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第93話 スキーに連れてって

 

 高瀬雪穂はパートナーの柏木奈乃と雪山に降り立った。


 バスのタラップから降りようとした奈乃ちゃんに手を差し出す。

 奈乃ちゃんは笑顔で私の手を取り、「えい!」と両足を揃えてバスから飛び降りた。

 踏み固められた雪が軋む音がした。


 はしゃいでいる奈乃ちゃんは可愛い。

 いつも可愛いけどね。


 2月の終わり、私は奈乃ちゃんに雪山旅行を提案した。

「行きたい! スキーやりたい!」

 え? スキー?

 私は雪山撮影旅行のつもりだったのだけど……。

「子どものときにやったきりだから、また滑りたい!」

 キラキラした目で見てくる奈乃ちゃんに、とてもじゃないけどスキーに興味ないとは言えなかった。


 深夜に雪山に向かうスキーバスに乗った。


 快晴で朝日を反射させる雪面が眩しい。


 トランクルームから荷物を受け取り、予約したホテルに向かう。

「荷物持つよ?」奈乃ちゃんは薄い茶色の短いコートを着て厚手のくるぶしまであるスカートを穿いている。あまり雪山に似つかわしくない。靴は流石にスニーカーを履いていた。

 奈乃ちゃんの荷物は小さなショルダーバックだけで、私が二人分の荷物を持っている。


「大丈夫よ?」

「ん……、ありがとう」申し訳無さそうな顔をする奈乃ちゃんは可愛い。大して重たくはないわよ?


 チェックインの後、レンタルウェアに着替える。

 スキーウェアを持っていないと言う奈乃ちゃんに、「買ってあげるわよ」と言ったが、「何回も着ないし、レンタルでいいよ」と断られた。


 淡いピンクの模様が入ったセパレートタイプのウェアを着た奈乃ちゃんは可愛い。でも、やはりレンタルでは奈乃ちゃんの可愛さが活かしきれていない。


 1デイのパスを買ってリフトに乗る。

 いきなりなの?

 私、スキー初めてなんだけど?


 4人乗りのリフトに2人で乗った。

 乗り方を教える奈乃ちゃんは少し得意そうに見える。

 乗るときよりも降りるときに少し緊張した。


 初心者用のゲレンデ。

 奈乃ちゃんが滑り方を私に教えてくる。

 奈乃ちゃん自身、スキーは久しぶりのはずなのにね。

 本当は、初めはちゃんとしたインストラクターに教わったほうが良いのだろうけど、スキーが上手くなりたいわけじゃない。何ならスキーをしたいわけでもない。


 要領の得ない奈乃ちゃんの指導の元、何となく滑り方のコツを掴んだ。

 傾斜の緩い初心者用ゲレンデだけど。

「取り敢えず、下まで降りてみよ!」楽しそうな奈乃ちゃんの笑顔が、白銀に照り返した日差しにキラキラと輝く。

 そうね。奈乃ちゃんが楽しいならスキー位付き合うわよ。

 この日差し、日焼けが心配だけど。ゴーグル周りだけパンダ日焼けしないかしら?


 滑りたくてうずうずしている奈乃ちゃんは、その言動に反して恐る恐る滑り出した。

 こんなに慎重にしなくても良いのではないかしら?

 それとも初心者の私に気を使っているのかしら?

