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第85話 バナナを咥えるのはエッチですか?


 今日も柏木奈乃は晴れ着を着ていた。

 昨日はクラスのみんなと初詣に行くときに着たけど、その話をしたら雪穂ちゃんが拗ねてしまった。仕方ないから今日も振袖を着ることになった。

 着付け屋さんのお代は雪穂ちゃんに出してもらったけど。


 朝から写真撮影会になった。

 雪穂ちゃん家の普段来客のない客間は撮影スタジオと化している。スクリーンも照明もいつの間にか増えていた。


 着付け代を出してもらったのだからモデルをするのは仕方ない。普段から関係なくモデルをさせられているけど。

 振袖の撮影会で良かったことが一つだけある。

 脱がなくても良いことかな。

 いつもならセミヌード位まではさせられているけど、着物を一度脱いだら自分で着る自信がない。流石の雪穂ちゃんも着付けはできないようだ。


 カメラマンモードの雪穂ちゃんに逆らうのは怖いから、言われるがままに恥ずかしい格好やポーズをさせられる。

 一応雪穂ちゃんにも理性らしいものはあるらしく、芸術写真の範囲内らしい。と言っても私には芸術とエロの区別なんかつかない。ただの恥ずかしい写真だ。

 誰にも見せずに雪穂ちゃんが一人で使う分には構わないかな。


 江島くんが曲を作っているサークルのMVには私をモデルに使うけど、自分のMVやコンクール用の写真には私を使わない。


 雪穂ちゃんはカッコよくて凄く美人だけど、私みたいなのはかっこ悪くて外に出せないよね……。



 雪穂ちゃんの家でのスタジオ撮影の後、神社でも野外撮影をした。

 クラス会で行ったほどは大きな神社ではないけど、大晦日に行ったほど小さな氏神様でもない。

 モデル撮影ができないほど混雑していない、程よく正月らしい神社だった。


「奈乃ちゃん、大丈夫? 疲れてない?」

「うん。大丈夫だよ」慣れない着物で2日続けて歩くのはしんどい。振袖に合わせた草履高の高い草履は歩きにくいし鼻緒が擦れて痛かった。


 雪穂ちゃんは正月のときと同じフォーマルな装いだった。でも和装に比べたら洋装は楽でいいよね。

 雪穂ちゃんは胸の膨らみがなくなるシャツを着ている上にごっつい黒のコートをきっちりと着ているから体型が見えない。短髪を固めた髪型で男性にしか見えない。

 もともと男性の平均身長はあるから、女性の平均身長程度しかない私となら、普通のカップル、に見えるかな。


「ちょっと休憩する? おやつ買ってあげる」そう言って私の返事も待たずに屋台でチョコレートでコーティングされた串刺しバナナを買った。

 クラス会で初詣に行った神社は屋台なんかなかったけど、ここの神社は参道に屋台が連なっている。

「はい、どうぞ」雪穂ちゃんは自分の分を買わずに私の分だけ買ってきた。

「ありがとう」できるだけ嬉しそうに受け取る。さっきからおやつを何個も食べてそんなにお腹が空いてない。


 雪穂ちゃんは私のおやつを選ぶとき、何でか私の意見を訊かずに細長いものばかり選んでくる。

 今日は串にさしたフランクフルトに、串にさしたきゅうりの漬物に、今度は串にさしたチョコバナナか……。

 皿とかいらなくて食べやすいのだけどね。何なの? このチョイス?

 そして雪穂ちゃんは食べているところをやたらと写真に撮っててくる。何ならむっちゃ連写してくる。

「待って、撮らせて」

 バナナを持ったままカメラに目線を向ける。

「咥えてるとこ」

 指示されたようにバナナを咥えるだけにする。

 食べることもできずにバナナを咥えたまま雪穂ちゃんが写真を撮り終えるまで待つ。


 通りすがりの人に、ギョッとした顔で見られた。

 何? 私、そんなに変なことしてる?


「雪穂ちゃん、食べてるとこ写真に撮られるの恥ずかしいんだけど……」

「とても、可愛いわよ? どうぞ食べて」

 食べようとして手を止めた。

 ちょっと仕返ししたい。


「はい」雪穂ちゃんの口元にバナナを差し出す。

「え?」

「雪穂ちゃんも一緒に食べよ?」

「え? 私はいいわよ。奈乃ちゃんが食べて」

「はい、あーん」

「いいわよ、そんなはしたない事できないわ」本気で嫌がってくる。

 ふーん、はしたないって思ってること私にはさせるくせに。

 私が恥ずかしがれば恥ずかしがるほど、雪穂ちゃんは楽しそうだよね、いつも。


「だめ。はい、あーん」

 雪穂ちゃんは、周りを気にしてキョロキョロしてから、いきなりバナナの端っこだけかぶりついて直ぐに離れた。

 急に顔を寄せられてビックリした。


 雪穂ちゃん大きいから、急に近づかれると怖いよ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 高瀬雪穂は口元に差し出されたチョコバナナに困惑していた。


