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ドレッドノート アルアインが倒されたという通知を受け、不穏な色に染まっていたウィンジストリアの空気は一転、お祭りのような雰囲気に包まれた。それは、真達が三日後にアクレスから帰ってきた時も続いていた。


キスクの街での騒ぎを知らない、華凛以外の『フォーチュン キャット』のメンバーはその異様と言っても過言ではない盛り上がりように気圧され、ウィンジストリアでゆっくりと過ごそうという計画も、落ち着かないまま時間だけが経過する羽目になってしまった。


とは言え、流石に一週間もすればお祭り騒ぎも収束に向かう。普段の街の様相に戻ると人々は慣れてきたゲーム化した世界での生活を営み始める。


それでも、誰がドレッドノート アルアインを倒したのかという話は暫くの間話題として挙がっていた。結論は、やはりインヴィジブル フォースは実在し、ドレッドノート アルアインを倒すための作戦を計画していたというところに着地点を見つけることとなったのである。


当然のことながら、インヴィジブル フォースは謎の組織。誰もその姿を確認することはできていない。だから、ドレッドノート アルアインを倒した特殊部隊がどこにいるのかも謎。誰なのかも謎。ただ、屈強な男達の精鋭部隊であるということだけが、見えない部隊の唯一の手掛かりであった。


そして、ドレッドノート アルアインが討伐された通知があってから二カ月ほどが経過した正午前、真がギルドマスターを務める『フォーチュン キャット』のメンバー五人は揃って早めの昼食を摂るためにウィンジストリアにある一軒のレストランに来ていた。


街の中心からは外れた場所にあるレストランであるが、メニューは豊富で値段も安い。店内は煩雑としているが大衆食堂のような気楽さで使うことができるため、早めに入らないと満員で入れない時もある人気店だ。


真達は最近よくこの店を使うようになった。最初に来た頃はそこまで混雑しているわけでもなかったが、しょっちゅう使っている内に段々と店が混むようになってきた。


「俺は羊のローストでいいや」


真は赤黒い髪の毛の後ろに手を組んで、メニューも見ずに注文を決めた。


「また、真は肉ばっかり! 野菜も食べないとダメなんだからね!」


真の隣に座っている美月がいつも同じものばかり食べている真に苦言を呈する。茶色いミドルロングの髪の毛をしており、あどけなさの残る顔立ちだが、奇麗に整った顔は、こういうお節介を焼くときは少しだけ大人びて見える。


「……」


そんな真と美月のやりとりをじっと見ているのは華凛だった。長いシルバーグレイの髪の毛をしたハーフの少女。こちらも奇麗な顔立ちをしているが、今は何やら気になることがあるようで、黙って真の方を見ている。


「なんだよ、華凛? お前も野菜を喰えって言いたいのかよ?」


メニューを持っているが、それを見ずにじっと真の方を見ている華凛の視線に気が付いた真が声をかけた。


「えっ!? べ、べべ、別に、別に、真君と話じゃなくて、その、そうよ! や、野菜を食べないと……私は、このジャガイモとチーズの香草グラタンにするから!」


華凛はメニューに顔を埋めながら声を上げているため、表情が赤くなっていることは真からは見えない。


「まぁ、ジャガイモも野菜だけどさ……」


野菜を食べろと言っておきながら、どちらかと言えばヘルシーなメニューとは言えない注文にどう返答していいかも分からず、真はとりあえずサラダも頼むことにした。


華凛がギルド『フォーチュン キャット』に加入してから二カ月が経つ。ドレッドノート アルアインの一件の時は険悪な雰囲気だった華凛と他の女子連中も今では仲良く打ち解けている。だが、華凛は真にはあまり近づくことができずにいた。


華凛と最初に会った時のように真を篭絡しようというような様子は一切なく、真と話をしても目線を合わすこができず、すぐに反発するようなことを言ってしまう。ただ、それが悪意のある様なものではないので関係が悪くなるようなことはなかったし、真も子供が大人に対して我儘を言っている程度に認識していた。


「あ、それいいわね。私もそれにする!」


華凛の横に座っている翼がいつも通り機嫌のいい声を上げる。肩まで伸ばした紺色の癖毛が特徴的な翼は華凛との関係が一番好転していた。一時期は一触即発の空気にまで発展したが、大事な友達を殺された華凛の気持ちに納得し、心を許している。