 奈乃ちゃんに合わせてゆっくりと距離をとってついて行く。


「きゃ!」奈乃ちゃんはスキー板のコントロールに失敗したのか突然スピードを増した。そしてその速さに怖がってバランスを崩し転倒する。

「奈乃ちゃん!」私は板を揃えてスピードを上げ奈乃ちゃんの下に回り込んでエッヂを効かせて止まる。

「大丈夫? 奈乃ちゃん」手を差し出す。

 ちゃんと斜面の高い方に横から転倒していたから大したことが無いのはわかっていた。スピードも全然出ていなかったし。

「うん」スティックを離して私の手を取る。立ち上がったのはよいが、板が滑ってまたバランスを崩す。「きやっ!」

 慌てて奈乃ちゃんを抱きとめて転ぶのを阻止する。

 柔らかな良い匂いがした。

 そのまま抱きしめる。


「雪穂ちゃん?」

「え?」

「どうかした?」

「何でもないわよ?」

「もう大丈夫だから」

「……そう?」最後に強く抱きしめてから奈乃ちゃんを離す。


 奈乃ちゃんは不服そうに目を逸らしている。

「人いっぱいいるのに……、恥ずかしいよ」照れている奈乃ちゃんは可愛い。

「ごめんね。奈乃ちゃんがあんまり可愛かったから」

「もう……」赤くなって頬を膨らます奈乃ちゃんに笑ってしまった。


 最初だけ初心者用のゲレンデを滑った後、中級者用のゲレンデに移った。

 昼食の後には周りと遜色ないくらいには滑れるようになって、中級者用のロングコースを何度か滑った。


 斜面の急な箇所で奈乃ちゃんが怖がってなかなか降りられない事が何度かあった。

 奈乃ちゃんが転ぶたびに手を差し伸べて、起こすついでに抱きしめて奈乃ちゃんの香りを愉しんだ。


「もう……、いちいち抱きしめないで。恥ずかしいから」私の腕の中の奈乃ちゃんが抗議してくる。それでも奈乃ちゃんは、私が手を差し出すたびに手を取ってくる。


 私も何度か転んだ。初心者なんだから仕方ないわよね。

 どれ位スピード出せるか、試しに板を揃えて減速しないように滑降していたらコブで飛んでしまった。小さなコブは平気で飛び越えていたのだったけど、思ったより大きなコブを飛び越えてしまった。

 スピードが出すぎていたのか板が空気抵抗でズレてしまって、真っ直ぐに着地できなかった。

 強く雪面に打ち付けられて反動で転がる。スキー板が二つとも外れるほど強く転がった。


 あはは!

 スキーも意外と楽しいわね!


「雪穂ちゃん! 大丈夫?!」

 暫く雪の上で寝転がっていたら、暫くして奈乃ちゃんが慌てたように私のところまでやってきた。大分後ろに置いてきてしまっていたようだった。


 奈乃ちゃんが手を差し伸べてくる。

 私はその手を取る。

 私を引っ張って起こそうとした奈乃ちゃんの力が足りずにバランスを崩して倒れ込んできた。

 奈乃ちゃんを受け止める。

 ついでに覆いかぶさってきた奈乃ちゃんを抱きしめた。

「ちょっと、雪穂ちゃん」

 私の腕の中で奈乃ちゃんがジタバタして逃れようとする。

 小動物みたいで可愛いわね。


 奈乃ちゃんの頭を掴んでキスをした。


「ちょっと、人前でやめてよ」ムッとした奈乃ちゃんも可愛い。

 一瞬だったから誰もみてないわよ。

 見られていても構わないし。

 もう一度抱きしめる。

「だから人前ではやめてって……」

「なら続きはホテルで、ね」

 立ち上がって、奈乃ちゃんを引き起こす。

 奈乃ちゃんは恥ずかしそうに下を向いてしまった。


 リフトで上まで登る。

「上級コースに行ってみない?」私は奈乃ちゃんにそう提案してみた。

 スキーにも慣れてきたから、上級コースも試してみたい。

「え?」奈乃ちゃんは戸惑った表情を浮かべた。

 乗り気じゃないのかしら?


「私、今でも結構怖いんだけど……。上級コースなんてムリだよ」

 あ、そうか……。


「行ってみたいなら、雪穂ちゃん行ってきたら? 下で待ち合わせしよ?」奈乃ちゃんが笑顔で勧めてくる。

 どうしたものかしら?


 せっかくスキーに来たのだから、自分がどれほど滑れるのか試してみたい。

 上級コースと言うのだから、きっとさっきよりもスリルがあるのだろう。

 一回くらいなら、奈乃ちゃんと別行動をしてもいいかなとも思った。


 でも……。


 秋に紅葉の撮影旅行したときに奈乃ちゃんは、「雪穂ちゃんともっと色んな所に行きたい! 」と言った。私が親に連れられて旅行に行った経験がないことに気を使ってくれたのだと思う。

 今回も私がスキーなんてしたことない事をわかっていて体験させようとしたのだろう。

 だったら上級コースにチャレンジする事は奈乃ちゃんの気遣いに沿っているのかもしれない。


「やめておくわ」

 奈乃ちゃんは意外そうな顔をする。

「私はスキーがしたいのではないのよ? 奈乃ちゃんと一緒に遊びたいだけよ」


 奈乃ちゃんは少しほうけた顔をしてから笑った。「遠慮しなくていいのに」

 遠慮なんてしてないわ。そもそもスキーに来たかったのではなくて、撮影旅行に来たのだもの。


 そうね、撮影ね。

 機材はホテルに置いてある。


 スマホを取り出す。

「せっかくだから写真撮ろうか?」

「うん」

 二人で身を寄せ合って、眼下を見下ろす構図で自撮りした。

 笑ってピースサインをする奈乃ちゃんを可愛く撮れた。


 ただのスナップ写真だ。

 この程度の写真でも良いんだと思えた。






読んでくれてありがとうございます。

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