穂ちゃんが怒った理由はそんなことじゃない事はわかっている。
「ん……、ごめんなさい」
雪穂ちゃんが怖くて、もう邪魔にならないようにしようと思った。
怯えてしまった私を見て、かえって雪穂ちゃんは私を気にかけるようになってしまった。
私は雪穂ちゃんの足を引っ張りたいわけじゃないのに……。
「ごめんね、雪穂ちゃん」
「どうしたの? 奈乃ちゃん」
「邪魔してごめんなさい」
雪穂ちゃんは困ったように笑った。
「いいのよ? 私は奈乃ちゃんと遊びたいだけだから」
ホテルに戻ってから雪穂ちゃんをベッドに誘った。
帰りのバスまで部屋は押さえてある。
「今日は積極的ね」雪穂ちゃんは嬉しそうに誘いに乗る。
雪穂ちゃんを怒らせてしまったからね。
嫌われたくない。
「エッチな奈乃ちゃんも可愛いわね」
黙って! 嫌われないように必死なだけだから!
「雪穂ちゃん。して欲しい事があったら、何でもするよ?」
普段なら絶対しないような事まで我慢してやった。雪穂ちゃんが喜びそうな事は思いつく限りする。雪穂ちゃんがしてって言ったことを全部する。
「奈乃ちゃん、大好き! 愛してるわ!」
普段しないご奉仕に雪穂ちゃんがいつに増して興奮する。
耳元でおっきい声出さないで。
うるさい。
帰りのバス。意外にも雪穂ちゃんは私の肩に頭を乗せて寝てしまった。
疲れたんだね。さっきベッドで凄く乱れてたから。
私がセックスに積極的になっただけでこんなに喜んでもらえるなんて。
雪穂ちゃんとのセックスが気持ち悪いからって、いつも消極的な態度をとっていたことに申し訳なくなる。
私が我慢するだけで雪穂ちゃんに喜んでもらえるなら、もっと我慢して雪穂ちゃんがして欲しい事をしてあげようと思った。
私の肩で眠る雪穂ちゃんは、年相応な子供に見えて愛おしい。
読んでくれてありがとうございます。




