第101話 修学旅行の班決めとか苦痛でしかない
高瀬雪穂はいつも通りクラスメイトに囲まれていた。
「3年で修学旅行って珍しいよね」
「普通、2年とか、下手したら1年のうちにあるみたいだし」
今日の話題は修学旅行だ。
4月に入ってから修学旅行がある。みんなの話では、進学校で3年次に修学旅行がある学校は珍しいらしい。
別に興味はない。
だって、奈乃ちゃんとクラスが違うのだもの!
奈乃ちゃんがクラスメイトと楽しそうにしているのを遠くから見ているしかないなんて、つまらない。
奈乃ちゃんは学校で、男子用の制服を着ているときは何か変なキャラ作りをしているからちょっと戸惑うけど。
「部屋にバスルームあるのに大浴場なの?」
え? 大浴場?
「ん? 雪穂、何かあった? 大浴場嫌いなの?」
「え? どうして?」私、おかしな反応してしまったかしら?
「高瀬さんは温泉とか行かないの?」
温泉なら奈乃ちゃんと行ったわね。あのときは部屋風呂だったけど。
「あ……、私、あまり大勢でお風呂とか行ったことないのよ」
「雪穂、私とお風呂に入りたくないの?」
二人なったときに志歩が詰めてきた。
男の人にそういう目で見られるのは慣れてるけど、たまに志歩もそんな目で私を見るのよね。
「そんなわけ無いでしょ?」私はにこやかに答える。
でも、文化祭の劇のようなことは御免だわ。いきなりキスするとか、今でも怒ってるのよ?
「班決めどうする? 私と雪穂と、あと誰か入れたい?」放課後、志歩と二人で入ったカフェでの会話。私と志歩が同じ班なのは確定なのね。構わないけど。
「志歩に任せるわ」私が出しゃばるとろくな事にならない。
「楽しみじゃないの?」
「そう言うことではないのよ。揉め事はごめんだわ」
「そうね」志歩は頷く。「雪穂の取り合いでケンカになると面倒だものね」
ため息が出る。冗談みたいだけど、本当に過去にあった。
「雪穂の八方美人が原因だけどね」
「そんなつもりは無いのだけどね」嫌われたくないと思うのは普通ではなくて?
「男子を選ぶのは簡単なんだけどね」
そうなんだ。興味ない。
「入れたい女子はいる?」
奈乃ちゃん!
「だから任せるわよ」
志歩は短くため息をつく。
「じゃあ適当に見繕っておくね」
「お願い」
「部屋割りも班も全部私と同じでいいよね」
「いつもそうでしょ?」
志歩はそれに答えずに黙る。
? 何?
「ねえ」さっきまでと違って志歩の声が硬い。「柏木と付き合ってるの?」
気づいていても気づいていないフリを通すのかと思ってた。
「……」何と答えよう?
志歩は私を見ることなく黙って返事を待っている。
「そうよ」
「……。そう」また黙る。
私も黙ったまま、私を見ない志歩を見ていた。
「男がいいんだ……、あんな男が」とってつけたように、あんな男、と言い直した。
これは返事しにくい。
泊まりがけの修学旅行なんて別に行きたくもない。機材がないからその間、作業ができない。
奈乃ちゃんと抜け出せる時間がつくれたら楽しいのでしょうけど、私も奈乃ちゃんもクラスメイトの目から自由にさせてもらえることは多分無いわね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なあ、貴史。何とか時間作れないのか?」
江島貴史は連れの下らないお願いを苦笑しながら聞いていた。
昼休みの教室。俺はいつもの二人とだべっていた。
なかなかに軽薄な奴らだが、見た目で避けられやすい俺と普通に付き合える数少ない連れだ。
「高瀬さん誘ってくれよ」
うざい。
連れは修学旅行の自由行動や自由時間に高瀬を呼び出せと言っているのだ。
いや、高瀬はムリだろ。高瀬のクラスのヤツらが、あいつを自由にさせるわけがない。
そもそもが修学旅行に特別行きたいわけじゃない。そんな時間があるなら作業をしたい。
でもまあ、最近煮詰まっていたからインプットも必要か。
柏木や高瀬ばかり相手にしてるのも視野が狭くなる。
そういう意味でも高瀬を誘うのは無いな。修学旅行中まで高瀬の顔を見たくはない。
俺とあいつの投稿した曲の再生数の彼我を見るたびに、才能の差を思い知らされる。
「学校行事まで高瀬と顔つき合わせたくねーよ。何だお前ら。俺と遊ぶのより、美人と遊びたいって言うのか?」
「そりゃそーだろ!」
おう。それはそうだな。
