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第86話 年賀の挨拶


 高瀬雪穂はパートナーの柏木奈乃と共に、江島貴史の家を訪問していた。正月三が日を過ぎてまだ学校は冬休みの期間。


 振袖の奈乃ちゃんの撮影会の帰り、奈乃ちゃんが振袖を江島くんに見せたがったからだ。


「おう。上がれ」出迎えた江島くんはヨレヨレの灰色のスウェットを着て、髪の毛もボサボサなら無精髭も伸びていた。疲れた顔で目の下にくまも作っている。

 顔すら洗ってないわね。とても人前に出せる姿ではなかった。


 流石に奈乃ちゃんも幻滅するのでは? と思って奈乃ちゃんに目を向けたが、何故か嬉しそうな表情で江島くんを見つめていた。


「適当に座れ」居間に通した江島くんは、そう言って真っ先にソファーに倒れ込むように座った。

 私はL字に配された別のソファーに腰掛ける。

 奈乃ちゃんはソファーに座らず、江島くんの前の床に膝をついた。そして膝立ちのまま江島くんを覗き込む。

「寝てないの?」

「あ? 寝たぞ」目を瞑ったまま面倒そうにそう返す。

「何時に寝た?」

「あー、何時だったかな?」

 あ、寝てないわね。


「曲作ってたの?」

「ああ」

「ちゃんと寝ないとだめだよ、ね」奈乃ちゃんは心配そうに江島くんの体に手を添えようとして、そして触れずに留まった。

 目を閉じている江島くんはその事に気づかない。

「あ」思いついたように江島くんが目を開ける。

 ビクッとしたように、慌てて奈乃ちゃんが手を引っ込める。江島くんはそれにも気づかない。


「なんか飲むか?」

「いいよ。私、淹れるよ?」

「お、そうか」そう言って再び目を閉じる。「インスタントコーヒーが冷蔵庫の上に有ったかな。コップは棚にある来客用を適当に使え」

「うん」奈乃ちゃんが機嫌良さそうに立ち上がる。


 何なの? この二人。


「冬休み中、曲作ってたのかしら?」奈乃ちゃんが席を外したので二人になった。

 奈乃ちゃんは台所で嬉しそうに食器の場所を確認している。


「まとまった時間があるからな」江島くんは目を閉じたまま答える。

「進捗は?」

「3曲。後で柏木にデモと歌詞を渡す。高瀬の作業はもうちょっと先だな」

「いきなり3曲も?」

「ストックだ。いっぺんに動画を上げろと言わない」

 別に構わないけどね。


「ライブやるぞ。新曲で」

「そう」

「高瀬も新曲あるならだせ」

「まだ完成していないわ」新曲なら作っている。

 江島くんはしばらくの沈黙の後、「やっぱ作ってんだな」と呟いた。


 何か私の曲に不満があるのかしら?

「サークルの曲と傾向が違いすぎるかしら?」

「構わねーだろ。好きなように作れ。客に聴かせられるレベルなら使うだけだ」


 江島くんは私が評価して欲しいことを、ちゃんと評価してくれる。私が江島くんの思う基準をクリアできると信じてくれている。


「なあ、高瀬は歌詞は書かないのか?」

「歌詞はね……。書けそうにないわね」

「ふーん。……、裸になるのが怖いんだな」

「そうよ。悪い?」軽く流すつもりが冷たい声になった。

「やっぱ高瀬はそっちのほうがいいぞ」江島くんは私の言葉に怯むことなく、寧ろそれを予想していたように平然と答えた。

「愛想笑いやめて、トゲトゲギラギラしてたほうが高瀬らしいけどな」

 そんなふうに見えてる? 確かに外面は作っている自覚はあるけど。


「ギラギラって何よ」

「そのまんまだろ。欲しいものは手に入れないと気がすまない」

「なにそれ、私って嫌な奴って事かしら?」

「魅力的な良い女ってことだろ」

 やはり江島くんはズレている。


 良い女、は何の褒め言葉にもならない。

 それに私は、私の本当に欲しいものは決して手に入らないことぐらいはわかっている。


「今日は初詣か?」話を変えてきた。

「そうよ。奈乃ちゃんと3回目の初詣」

「何だそれ。どんだけ神頼みしてんだ」そう言って笑った。

 私もつられて笑う。確かに神頼みしすぎね。

「江島くんは? 初詣行った?」

「いや。どこにも出かけてないな」

 え?


「もしかして冬休み中、曲に作ってた?」

「そうだな」

「寝ないで?」

「寝てるって」

「……、1日何時間?」

「……、いや、気づいたら寝てる感じかな」

 それ、気を失っているだけでは?

 私も作業し出すといつもそうなるからわかる。


「流石に何日もそれは体壊すわよ」

「高瀬も変わんねーだろ」

「それはそうだけど……。ちょっと度が過ぎているわ」

「あ? お前みたいに正月中彼氏とイチャイチャしてる余裕ねーんだよ」目を開けて私を見る。からかっているような言い方だったが、全く冗談を言っている目では無かった。

「何それ」私も冗談だった事にする声にはならなかった。


「お前みたいに適当に面白そうなことに手を出して、音楽も、写真も、あっさりと評価取ってくような天才とは違うんだよ!」

「江島くん!」

 奈乃ちゃんが台所から飛び出てきた。


「やめよ? そういうこと言うのやめようよ」奈乃ちゃんは江島くんの前に膝をついて、そして労るように彼の腿に手を添える。

 奈乃ちゃんは、私をかばってくれた?


「寝不足で疲れてるんだよ。無理しないでちゃんと寝て。ね?」

 江島くんは驚いたように奈乃ちゃんを見て、そして憑き物が落ちたように柔らかく笑った。

「悪い。いつも気を使ってもらってたんだな。ありがとう」そう言って奈乃ちゃんの頭を撫でた。

 奈乃ちゃんは嬉しそうに頭を撫でられていた。


 何? 奈乃ちゃんが庇ったのは江島くんなの?



 奈乃ちゃんはコーヒーをみんなに配った。

 何も言っていないのに、私にはミルクと砂糖入り。江島くんにはミルクだけ。

 そして奈乃ちゃんはいつものようにブラックコーヒーを苦そうに飲む。


 奈乃ちゃんは江島くんの前に正座していた。


「ねえ。そんな方より言うことないの?」奈乃ちゃんは拗ねたように江島くんに言う。

「あ?」

「ずっと待ってんだけど」

「ああ、そういえば今日も変わったカッコしてんな」

「今日もって何?」可愛く頬を膨らます。

 江島くんは笑う。「何? 今日は? 七五三か?」

「違うもん! ひどいよー!」コーヒーの入ったカップをトレイに置いてから、胸の前で両手でグーを作ってジタバタさせる。


 え? 何そのわかりやすい可愛い怒っているアピール……。


「嘘だよ。振袖だろ? 綺麗だよ」そう言って江島くんは楽しそうに笑う。


 え? 今の、振袖が綺麗って意味よね?


 拗ねているアピールをしていた奈乃ちゃんの動きが止まる。

「ん? どうした柏木?」

 奈乃ちゃんは何か言葉にしようとして、何も言わずに顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「あ? 俺、変なこと言ったか?」江島くんも思いがけない反応だったのか戸惑っている。


 何なの? この二人……。




まじか……

投稿するの忘れてた……

アホなんでしょうか私……

気づいて読んでくれたあなた、ありがとうございます。

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