 今日も奈乃ちゃんは可愛い。

 振袖の奈乃ちゃんはいつもよりお淑やかに見える。ただし黙っているときだけだけどね。

 いつも通りクリクリと変る表情は小動物みたいでとても可愛い。


 昨日の夜に奈乃ちゃんからクラス会の話を聞いた。

 クラス会があることは聞いていた。同じクラスでないことがとても悔やまれる。いつものことだけど。

 電話で振袖を着ていったと聞いたときには怒りで叫びだしそうになった。もちろん声に出さなかったわよ。

 でも急に奈乃ちゃんはオドオドしだして、明日も振袖を着たいって言い出した。

「着付けのお金はだしてあげるから、写真撮らせてくれる?」


 奈乃ちゃんが明日も振袖を着たいなら、着付け代くらい出すわよ。写真を撮らせてもらう事を条件にして私がお金を出す口実を作り、奈乃ちゃんに借りを作らせないようにした。

 もちろんレアな振袖の奈乃ちゃんが見れるなら安いものだ。


 奈乃ちゃんの振袖はピンクに大きな花柄でとても可愛いものだった。少し幼いデザインな気もするけど、奈乃ちゃんに似合っているからいいか。

 レースの半襟も補色に合わせた重ね衿も可愛い。

 ちょっとゴージャスなバックや草履やショールは背伸びした子供みたいで微笑ましい。

 つまりとても可愛い。


 写真スタジオに改装した床の間で撮影する。どうせ来客を迎えることなんかないから、好きに部屋を改装した。

 可愛い奈乃ちゃんを好きなだけフレームに収める。


 乱れた和服とかもなかなか扇情的な写真になりそうとかも思ったけど、その後が困るので撮るのを諦めた。

 奈乃ちゃんの写真は誰にも見せない。私が撮った奈乃ちゃんはとても可愛い。一番可愛く見えるように撮っているから。

 可愛い奈乃ちゃんは誰にも見せたくない。私だけの奈乃ちゃんだから!


 江島くんの作った曲のMVは奈乃ちゃんをモデルにしている。奈乃ちゃんがボーカルだというのもあるし、江島くんの世界観を表すのに最適だと思ったから。

 その代わり明らかに奈乃ちゃんだとわかるようには見せていない。江島くんがアイドル売りに否定的なこともあるし、世界観にも合わない。

 何より奈乃ちゃんがとても可愛い事をネットで配信することは私が嫌だ。

 可愛い奈乃ちゃんは私だけのものだから。


 仮スタジオの撮影の後、近くにある大きめの神社に場所を移した。

 奈乃ちゃんは意外と丁寧に参拝する。いったい何をお願いしているのかしら?


 撮影の合間におやつを買ってあげる。これも撮影の小物になる。

 だって細長い食べ物をハムハムする奈乃ちゃんは小動物みたいでとても可愛いから!


 チョコバナナを咥える奈乃ちゃんはリスとかハムスターとか、そんな愛玩動物みたい。

「雪穂ちゃん」

「何?」

「何かエッチ」

「ええ??」

 どうして??

 奈乃ちゃんは可愛く口をとがらせてそっぽを向く。ええ、可愛すぎるわ!


「はい、あーん」

 チョコバナナを差し出される。こんなジャンクな食べ物にかぶりつくなんてはしたないことできないわ。

 私は注目されることに慣れている。つまり通りすがりの人にだって、ジロジロ見られたりする。あまり人前で変なことはしたくない。


 学校の女子の制服を着ているときは男の人によく見られる。私服の時は女の人に見られることが多くなった。別に悪い気はしないけど。


 とても可愛くて、何故か悪目立ちすることばかりする奈乃ちゃんと一緒のときはなかなか気が抜けない。

 周りを確認してから素早くチョコバナナを一口齧った。

 ビックリして目を見開いた奈乃ちゃんの顔を写真に撮れればよかったのに、と思った。



「江島くんとこに行こ?」神社からの帰り道、奈乃ちゃんが思いついたように言った。

「江島くん?」

「お正月の挨拶してないから、ね」媚を売るように言ってくる。とても素敵な微笑みを向けてきた。


 思いつきで言ったように聞こえるように、十分タイミングを計った提案だ。

 何故江島くんに?


 振袖か……。振袖を江島くんに見せたいんだ。

 なにか黒いものが胸の中に降りてくる。


「雪穂ちゃん?」奈乃ちゃんが足を止めて私を覗き込んでくる。

 いえ、先に足を止めたのは私か。

 奈乃ちゃんは体を強張らせて、怯えたような目で私を見ている。


「そうね。連絡してからにしましょう」できるだけ安心させるように柔らかい微笑みを作ったつもりだった。

 江島くんは私達のサークルメンバーで、私達3人で会うことになんらおかしなところはない。


 江島くんは私と二人きりになることを避けるようにとても気を使ってくれる。

 ズレてるのよね。江島くんは。




読んてくれてありがとう。

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