「なー、高瀬さん呼んでくれよー」
しつこいな。
「呼んだかしら?」
思いがけず話に割り込まれて驚いた。
見上げると高瀬が立っていた。
連れの二人は話題にしていた美人が突然現れたことにびっくりして固まっていた。
「おう。呼んでない」
「私の名前が出ていたようだけど?」
「いや、学校のアイドルの話をしていただけだ」
「やっぱり私の話ししていたのね」
この自意識の高さはクリエイターとして悪くない。
だが、高瀬雪穂という人間の話はしていない。高瀬雪穂と呼ばれる偶像の話をしていただけだ。
高瀬は勝手にイスを引き寄せて、俺たちが囲んでいた机の空いている一辺に座る。
最近はいちいち俺を呼び出したり、断りを入れたりしないようになった。面倒くさくなくて良いのだが、俺のところに来る頻度が上がったのはやはり面倒くさい。
とくに周りの視線がな。みんな高瀬を見てるのだろうが、俺まで見られてる気がして居心地悪い。
「こんにちは、高瀬さん」
「こんにちは、押しかけてきてごめんなさいね」
連れのあいさつを高瀬はにこやかに返す。
「で、何かまた嫌なことでもあったのか?」
高瀬はちょっと驚いた顔をした。いや、いつもお前、嫌なことがあったときに来るだろ。
「別にないわよ? 江島くんと話ししたいかなと思っただけよ?」そうにっこりと美少女顔を俺に向ける。いや、そういう事すると大抵の男は勘違いするからやめろ。
実際連れ二人が嫉妬の目を俺に向ける。
いや、こいつのこの笑顔は作り物だから騙されるな。
「で、ホントは何かあんだろ」
「んー。別にないかな。用事もないのだけどね」
言語化できないモヤモヤなのか?
「江島くんって優しいわよね。見た目と違って」そう言って本当に笑顔を向けた。
見てる分にはいい女だよな。
でも、こいつは俺の心を殺す千の音楽を紡ぐ。
「それで、何を話をしていたのかしら? 私のこと?」高瀬は連れに話を振る。
「あ、修学旅行の自由時間に高瀬さんも誘おうって言ってたんだ」
お、積極的だな。修学旅行は特別感あるからな。
「え? 私と?」
高瀬は驚いたように言うが、どうせこの手の誘いはあしらい慣れてるだろ。
「えっと……。江島くんからお友達を取ってしまうようなことになるんだけど、良いのかしら?」困ったように俺を見る。
二人の誘いを断る口実というよりも、俺に気を使っているような口ぶりだった。
何だ。俺は友達が少ないって言いたいのか?
「彼女のいない灰色の高校生が、修学旅行で美少女との青春の思い出を作りたいっていう妄想だ。気にすんな」思ったより不機嫌な声音になった。冗談っぽく言うつもりだったんだけどな。
「あ、高瀬さん友達多いからそんな時間取れないよね。気にしないで」
「そうそう、本気にしないでいいから」
二人は慌てて話を終わらせる。
高瀬が生暖かい目で俺を見た。
うっとうしいなお前ら。クラスで馴染めてないだけで、音楽繋がりの友人なら軽音部にも学外の音楽関係にもそれなりにいるからな!
「あ、高瀬さんのMV観たよ」連れがあからさまに話題を変える。
「そう。ありがとう。どうだったかしら?」
「相変わらず曲の良し悪しはわからないけど」
まあ、高瀬の曲は玄人受けで大衆向けじゃないよな。それでも俺の曲より再生数の伸びは良い。リピーターが多いのだろう。
「MVのシンクロやばい」
「そうそう。トリップしそう」
「トリップするの?」高瀬は楽しそうに笑う。狙い通りの感想なんだろう。
二人は良いところだけ探して、取り敢えず高瀬が喜びそうな事ばかり言う。高瀬は社交辞令半分に聞いているだろうが、褒められて嬉しくないクリエイターはいない。
二人が他人の評価に乗っかった評価をせず、拙くても自分の言葉で感想を言っているのが高瀬の好感度を上げているのだろう。
前に二人には作品の感想だけを言えと注意したことがある。ちゃんと守れるところが美徳だな。
再生数とかを引き合いに褒めたりしたら、一気に高瀬は不機嫌になるだろう。
もしかしたら、俺の曲の再生数が高瀬より少ない事を知っていて言わないようにしているだけか?
そんなの見たらわかるもんな。
上機嫌で二人との会話で盛り上がる高瀬の笑顔が眩しくて……、
見ていたくなかった。
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