「ウィンジストリアってシーフードがないのが寂しいですよね……」


長い黒髪に眼鏡をかけた彩音が少し残念そうに呟く。高原にある街なのだから海の幸に乏しいのは仕方のないことだ。それでも淡水魚を食べることはできるので、大きな問題という程ではない。


「なんか、すっごい混んできたから、さっさと注文して、さっさと食べてしまおうぜ」


ふと店内を見渡した真が騒めきに気が付いて声を上げた。決して狭い店内というわけではないが、もうすぐ正午ということもあり、かなりの人数が店にやってきている。よく見れば、そのほとんどが男なのだが、そのことに真は気が付いていない。


「この店……しばらく使わない方が良いかもね……」


華凛が嘆息気味にぽつりと呟いた。


「なんでだ? って、まぁもっと空いてる店の方がいいか」


混んでいるから使わないっていうのは勿体ない気もするが、並ぶのは嫌なので仕方がない。とは言っても、安くて美味い店を手放すのはやはり勿体ない。


「いや、そうじゃなくて……まぁ、そういうことでもいいわ……」


店が混んでいる理由は安くて美味いというだけではないことに気が付いている華凛が、まるで分かっていない真に若干呆れる。


美月、翼、彩音、華凛。タイプは違うが全員美少女だ。真は男なので美少女ではないにしても、真が男だということを知らなければ、見た目は赤黒いショートカットで気の強そうな美少女である。


そんな五人が目立たないわけがない。ドレッドノート アルアインも討伐され、精神的な余裕もある今の状況で、美少女五人がよく使っているレストランがあるのならば、行ってみたいと思うのは男の性であり、業であり、宿命でもある。


だから、こんな美少女の集団とお近づきになりたいと思う気持ちもあるが、まだ誰も声をかけてはいなかった。それは誰が最初に声をかけるかということで揉めていることが原因であった。


ギルドに加入している者が多く、ギルド内やギルド間でも男連中がこのことで揉めるようになり、各ギルドのマスターから自重するようにお達しが出ていることと、大きいギルドに至っては華凛と一悶着あったため静観する他ないというのも声をかけることができない要因であった。


そこまでの事情はさすがに華凛も知らないが、それでも男ばかりが周りを占拠しており、視線を集めていれば華凛は嫌でも気が付くことだ。


「むさ苦しいのは、確かにそうよね……」


何となくだが、店の中の雰囲気が他の店と違うような感じを受けた美月が違う店を使うことに賛同した時だった。


― 皆様、『World in birth Real Online』におきまして、本日正午にバージョンアップを実施いたします。 ―


店内の雑音を貫通して空から大音量の声が聞こえてきた。それは、いつも唐突にやってくるバージョンアップの告知。そして、いつものように声は続ける。


― 繰り返します。本日正午を持ちまして、『World in birth Real Online』のバージョンアップを実施いたします。バージョンアップの内容につきましては、皆様それぞれにメッセージを送付いたしますので、各自でご確認ください。 ―


ざわついていた店内が一瞬静まり返る。真達も表情が硬くなり、もうすぐやってくるバージョンアップの内容を記載されたメッセージを待ち構える。


もう、何度も経験していることだが、慣れることはない。どんな内容のバージョンアップが実施されるのかはこのメッセージを見ないと分からないし、見ても分からないことが多い。しかも、危険な内容であっても詳細が記載されていないために不明なことが多く、そのことで命を落とす危険性まで孕んでいるとなれば、緊張しない方がおかしい。


【メッセージが届きました】


頭の中に直接声が響き、目の間にレターのアイコンが浮かぶ。これは全員に共通しているもので、真だけでなく、他の全員も同じメッセージを受け取っている。


「内容を確認するぞ」


真は緊張した声でそう言うとメッセージを開封した。


【バージョンアップ案内。本日正午を持ちまして、『World in birth Real Online』のバージョンアップを実施いたしました。バージョンアップの内容は以下の通りです。


 1 新しいエリア、センシアル王国領を追加しました。


 2 対人戦エリアを三カ所追加しました。


 3 攻城戦を追加しました。


 攻城戦は対人戦エリア内にある拠点を制圧することで勝敗を決します。攻城戦に勝利したギルドが当該地域の支配権を取得することができるようになります】



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